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ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック その29:ブランメルのニードルアイブロウペンシル

 

 

 

※本記事はアフィリエイトリンクを含みます。

 

ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その29です。

 

前回と第1回はこちら。続き物ではないので1から読む必要はありません(読んでくれたら嬉しいけど!)。以前の内容を踏まえるときはリンクを貼ります。過去回一覧は記事末尾に貼っておきます。

 

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わたしはテストステロン投与(男性ホルモン治療)を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。

 

第29回となる今回は、ブランメル(BRUMMELL)のニードルアイブロウペンシルをレビューしていきます。

 

 

 

 

 

1.ブランドについて

 

ブランメルの公式ビジュアルにはBRUMMELL LONDONと書いてあるが、イギリスのブランドではなく正真正銘日本のブランドである。ブランドデビューは2023年8月。運営元である株式会社コムニコスのプレスリリース(ミドル世代の素肌を美しく仕立てる。 “テーラリング”の理念に基づくメンズ化粧品ブランド「BRUMMELL」誕生。2023年8月20日発売開始。 | 株式会社コムニコスのプレスリリース)によると、「現在のメンズスキンケア市場は、若年層向けの商品が多い中で、ミドル層男性向けのスキンケアアイテムを開発」とあり、中年男性向けのメンズコスメブランドであることがわかる。

そして、ロンドン要素はそのコンセプトにあった。

公式サイトはこちら。

 

brummell.jp

ブランメルは紳士のスタイルと品位を追求するための商品を取り扱っています。

英国で古くから受け継がれてきたテーラリングの思考と最新の美容知識が融合した我々のコスメティクスは、紳士たちの自信と魅力、時代にとらわれない個々のスタイルを最大限に活かすための合理的な提案です。

 

公式インスタグラムはこちら。

 

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そう、ブランメルは、イギリスの古式ゆかしい仕立て屋の世界観を売りにしているのである。

 

公式サイトのブランドストーリーの項目には、架空の39歳イギリス人男性「ジョン」の小話が掲載されている。少し長くなるが全文引用する。

 

舞台はイギリス・ロンドン。

200年を超える歴史の中でオーダーメイドの名門高級紳士服店が集結し
テーラリングの伝統を守り進化を続けてきた世界的に有名なストリート、通称“サヴィル・ロウ”。来年には自身40歳の年を迎える生粋のロンドンっ子のジョンは来月に予定されている英国王室主催の式典に着用していく衣装を持ち合わせていなかった。

パッと目についた美しいロイヤルグリーンのショウウィンドウ。

意を決した形相で足を踏み入れる。

 

サヴィル・ロウはロンドン中心部の実在の地名である。オーダーメイドの高級紳士服専門店が密集していることで有名で、こんにちにおいて「紳士」や「ジェントルマン」と聞いてイメージされる、威厳がありつつ物腰柔らかでクラシカルなスーツを着こなす上品な男性像の発信地と言ってよいだろう。文化的な影響力も大きい。007のジェームズ・ボンドは全世界的な「男らしさ」のイメージ形成に寄与したキャラクターだが、サヴィル・ロウで仕立てたスーツを着ていることになっている。近年では、2014年のスパイ映画『キングスマン』に登場する国際諜報組織が、表向きはサヴィル・ロウで紳士服店を装っているという設定であった。同作ではコリン・ファースやマーク・ストロングといったイギリスの名優がダンディなスーツ姿を披露している。

 

「何かお召し物をお探しで?」

いかにも職人という面立ちの老紳士が店の奥から歩み寄ってきた。

「はい。年相応の、それも品格漂う雰囲気を備えるスーツを探していまして。」

「承知致しました。それでは少々お待ちを。」

アウターヘブリディーズ諸島で受け継がれてきたツイード柄を施したシングル。イギリスの伝統のウィンドウペン柄が美しいビスコース生地のダブル。エレガントな装いが魅力的な英国最上級スタイルのスリーピース。どれも美しく仕立てられたまさに芸術作品のようなスーツたちに心を弾ませながらもどこか自分には分不相応だと感じてしまうジョン。

 

アウターヘブリディーズ諸島、ツイード柄、ウィンドウペン柄、ビスコースといった特有の名詞が世界観を盛り上げる。アウターヘブリディーズとはスコットランドの北西沖に位置する列島で、島の一つであるハリス島で採れたピュア・バージンウールを用いて職人が手織りするハリスツイードは最高級のツイードとして知られている。

