ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その6です。
過去回はこちら。
わたしはテストステロン投与(男性ホルモン治療)を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。
今回は、L'UOMO(ルオモ)のアイブロウペンシルをレビューしていきます。
- 1.ルオモとは
- 2.男性にも許されているメイクとしての眉メイク
- 3.アイブロウペンシルとは
- 4.レビュー アイブロウペンシル 02 アッシュグレー
- 5.男も女もそれ以外も、グレー系アイブロウが欲しいならメンズコスメを探そう
- 6.メンズ向けアイブロウペンシルのグレー系まとめ
- 7.補足 レディースのアイブロウ事情と、メンズアイブロウのこれから
1.ルオモとは
ルオモは、株式会社伊勢半が運営するコスメブランドKISS ME(キスミー)の派生ブランドである。公式サイトによるとKISS MEは、コスメといえば対面販売が主流だったころに日本で初めてセルフ販売方式を開始したブランドなのだそう。公式サイトには「しなやかに誠実に。遊び心も忘れずに。あしたは、もっと美しく。私らしさを、愛せるひとへ。」との惹句が踊っています。「しなやか」とは女性メインのプロダクトに頻出する言葉ですね。
KISS MEのほかの派生ブランドには、最近リップアーマーがバズったkiss、マスカラが有名なヒロインメイク、アイブロウマスカラが有名なヘビーローテーションなどがあります。ドラッグストアでコスメをよく買う人は聞いたことがあるでしょう。
ルオモは2023年現在、KISS MEの中で唯一のメンズブランドのようです。
公式サイトはこちら。
現在、BBクリーム・アイブロウペンシル・アイブロウマスカラを展開しています。
2.男性にも許されているメイクとしての眉メイク
従来、男性のジェンダー規範の中には、メイクや美容は含まれていません。これがいつから発生し支配的となった規範なのかは考察の余地があるとして、少なくとも近現代の日本において、美容にコストを割くのは、男らしいとされている行動ではないでしょう。2023年現在、若い世代を中心に変革の気配はあるとはいえ、多くの男性にとってメイクはまだまだ親しみがないのが現状だと思います。
しかし、アイブロウメイクだけは、やや例外なのではないでしょうか。美容は男らしくないとされていても、眉を整えるのは「セーフ」な風潮があるように思います。メンズメイクはしたことがないし興味もないけれど、眉を抜いたり剃ったりして形を整えるのだけはやるという人も多いのでは。あるいは、自分ではやらないまでも理髪店で整えてもらうとか。「垢抜けない」男性や「オタク」の男性への揶揄として「眉も整えてない」という言葉はネット上ではよく使われますし、男性でも眉をいじることは許容されているのではないか(ちなみに「眉も整えていない」は、「垢抜けない」女性や「オタク」女性への言葉としても当然使われます)。
よってアイブロウペンシルやアイブロウマスカラなどのアイブロウコスメは、眉を抜いたり剃ったりするのの延長上で、比較的手に取りやすいメンズコスメなのではないでしょうか。
3.アイブロウペンシルとは
アイブロウペンシルとは、眉毛を描くためのペンみたいなコスメです。
ペン先の描く部分の形状がいろいろあります。大きく分けて固形と筆状があり、その中でもさまざまバリエーションがある。わたしの手持ちのレディースコスメのアイブロウペンシルを例に、いくつか見てみましょう。
これはペン先が固形で、細く丸いアイブロウペンシル。細いので細かい毛流れをリアルに描くことができます。
ちふれ アイブローペンシル くり出し式 価格:440円
これはペン先が固形で、楕円形のアイブロウペンシル。
KISSME FERME(キスミーフェルム) カートリッジWアイブロウ 価格:1210円
これはペン先が固形で、三角形のアイブロウペンシル。長い辺で一気に描くことも角の部分で細かく書くこともできます。
エチュード ドローイングアイブロウペンシル 価格:352円
これはペン先が固形で、扁平で斜めカットの「なぎなた形状」のアイブロウペンシル。なぎなた形状は個人的に一番描きやすい形だと思う。おすすめです。
MiMC(エムアイエムシー) ミネラルアイブロー 価格:2530円
これはペン先が筆状のアイブロウペンシル。筆ペンみたいなものですね。リキッドアイブロウとも呼ばれます。細かい部分が描きやすい。
エクセル ロングラスティングアイブロウ 価格:1540円
よくあるアイブロウペンシルの形状はこんな感じですかね。
眉を描くコスメとしては、ほかにはアイブロウパレットがあります。こちらは粉を筆に取って描くもので、色の違う粉を使い分けることで立体感のある自然な眉が描ける一方、ペンシルよりも難易度が高い傾向にあります。
KATE(ケイト) デザイニングアイブロウ3D 価格:1210円
アイブロウペンシルもアイブロウパレットもメリットデメリットありますが、わたしが初心者に勧めるならアイブロウペンシルにしますね。粉が飛び散らないので管理も楽です。ADHD向けでもある。
上記の最後に挙げたKATEのデザインングアイブロウ3Dは初心者向けメイク指南の記事に頻出する定番コスメで、たしかにアイブロウパレットとしてはKATEのこれが定番なのですが、そもそもアイブロウパレット自体個人的には初心者には難しいと思うのでおすすめしません。
