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ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その27です。
過去回はこちら。続き物ではないので1から読む必要はありません(読んでくれたら嬉しいけど!)。以前の内容を踏まえるときはリンクを貼ります。
わたしはテストステロン投与(男性ホルモン治療)を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。
今回は、カクタス(KAKTAS)のスタイリングBBスティックとスタイリングルースパウダーの2つをレビューしていきます。
1.カクタスとは
カクタスは2023年4月デビューのメンズコスメブランドである。商品は2024年1月現在、今回レビューするBBスティックとルースパウダーの2つのみ。2023年3月にクラウドファンディング系応援購入サービスのマクアケ(Makuake)を通じて発表され、クラファン開始12分で目標金額を達成したそう。マクアケを通じて世に出たのはメンズコスメレビュー100本ノックその23で取り上げたFigo(フィーゴ)のスキンローションと同じですね。
カクタスの公式サイトはこちら。
肌は悩むものではなく、自信をつくるもの。
服装や髪型のように
いま、すべての肌にスタイリングを。
ブランド名の由来は「掛けて足す。そして自分自身の可能性を拡張する」で、コンセプトは「肌のスタイリングブランド」。メンズコスメブランド各社は男性の美容への心理的抵抗をいかに軽減するかに心血を注ぐが、カクタスの場合、メイクを「肌のスタイリング」と呼ぶことで、髪を整えることとメイクを同列に扱ってメイクに親しみを感じてもらう作戦のようだ。過去記事でも触れたリップスボーイのキャッチコピー「肌を、顔を、スタイリングしよう。」に通じる発想である。リップスボーイはメンズ美容室リップスがプロデュースするメンズコスメブランドなので、髪に関連した語句が出てくるのは自然だが、カクタスのように美容院とは関係がなくても男性に親和的なものとしてヘアスタイリングのイメージが引用されることもあるのだ。
取り扱いはAmazonなどの各種ECのほか、大きめのドラッグストアやバラエティショップではよく見かける。2024年1月1日の能登半島地震を受けて、1月の公式オンラインショップの売上の一部を寄付することが発表されているので、今買うなら公式から買うのがいいかもしれません。
2.商品について
さて、商品を見ていきましょう。
2つの看板商品のウリは見ての通り、BBクリームもパウダーもスティックの形をしていることである。見た目にもわかりやすい新規性があったから、クラファン達成率2000%という好スタートを切ることができたのだろう。
スティック形状のメリットは「3つのS」でまとめられている。
男性が使いやすい”3つのS”
肌のスタイリングにおいて、初めての方も使いやすいアイテムにするため「3つのS」を大切な要素として掲げています。
✔︎ Simple(シンプル) : 技術不要で簡単に使える
使用方法がわかりやすく誰でも簡単に使える
✔︎ Seamless(シームレス) : 場所を選ばない
どこでも場所を選ばずに使いやすい
✔︎ Stylish(スタイリッシュ) : 持ち歩きたくなるデザイン&サイズ感
肌を気にする隙間で使う
3Sで場所を選ばずに使うことができるからこそ、皆さんが日常で生活をしていて「肌を気にするシーンのちょっとした隙間」にも寄り添うことができるアイテムとなっております。大事な日こそ、自信のある肌で過ごして欲しいです。KAKTASを持ち歩くだけで普段の肌をサッとアップデートできます。
この3つのSにもう一つ付け加えるなら、「Shinsen(新鮮) : 女性用のコスメとは違う見た目である」ことも重要であろう(Sで始まるうまい英単語が思い浮かばず無念の日本語)。一般的なコスメとは違う形状であることで。「女性らしい」イメージが軽減されているがゆえに、手に取りやすいと感じる男性もいるのではないだろうか。
場所を選ばず「肌を気にするシーンのちょっとした隙間」で使えるとあるが、その「肌を気にするシーン」としては以下の6つが写真つきで挙げられている。