 

試着した時に鏡越しに映る冴えない自分の表情がそれを物語っていた。

「目元のクマ」や「年相応のシミ」が浮かぶその自信のない顔つきに何かを悟ったテーラーがジョンに語りかける。

「お客様。我々のテーラーでは品格ある紳士を生み出すためのあらゆるアイテムを取り揃えています。

例えば…。」

衣装部屋の一角からおもむろに何かを取り出したテーラーが一言。

 

Cosmetics maketh Gentleman

 

「化粧品が紳士をつくる。」

この仕立屋の名はブランメル。

紳士の表情を仕立てる唯一無二のテーラー。

※公式サイトのこの部分は明らかなコピペミスで文章がぐちゃぐちゃになっているので、適当に直して転記しています。

 

自分自身が高級スーツに見劣りすると躊躇う客にテーラーがそっと差し出すのが、ブランメルの化粧品であるというわけだ。ユーザーの悩みを描いてからソリューションとして自社製品を出してくるのは王道の展開で、テレビでたまに見る、ちょっとした映画みたいに凝っているCMを思わせる。

"Cosmetics maketh Gentleman"の"maketh"は"makes"の古い言い方である。「化粧品が紳士を作る」。元ネタは英語の慣用句「Manners makes the man/礼節が人を作る」だろう。先述した映画『キングスマン』の字幕においては「マナーが紳士を作る」と訳され、クラシカルなスーツを着こなしたスパイたちがジェントルとは程遠い血沸き肉躍る暴力を振るうギャップが面白さとなっていた。

 

キングスマン(字幕版)

キングスマン(字幕版)

  • コリン・ファース
Amazon

 

過去のメンズコスメレビュー100本ノックでも述べてきたように、メンズコスメブランド各社は、従来女性のものとされてきた美容をいかに男性にも抵抗なく行ってもらうかに心血を注いでいる。最もよくある手法は、従来的な男性ジェンダーに親和的な事物のイメージをブランドコンセプトや商品名に引用することだ。複数のデータが示すように、美容に抵抗を感じる男性は年齢が上がるほど多くなる。そこで、ブランメルと同じように中年以上の男性をターゲットとするブランドは、イメージ形成にはとりわけリソースを注いでいると感じられる。

 

過去に取り上げた中年以上男性向けブランドを振り返ってみよう。30代以降の男性をターゲットとするKHAKI(カーキ)は、男性が紫外線を浴びるシチュエーションとして、日常的にあるはずの通勤通学や屋外仕事の場ではなく週末のレジャーの場を取り上げ、アウトドアスポーツを楽しむ写真を投稿するキャンペーンやアウトドアブランドとのコラボを展開した。ここには、アウトドアスポーツの「男らしい」ポジティブなイメージでもってスキンケアの「男らしくない」ネガティブなイメージを相殺する意図が感じられる。

 

 

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中高年男性向けのVARON(ヴァロン)は、運営元のサントリーが開発した独自の美容成分としてウイスキー樽エキスを配合した。ウイスキーの樽の原材料はブナ科広葉樹のヨーロッパナラだが、植物由来成分ではなくウイスキー樽エキスと呼ぶことで、ウイスキーを楽しむダンディな男性像を想起させる意図が感じられる。

 

 

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男らしさのイメージ形成で最も極端な形を取っているのはFigo(フィーゴ)であろう。化粧水の容器は蒸留酒携帯容器のスキットルを模したデザインである。メインビジュアルでは高級ホテルをロケ地とし、ロマンスグレーにひげの高齢男性がスーツを洒脱に着こなし高級腕時計を光らせている。そこに露出の高い服を着た美貌の歳下女性が絡む展開はあまりにも「(シスヘテロの)男の夢」であり、雑誌LEONに広告を出しているのも納得の、令和の世には滑稽とすら感じられる世界観である。女性モデルが白人ミックスなのも、洋雑誌に親しんだ世代の「白人のチャンネー」への幻想を汲んだキャスティングであろう。

 

 

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ブランメルもまた、ロンドンの老舗テーラードの「ダンディ」「紳士的」なイメージを引用して、中高年男性に希求しようとしていると思われる。Figoと同じく作り込みは見事であり、しかしたかがスキンケアにこれほど凝ったコンセプトが持ち出されること自体に滑稽さが漂うのも共通している。男性美容がまだまだハードル高い社会的風潮がある限り、わたしのようなすでに美容に慣れてしまった者が苦笑したくなろうとも、壮大なコンセプトのメンズコスメブランドは生まれ続けるであろう。もちろん、必要なのは社会を問うことであり、男性個人の内面や選択を嘲笑することではない。

