最終更新：2023.9.4
ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その7です。
過去回はこちら。
わたしはテストステロン投与（男性ホルモン治療）を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。
前回は、L'UOMO（ルオモ）のアイブロウペンシルをレビューした。
今回はその続きで、ルオモのアイブロウマスカラをレビューしていきます。
1．アイブロウマスカラとは
今回レビューするコスメは種類でいうとアイブロウマスカラにあたる。アイブロウがつかないただのマスカラなら知っていても、アイブロウマスカラは知らない人が多いかもしれない。マスカラは、メイクをしない人でもなんとなく知っている通り、まつ毛に塗る黒色の液体で、まつ毛を強調する効果がある。一般的な美の基準によるとまつ毛は多くて長いほうが美しいとされており、黒々とした液体を塗りつけることでまつ毛が太くなり、密集して見えるというわけだ。プチプラ*2だと、キャンメイクのその名もゴクブトマスカラなどが有名である。
それに対してアイブロウマスカラは、アイブロウつまり眉毛に塗りつける液体である。容器形態もマスカラによく似ているが、まつ毛を強調する効果があるマスカラとは違って、アイブロウマスカラは眉毛の存在感を弱める効果がある。日系日本人だと眉毛は黒色の人が多いと思うが、アイブロウマスカラはブラウンやグレーなど、黒よりは柔らかい色をしており、塗りつけることで黒々とした毛の強さが和らぎ、洗練されて見えるのである。
2．眉毛と「垢抜け」のいろいろ
一般的な美の基準によると、毛の存在感が強い黒々とした太い眉毛は「垢抜けない」「野暮ったい」とされている。カリカチュアライズされた「オタク」のイラストが、太くてボサボサの眉毛をしているのを見たことがないだろうか。フリー素材サイトいらすとやにおいても、「オタク」のイラストは眉毛が太く表現されている。
黒々とした太い眉毛の身なりにかまっていなさそうなイメージを、「野生児」のイメージとして利用したのがお笑いタレント・俳優のイモトアヤコであろう。イモトアヤコは人気テレビ番組『世界の果てまでイッテQ』で「珍獣ハンター」として外国の高山やジャングルなどでの過酷な外ロケをこなしている。その際のメイクは過剰に太い黒眉であり、「野性的」なイメージが強調されている。
また、上記のインスタグラムのメイクをよく見ると、極太眉に加えてチーク（頬紅）が過剰に施されていることがわかる。赤い頬っぺたは寒空の下を駆け回る子どもをイメージさせると同時に、「『大人の女性らしい美しさ・しとやかさ』を捨てて身体を張っている」印象を与え、イモトの野生児キャラを強調しているのだろう。眉にせよ頬紅にせよ。成人女性が「大人の女性らしい美しさ・しとやかさ」を捨てている（ように見える）図自体の面白さもあるかもしれない。イモトも当然それは自覚しており、2018年2月放送回では女性ADがラメのアイシャドウをしているのを見て「目の下キラキラしてっぞ！ ADがロケでアイシャドウ！！ 最近のADは変わっちまったなぁ」と大げさに驚いて見せた。美しく化粧をしている女性ADと野生児のイモトという対比は好評だったようで、その女性ADは裏方でありながらその後も何度かカメラの前に出ている。
なお、イモトは2019年11月、イッテQの男性ディレクターとの結婚を発表している。仕事をともにする中で恋愛感情を抱き、イモトのほうから手紙でプロポーズし交際・結婚に至ったという経緯も明かされた。視聴者はイモトを温かく祝福したが、そこには「女を捨てている」野生児だったイモトが思いがけず「女らしい」面を見せた「ギャップ」による好意もあったことだろう。サバンナでトカゲを追っかけることは女性のジェンダーロールにはないが、恋をし結婚することはジェンダーロールに含まれているのである。結婚発表後イモトは「実は可愛い」などと容姿に着目して報じられることが増えた。プライベートで極太眉をしているはずもなく、オーソドックスなメイクをしている姿はインスタグラムや俳優としての仕事の場などで見ることができる。
3．アイブロウマスカラを活用しよう