就活生は、勝負の面接前に。
営業マンは商談前に。
ゴルフの直射日光。手袋のまま。
タクシー移動中に。
飲み会の前にサッとブラシで。
彼女と会う直前に。
多くのメンズコスメブランドがそうであるように、カクタスもホワイトカラーのオフィスワーカーをユーザーに想定しているようだ。直射日光を浴びるシチュエーションとして、庭仕事や通勤通学などの日常の場面ではなく屋外スポーツがまず出てくるのは、メンズコスメレビュー100本ノックその15で取り上げたKHAKI(カーキ)を思わせる。
また、交際相手の前で見目よくいたいシチュエーションでは、「恋人」や「パートナー」といった包括的な言葉ではなく、ずばり「彼女」が使われている。まとめると、ゴルフを嗜むような体力的余裕がある、ホワイトカラーのシスヘテロ男性が浮かび上がってくる。現代日本においては権力勾配の上方にいることが多いタイプの人たちだ。メイクという従来的な男性のジェンダーロールに含まれない行動を普及させていくために、上方から攻めるのは理に適っていると評価することはできるだろう。
3.使ってみた
スタイリングBBクリーム
価格:3465円 容量:13グラム
スティック型のBBクリームとブラシが一体型になっている。
パッケージはこちら。
本体はこちら。
色はナチュラルベージュの1色展開のみという強気さ。顧客はライトスキンの日系日本人(東アジア人)のみ想定しているにしても、1色で全員の肌に合うかというと、そんなわけはない。レディースコスメのファンデーションがなんのために10も20も色展開しているのかって話です。しかしメンズコスメブランド各社のカラー展開の少なさを見ていると、そもそもちょっと色が合わなかったところで大した問題ではない気もしてくる。レディースコスメのほうが色合わせに敏感すぎるのだ。
手に出してみると非常にするする伸びる。ちょっと表面がペタペタするくらい。
反対側のブラシは斜めカット。取り外して洗うことができて清潔に保てる。メイクをする人のニキビの原因はパフやブラシの雑菌であるケースが多いので、洗えるのは重要。
ブラシのサイズがキャップぎりぎりで、閉めるときに挟みやすいのはちょっと煩わしい。
説明書はこちら。
動物性原料不使用とあるので、はっきり謳ってはいないがヴィーガンコスメでもあるのかもしれない。しかし動物実験の有無については記載なし。
スタイリングルースパウダー
価格:3465円
ルースパウダーも、ブラシと一体型のスティック仕様。
パッケージはこちら。
本体はこちら。
先端をONに回してクリックするとパウダーが噴射される仕組みである。出は悪く、何度もクリックする必要があり、スムーズとは言い難い。
こちらもそのままブラシにキャップをはめようとすると毛が挟まるが、本体をスライドさせて伸ばしてブラシを細くしてから閉めるとうまくいく。
説明書はこちら。
BBスティック同様、動物性原料不使用とあるので、ヴィーガンコスメなのかもしれないが、動物実験の有無については記載なし。
よくあるトラブルへの対処法の説明も同封されていました。
BBスティックと違って、ルースパウダーのブラシは取り外すことはできない。
2つを実際に使ってみたのがこちら。
伸びのいいファンデーションにありがちなように肌の上で上滑りすることもなく、塗りやすいは塗りやすい。カバー力は低いが、色ムラは整う。
わたしは混合肌・脂性肌なので、BBスティックはややオイリーに感じた。であればパウダーでしっかり抑えたいところだが、この容器だとなかなかスムーズに出ないので難儀しました。何回もカチカチしないと十分量が出てこないのである。よくあるトラブルへの対処法の中にもパウダーが出にくいという悩みは記載されているので、ブランド側も課題として認識してはいるようだ。
3.スティック型のBBとパウダーは、なぜメンズコスメで生まれたのか
従来のBBクリームやファンデーションは、多くはチューブ容器で展開されている。レディースコスメもメンズコスメでもだ。
メンズコスメレビュー100本ノックその1で取り上げたZUQUUN BOYS(ズキューンボーイズ)のBBもチューブ容器であった。
スティック型のベースクリームは、先例がないわけではない。
たとえば、こちらのまとめサイトではプチプラ*2からデパコス*3まで10品が取り上げられている。