 

 

 

2.商品について

ハードボイルド映画に出てきそうなスキットル容器が売りのFigoと同じく、ブランメルも、ロンドンの老舗テーラードのフィクショナルなイメージを反映した凝った容器をしている。商品をいくつか見ていこう。

化粧水であるハットトナーは、よく見ると金色の蓋がハットの形をしている。この円筒型タイプはトップハットと呼ばれるハットだ。

 

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公式の商品ページでは、本場の英国紳士(ブランドが想定している時代区分は不明)にとってハットは実用品であったとして、帽子のケアと肌のケアが重ねられている。

 

ハットは雨や強風から頭を守る役割や、日差しを遮る役割があり、イギリスの気候や文化に適した機能的なアイテムでした。そのため、英国紳士たちはハットを選び、手入れし、適切に着用することに一定の時間と労力を費やしました。ハットの手入れと同様、肌の手入れは紳士の外見の印象に大きな影響を与えます。健康で美しい肌は清潔感や魅力を引き出すことができます。適切に手入れされたハットがその美しさを保ち続けるように、肌も適切なケアを受けることで最良の状態を維持できます。

 

トップハットが本来実用品であったのは史実である。元々はビーバーの毛皮製の丈夫なもので、高い円筒型は落馬時に頭を保護する機能があった。しかし19世紀にはビーバーが乱獲によって減少したことでシルク製の優美なものに取って代わられ、身分や儀礼を表すファッションアイテムとしての意味合いを強めていった。こんにち日本人が想像するトップハットも、一昔前の英国紳士の礼装としてであろう。シルク製のハットにも頭部保護の役割はもちろんあるだろうが、第一目的は儀礼のためで、決して実用目的ではないはずだ。しかしここでは実用性が強調されている。これは、従来的に女性がやるものとされているスキンケアが「非実用的」であるという前提を含むのではないだろうか。スキンケアは「非実用的」で、「軟弱」ですらあるというイメージを男性が抱いていることを前提に、スキンケアは実は「実用的」であると説いて男性の抵抗感を軽減しようとしているのではないか。

 

フェイスパウダーのボタンンフェイスパウダーは、ポップアップで先行発売されたばかりの新作で、2024年2月現在オンラインショップにはまだ掲載されていない。

 

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こちらの容器はボタンの形をしていて、高級スーツらしさが漂っている。興味深いのは2色展開のカラーバリエーションを「標準肌向け」「日焼け肌向け」と呼称していることだ。一般的なベースメイクの色名は、「01 ライト」「02 ミディアム」などと濃淡を事務的に表したものが多い。濃い色を「日焼け肌向け」と明記することで、(女性の美容においては)一般的に美しいとされる「色白肌」ではないと自己認識している男性も興味を持ちやすくしているのかもしれない。

なお、男性美容においては「白くなりすぎたくない」という需要もあり、メンズ美容メディアが発信しているのもたまに見かける。

 

 

先述したKHAKIのブランド創設者の言葉にも、「やっぱり男は少しくらい焼けてたほうが、引き締まってかっこいいよね」というものがあった。色が白いのは、「なよなよしている」「女性みたい」だから忌避されるのだろう。しかし、メンズコスメレビュー100本ノックその26で取り上げたZ世代向けブランドのアンリクスは、「キメが細かく明るく透明感が漂うクールな印象の肌」を「繊冷肌」と名づけて推奨し、顔だけでなく首まで白くするパウダーを販売している。

 

 

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近年のブランドが目指している「美白」が必ずしも色の白さだけを志向するものではなく、明るさや透明感といった総合的な要素を持つことは過去記事にも書いたが、ここでよしとされているのは少なくとも「日焼け肌」ではない。男性が「少しくらい焼けてたほうが、引き締まってかっこいい」と感じるのか、「繊冷肌」に憧れるのかは、個人差や世代による差が大きそうだ。

 

 

 