イモトアヤコを例に、眉毛が顔印象に与える影響を見てきたが、男性においてもこれは同様である。男性においても、太すぎる・毛の存在感が強すぎる眉毛は垢抜けないとされている。前回のアイブロウペンシルの記事で述べたように、眉をいじることは男性にも許容されている美容行動である。自分で、あるいは理容院で、眉を剃ったり抜いたりして形を整えている男性は多いだろう。その延長上でアイブロウペンシルを使って眉を描くことを試みる人もいるだろう。アイブロウペンシルに可能なのは、眉の足りない部分や毛の薄い部分を描き足すことだ。つまり足し算をするアイテムだが、アイブロウマスカラは、先述のように眉毛の存在感を引き算することができるアイテムである。眉毛が黒々と濃すぎると感じる人は、採り入れる価値があると思います。個人的には、使い方が難しくないのに得られる印象変化が大きく、コスパがいいアイテムだと思っている。粉ものコスメと違って手が汚れにくいのもいい。メイク初心者におすすめします。ただ、印象が大きく変わるということは、アイブロウペンシル単体よりは「メイクしてる感」は多少出るということでもある。だからか、アイブロウマスカラを展開しているメンズコスメブランドはまだ少ない。
4．レビュー アイブロウカラーマスカラ 02 アッシュグレー
価格：1100円 容量：7グラム
さて、ルオモのアイブロウマスカラである。
2色展開のうち、わたしは02番のアッシュグレーを購入しました。
パッケージはこちら。裏には簡単な使い方が載っていて親切です。
カラー展開はアイブロウペンシルと同じ。公式サイトによると、01 ダークブラウンは「茶色の髪色に」、02 アッシュグレーは「黒色の髪色に」とガイドされています。アッシュ（ash）とは灰のことで、コスメ分野においてはグレーのレイヤーがかかったようなくすんだ色・濁った色を指します。
02 アッシュグレーのスウォッチ*3はこちら。
グレー系とされるアイブロウマスカラの中でもかなりグレーが強めです。
前回と同じ写真だが、実際に使ってみたのがこちら。雰囲気だけ掴んでください。
手持ちのレディースコスメのグレー系アイブロウマスカラと比較してみたので、参考にしてください。
右からルオモ アイブロウカラーマスカラ 02 アッシュグレー、ヘビーローテーション カラーリングアイブロウ 08 アッシュグレー、KATE 3Dアイブロウカラー GY-1 オリーブグレー系、WHOMEE（フーミー） マルチマスカラ レディパープル。
前回の記事でも述べたように、グレーのアイブロウはブラウンよりも自然に仕上がる傾向にある（繰り返すが、個人差やパーソナルカラー*4による差はある。）。しかし、レディースコスメは、メイクで素顔よりも華やかになることを前提としているからか、染髪率が高いからか、アイブロウマスカラはブラウン系が多い。しかし、より自然な仕上がりを求める黒髪の人や、寒色系のメイクで揃えたい人や、ブルーベース*5の人で、グレー系のアイブロウマスカラを探している人も多いことでしょう。それ、メンズコスメで見つかります。ヘビーローテーションの08番やヴィセのBR-5といった定番に飽きた人は、ルオモを使ってみてはいかがでしょうか。
以上、ルオモのアイブロウカラーマスカラ 02 アッシュグレーについてでした。
*1:assigned female at birth の略。出生時に女性を割り当てられること。出生時女性。AMAB=assigned male at birth は出生時に男性を割り当てられること。
*2:プチプライスコスメの略語。マツキヨなどのドラッグストアや、PLAZAやロフトなどのバラエティッショップで販売されている廉価なコスメのこと。おおむね2000円以下のアイテムが多い。
*3:コスメを肌や紙に塗って発色を示したもの。色見本。
*4:さまざまある色を、明暗・彩度・色相などの要素からいくつかのグループに分類して、個々人の自肌の色や雰囲気に調和して映える傾向にある色グループをあてはめる思想。複数の流派があるが、スプリング・サマー・オータム・ウィンターと命名された4分類に分ける流派が一番有名である。たとえばわたしのパーソナルカラーはウィンターなのだが、これは「ウィンターと命名された色グループの色を身に着けると雰囲気に調和して映えて魅力的に見える人間である」ということを意味する。
パーソナルカラーの概念はメイク初心者には難解なので、興味があればググってみる程度でいいと思う。ググってみてピンとくれば採り入れてみたらいいし、ピンとこなければ忘れてしまってもかまわない。
*5:パーソナルカラー用語。色のうち、色相が青味寄りの色を指す。略称はブルべ。黄味寄りの色はイエローベースといい、略称はイエベ。