大手からは、2019年4月にキャンメイクがクリーミーファンデーションスティックという商品を発売してそこそこ話題になった(現在は廃盤)。
スティック型のコスメは持ち運びが簡便で時短になり、手指を汚しにくく利便性が高いことは、美容好きの間では経験則として語られている。有名美容系YouTuberも取り上げている。
コスメヲタちゃんねるサラさんについてはおすすめの美容系YouTuber紹介記事で触れました。
メンズコスメとしては、過去記事でたびたび取り上げている日本初のメンズメイクアップブランドFIVEISM×THREE(ファイブイズムバイスリー)からスティックファンデーションが出ている。
FIVEISM×THREEはほかにもコンシーラーやシェーディングをスティック型で展開しているほか、過去にはクレンジングスティックまであった(現在は廃盤)。
フェイスパウダーは、多くが平たい丸型容器で展開されている。スティック型のフェイスパウダーは、わたしはカクタス以外に聞いたことがない。
オモコロ系列のYouTubeメディア・ふっくらすずめクラブの人気コンテンツに、コスメオタクの女性ライターがコスメに詳しくない男性ライターたちに美容を指南する企画がある。原宿のアットコスメトーキョーを散策する回では、カクタスのパウダーを見つけて一同が驚くくだりがある。男性ライターの一人は「コンパクトタイプのやつ今使ってるんだけど粉が落ちたりして大変なのよ」と語る。
ふっくらすずめクラブについては、メンズコスメレビュー100本ノックその19でも紹介した。
スティック型のベースメイクコスメは、カクタス以前から一定の需要があることがわかる。
しかし、コスメの本場たるレディースコスメの分野では、一定数販売されているものの、従来の容器に取って代わる主流とはなっていない。依然としてクリーム系はチューブ容器、粉系は平たい丸型容器が多い。それはなぜなのか。理由は2つ考えられると思う。
①女性消費者の不便感は軽視される
コスメは女性ジェンダーの人間が買うものとされているので、女性ジェンダー者の不便感をコストを投入して解決しようという発想にはなりにくかったのではないか。背景にはもちろん、この社会の男尊女卑構造がある。女性向け商品の業界も、この構造からは決して自由ではないはずだ。女性が長らく不便を訴えていても聞き入れられず、男性が同じことを言った途端に社会が動く例は多い。
しかし逆に、場によっては、男性の不遇は無視され女性の不遇は社会問題化しやすいという例もある。男女問わず、すでにその場にコミットしている人の不便は織り込み済のものとして周縁化されるが、新規参画者の声は注目を集めやすい傾向があるのではないか。コスメ業界においては女性は既存ユーザーであり、取り込みにある程度成功しているので、コストを割くメリットは薄いと判断されているのではないか。
なお、女性の不遇が社会問題化する例においては、当該の女性が若く容姿端麗であることが要件に含まれていることが少なくない。つまり、「可哀想」と思われやすいから世間の同情をよくも悪くも集めるのである。これに関してはやはりジェンダーの問題として捉えるべきであるし、事態は単純ではない。
②長い目で見ると不便である
スティック型のコスメはたしかにメイクのスターターキットとしては適しているが、長期使用を想定すると未解決の課題は多い。容器にコストがかかるので高額になるし、内容量が少ないのでますます割高となる。過去記事で取り上げたTHE N.B.P HOMMEのオールインワンメイクキットがいい例である。
こちらの商品はこれ1本でフルメイクが叶う代物だが、なにもかもを1本に収めているので一つ一つのセクションの内容量はごくわずかで、まともに使おうとしたら半年未満でなくなってしまうと思われる。
とはいえ、THE N.B.P HOMMEのガジェット感は、「お化粧品」の従来的なイメージを刷新する新鮮な驚きに満ちており、従来のコスメに親しみを持てなかった人に魅力的に映るのは間違いない。男性だけではなく、女性やその他のマイノリティにもそのような人は多いだろう。
カクタスのスティックコスメ2つも、メイクを始めるきっかけにはいいんじゃないでしょうか。
以上、スタイリングBBスティックとスタイリングルースパウダーについてでした。