3.ダンディズムの始祖、ボー・ブランメル

商品レビューに移る前に、もう少しだけブランド自体について触れておかねばならない。ほかならぬブランド名のことである。ブランメル(BRUMMELL)という名前の由来はプレスリリースで語られているが、読むまでもなく、英国紳士がコンセプトと聞いてピンとくる人も多いだろう。そう、由来は、ジョージ・ブライアン・ブランメル。ボー・ブランメル(Beau Brummell/伊達男ブランメル)の異名で19世紀初頭のイギリスの社交界を席捲し、ダンディズム(dandy)の始祖となった人物である。

 

 

ジョージ・ブライアン・ブランメルは1778年生まれ。同時代の有名人にはかのナポレオン(1769-1821)がいる。下級地主層の出自ながら父親の財でイートン・カレッジ(イギリス一の名門校)に通い、貴公子顔負けの立ち振る舞いで一目置かれる。時は18世紀後半の激動のヨーロッパ。アメリカ独立宣言が1776年、フランス革命が1789年、イギリスでは産業革命が進行していた時期である。貴族社会は破綻していたが文化的な影響力はまだ強く、イギリスの社交界ではヴェルサイユ宮殿風の派手なファッションが主流であった。ブランメルはそんな時代に、装飾を削ぎ落したシックなスタイルを貫いて一世を風靡したのである。仕立てのよさをなによりも重んじ、服は体型に沿ったジャストフィット。装飾品は懐中時計の鎖だけ。入浴しないのが当たり前だった時代に逆らって毎日の風呂とひげそりと歯磨きを欠かさず、香水はつけない。フロックコートは黒か紺、シャツは白と、色彩自体は地味だが、最高級の白さを求めてわざわざ郊外の清水で洗濯させる。ネッククロスを結ぶのに2時間を費やしたとか、パンツはタイトすぎて座ることもできなかったとか、伝説は枚挙に暇がない。そのストイックな美学は、現代でいうダンディズムの直接的な始祖であり、今に至るまで続く男性ファッションの規範になっているのだ(参考:ボーブランメル シンプルの系譜<4> - zeitgeist)。

 

毛皮をまとい大粒の宝石を散りばめた装いに比べると、素材や仕立てのよさはわかりやすく目を引くことはない。ボー・ブランメルの美学は、ファッションに常軌を逸したリソースを注ぎつつもそれを他者に気取られないことだった。彼の格言「街を歩いていて、人からあまりじろじろと見られているときは、君の服装は凝りすぎている(=失敗している)のだ」はあまりにも有名である。ブランメルの実際の服装はよく見ると現代のスーツスタイルとは異なる点も多いが、それでもメンズファッションの規範と謳われるのはその精神性こそが広く普及しているからだろう。「自然である」「馴染む」「『塗りバレ』しない」ことが最も尊ばれ、肌と同じ色のベースメイクアイテムばかりが豊富で、アイシャドウなどわかりやすく色を足すプラスアルファのアイテムがなかなか普及しないメンズコスメ業界の風潮もまた、ブランメルに源流があると言えるのではないだろうか。一般的な男性は美容にかまわないとされているが、ひげそりをしたことがない男性はほぼいないだろう。ひげの手入れは美容行動として改めて問題の俎上に上がることすらなく、当然の義務として男性の身だしなみに強固に組み込まれている。体臭への対処も、ケアを怠っているとされる男性がSNSで遠慮呵責なく罵倒される一方で、正しいケアを落ち着いて語らうことができる場は少ないのではないか。男性の美容行動の多くは、自分の身体一貫からひげや体臭や皮脂といった夾雑物を排してより高純度なゼロに近づけることを志向しているとわたしには感じられる。しかも、夾雑物を排するためにリソースを割いていることをあからさまにしてはいけないのである。努力を他者に悟られてはいけないが、もちろん怠ってひげがぼさぼさだったり臭かったりしてもいけない。悟られると、「男のくせに美容に汲々とする軟弱者」として白眼視されるが、怠って「清潔感がない」とされる状態になっても当然白眼視される。このダブルバインドは、女性ジェンダーの美容には少ない、男性ジェンダーの美容に顕著なものではないだろうか。

ひげも体臭も脂ぎった肌も、意志とは関係なく当たり前に発生するものだ。当たり前に生えてくるひげを毎朝毎朝几帳面になくし(あるいは大金かけて毛根をレーザーで焼き)、鼻毛をなくし、メンソールシャンプーで頭皮の皮脂をなくし、制汗剤で体臭をなくす。男性の肉体には喪失が義務づけられている。唯一「まとう」ことが許されているのは筋肉だけであろう。あとは、高級な腕時計ぐらいか。これも、ボー・ブランメルが装飾品を排し懐中時計の鎖しか許さなかったエピソードと重なる。

 

メンズコスメ業界にボー・ブランメルを引用したブランドが現れるのは必然だったのだろう。ちなみに、ブランメルのクリエイティブディレクターは小泉堅太郎。ブランドのコンセプト設計と商品デザインを担当しているとのこと。氏は高級ホテルのメズム東京のクリエイティブディレクターも兼任している。

 

kentarokoizumi.tokyo

 

なお、女性ジェンダーの美容について付け加えると、ひげや体臭(言うまでもないことだが女性の境遇である人にも体毛や体臭は発生するし、口周りの産毛がひげと呼べるくらいに濃い人もいる)の処理はしていることが前提でさらにプラスアルファの化粧を求められることも多いので、男性のほうが楽そうではある。しかし、女性が美容にリソースを注ぐこと、そしてそれをSNSなどでつまびらかにすることは「美意識が高い」などとおおむねポジティブに受け止められる一方で、男性が同じことをしたときの反応は必ずしもポジティブなものだけではない。もちろん、時代は変わりつつある。昨今は「美容男子」なるカテゴリーも知名度を得ており、自ら名乗って活動している若い男性も多い。しかし、「美容女子」とは決して言われないことからしても、美容を「引き受ける」男性はまだまだ異分子なのだ。しなければならないのにしているとばれてもいけないのは、やはり男性ジェンダーに顕著なストレスとして認識されるべきであると思う。

 

もちろん、美容行動を公言する女性に対しても、容姿端麗であると見なされれば「媚びている」、容姿端麗であると見なされなければ「ブスのくせに」、幼すぎると判断されれば「色気づいている」などとネガティブなジャッジが下される例は枚挙に暇がない。女性が障害を持っていた場合は、「色気づいている」というジャッジは障害者の恋愛・性愛へのスティグマと合わさってより差別的な色合いを強くする。女性がトランスジェンダーであれば、「ジェンダー規範を強化している」とバッシングされることもあるだろう。状況は簡単ではなく、一概に男性のほうが楽とも女性のほうが楽とも言うことはできない。年齢や生活環境、障害の有無、ジェンダーアイデンティティなどの因子が交差すると状況はさらに複雑になる。

 

 

 

4.使ってみた

さて、ブランメルのニードルアイブロウペンシルである。

 

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価格:4620円

 

ハットの化粧水、ボタンのパウダーときて、こちらのアイブロウはマチ針を象っている。

公式サイトで注文したら恭しい包装でやってきました。シールまでボタンで芸が細かい。

 

 

スーツの布地をイメージした質感と思われる封筒で手書きのメッセージまでついてきた。ありがとうございます。

 

 

ブランドの説明カードつき。

 

 

外箱はリボンつきで豪華。服のタグを模していると思われる。

 

 

中身はこんな感じ。リボンまで付属している。

 

 

針穴が開いている部分はスクリューブラシになっている。キャップは回しながら引くタイプではなく、ただ引くだけで取れるタイプで便利。

 

 

ペン先は繰り出し式。キャップレスなので実用性も高い。

 

 

付属のリボンをつけてみたところ。

 

 

製品情報はこちら。

 

 

カラーバリエーションはブラックの1色のみ。黒髪を前提として自然さを最優先するのはメンズコスメのアイブロウの定石である。

スウォッチがこちら。

 

 

黄味に寄らないニュートラルなブラックで、かなり濃い。力を入れずに描いてもしっかり黒色がつく。

実際に使ってみたらこんな感じです。

 

 

するする描けて、発色は相当いい。わたしが今まで使ってきたグレー系のアイブロウの中でも一番しっかり色づくと感じた。何回もなぞる必要がない反面、濃くなりやすいので、不自然にならないようにスクリューブラシでしっかりぼかすのがおすすめ。

 

メンズコスメレビュー100本ノックその6ではルオモのグレーのアイブロウをレビューしたが、ブランメルのほうが圧倒的に描きやすい(価格が全然違うので当然かもしれないが)。また、ルオモのアイブロウはスクリューブラシのキャップが回しながら引くタイプなので、引くだけでいいキャップよりも一手間がかかる。些細な違いだが、忙しい朝に使うのなら少しでも手間が少ないブランメルのほうがいい。

 

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わたしは前職時代の最後の時期に、アイブロウペンシル1本をバッグの外ポケットに突っ込んで家を出て職場のトイレで眉を描いていた。当時このアイブロウペンシルがあったら少しは気分が上がったかもしれない。金色の武器やステッキみたいでかっこいいし。

 

 

マチ針モチーフも、ブランド側は老舗テーラードのかっこいいものとして演出しているが、ハンドメイドやシルバニアファミリーのような可愛いものが好きな人にも刺さりそうだ。4620円ぶんの価値を感じるかは人によるだろうが、アイブロウペンシルとしては高品質です。おすすめ。

 

 

 

5.デパコスではない高価格帯のメンズコスメを制するのは

アイブロウペンシルの平均からすると、ニードルアイブロウペンシルの4620円はかなり高いほうである。プチプラ*2ではまったくない。デパコス*3だとしても上等なほうだ。たとえば、レディースコスメのデパコスでロングセラーのアイブロウペンシルだと、シュウウエムラのハードフォーミュラ(通称ナギナタ)は3630円である。

 

シュウウエムラは近年は男性表象モデルを多数起用しており、ジェンダーレスコスメブランドとしての色彩を強めている。

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ほかのデパコスブランドでも、アイブロウペンシルはおおむね3000円台で、4000円台に乗るブランドは多くはない。

 

デパートにカウンターを持っているわけではないのにデパコスに近い価格帯のラインは、実はメンズコスメだとそこそこレッドオーシャンである。先述したKHAKIもFigoもこの価格帯に当たる。このラインのブランドは、オフラインでは百貨店のポップアップか、チューズベースシブヤやバーニーズニューヨークといった都会志向のセレクトショップを主戦場とすることが多い。ユナイテッドアローズなどのアパレルショップの一角に出店するパターンもある。日用品としてではなく、どちらかというとギフト需要を満たすものとして売り出されているのだ。つまり購買客は男性だけではない。家族や恋人へのプレゼントを探す女性の財布も当て込んでいると思われる。プレゼントを探すというか、プレゼントに困ると言ったほうがいいかもしれない。個人的な偏見ですが、女が男にちょっといいスキンケアセットを贈るのは、ほかに贈るものが思いつかないときです。というか男だろうが女だろうが人は恋人へのプレゼントを思いつかない生き物なので、スキンケアセットを贈られたことがある男性も変に勘繰る必要はないと思います。

 

ブランメルは、2024年2月現在は決まった取扱店を持っていない。オフラインでは、過去には麻布台ヒルズの大垣書店と阪急メンズ大阪でポップアップが開催されていた。麻布台ヒルズは港区六本木エリアに2023年11月24日にオープンしたばかりのハイクラスな複合施設、阪急メンズ大阪は百貨店で、どちらも日用品を買いに行くような場所ではない。麻布台ヒルズのポップアップは2023年11月24日から2023年12月25日で、明らかにクリスマスプレゼント需要が見込まれている。麻布台ヒルズのオープン初日からのポップアップ枠を押さえるには、相当コストがかかったのではないでしょうか。担当者の気合が窺われる。阪急メンズ大阪のポップアップも、2024年1月24日から2月14日と、明らかにバレンタイン需要が意識されている。この時期の阪急メンズ館も押さえるのが大変そうですね。

今後のブランメルも、オフラインの常設店を持つのなら、高価格帯セレクトショップで足場を固めつつ、百貨店のメンズビューティーコーナーの一角を目指していくのではないだろうか。

 

 

以上、ブランメルのニードルアイブロウペンシルについてでした。

 

次回は、ブランメルと同じく株式会社コムニコスが運営するもう一つのジェンダーレスコスメブランド、コムニコスを取り上げる予定です。

 

テーラードの話題が出たので、女性の体型をした人でもメンズライクに着こなせるスーツとカジュアルセットアップのブランドを紹介しておきます。

 

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メンズコスメレビュー100本ノックの過去回一覧はこちらから。

 

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*1:assigned female at birth の略。出生時に女性を割り当てられること。AMAB=assigned male at birth は出生時に男性を割り当てられること。

*2:プチプライス・コスメの略。身近なドラッグストアや、ロフトやPLAZAなどのバラエティショップで販売されている安価なコスメのこと。おおむね2000円以下。

*3:デパート・コスメの略。伊勢丹や髙島屋などの百貨店で販売されている高価なコスメのこと。おおむね3000円以上で、1万円を超える商品もある。