4.レビュー アイブロウペンシル 02 アッシュグレー
価格:1320円 容量:0.08グラム
ルオモのアイブロウペンシルを見ていきましょう。2色展開のうち、わたしは02番のアッシュグレーを購入しました。
パッケージはこちら。裏には簡単な眉の描き方が載っていて親切です。
ペン先は固形で、細くて丸いタイプです(写真は使っているうちに斜めに削れています)。繰り出し式で、自由に出したり戻したりすることが可能です(ペンタイプのコスメの中には、いったん繰り出すと戻らない仕様のものもあります)。
また、ペン先には蓋がありません。そのまま繰り出したり戻したりすることが可能です。蓋をなくす心配がないのはメリットでしょう。ADHDにはとくにおすすめ。
左がルオモ、右がエチュードのアイブロウペンシル。エチュードには蓋がついている。
なお、蓋がないとペン先が空気に触れて乾燥しがちで、滑りが悪くなりやすいので、メーカーとしては蓋なしで作るほうが高い技術が必要になると思われます。
また、反対側の先端にはスクリューブラシがついています。
スクリューブラシは毛流れを整えたり、濃くつきすぎたところをなぞって肌に馴染ませたりするのに必須です。アイブロウペンシルを買うときは、このように反対側にスクリューブラシがついているものを選ぶのを強くおすすめする。
カラー展開を見ていきます。公式サイトによると、01 ダークブラウンは「茶色の髪色に」、02 アッシュグレーは「黒色の髪色に」とガイドされています。アッシュ(ash)とは灰のことで、コスメ分野においてはグレーのレイヤーがかかったようなくすんだ色・濁った色を指します。
02 アッシュグレーのスウォッチ*2はこちら。
個人的には、ペン先が硬くて発色させるのに力が要ると感じました。同価格帯でも、もっと滑らかにスルスル描けるアイブロウペンシルはあります。
実際に使ってみたのがこちら。雰囲気だけ掴んでください。
自眉が黒い人には馴染みやすい色だと思います。
以上、製品についてでした。
5.男も女もそれ以外も、グレー系アイブロウが欲しいならメンズコスメを探そう
さて、メンズコスメレビュー100本ノックの過去記事でもたびたび述べてきたように、メンズメイクはメイクしているとバレないことが重要とされている。
たとえば、メンズコスメブランドTHE FUTURE (ザフューチャー)のカラーチェンジBBクリームには「浮かない・バレない」という惹句がついています。
日本初のメンズコスメブランドFIVEISM×THREE(ファイブイズムバイスリー)は「ステルスメイク(STEALTH MAKEUP)」をテーマにしており、メイクしているとばれない自然さを強調しています。
FIVEISM×THREEについて詳しくは過去記事をどうぞ。
男性がメイクをすることは旧来的な「男性らしさ」から外れる行為であり、ミソジニーやホモフォビアと合わさって「女々しい」「オカマみたい」などと嘲笑されてきた歴史があるため、今も「メイクしてる感」に抵抗を覚える男性が多い(と、実態はともかく少なくとも多くのメンズコスメブランドが判断している)ということでしょう。よって、メンズコスメブランドのアイブロウペンシルは、自眉や髪色と馴染むことが最優先されています。結果として、日本で販売されているメンズのアイブロウペンシルは、日系日本人の黒髪を前提としたグレー系の色味が多いです(呉樹調べ)。
レディースコスメは、メイクで素顔よりも華やかになることを前提としているからか、染髪率が高いからか、ブラウン系のアイブロウが多い傾向にあります。しかし、ブラウン系はナチュラルに描くのがやや難しい(もちろん個人差やパーソナルカラー*3による差はあります)。よって、より自然な仕上がりを求める黒髪の人や、寒色系のメイクで揃えたい人や、ブルーベース*4の人で、グレー系のアイブロウペンシルを探している人も多いことでしょう。そこでメンズコスメである。メンズコスメブランドのアイブロウペンシルは、グレー系が豊作です。ブラックと名前がついていることも多いが、おおむねグレーのバリエーションです。
グレー系のアイブロウペンシルが欲しい人は、男でも女でもそれ以外でも、メンズコスメから探してみろ。
これが、今日の結論です。
6.メンズ向けアイブロウペンシルのグレー系まとめ
最後に、メンズコスメのアイブロウペンシルでグレー系の色味のものをいくつかまとめておきます。メンズコスメのアイブロウにグレー系がいかに多いかを実感してみてください。
また、メイク慣れしているコスメマニアで、レディースのグレー系アイブロウペンシルを使い尽くしたという人は、メンズコスメから新境地を開いてみるのはいかがでしょうか。
■ORBIS Mr.(オルビスミスター) ビアード&アイブローペンシル 01 ブレイブグレー
ORBIS Mr.については過去記事で詳しく紹介しています。
こちらのアイブロウペンシルは商品名の通りひげやもみあげにも使えることになっていますが、実際にひげやもみあげに使うことが想定されているというよりは、ひげという男性的なものを前面に押し出すことで、男性の心理的抵抗を軽減する効果を狙っているのではないかと個人的には思う。
■uno(ウーノ) バランスクリエイターf ナチュラルブラック
unoについては過去記事で詳しく紹介しています。
商品名には反映されていませんが、こちらのアイブロウペンシルも公式の使用方法を見るとひげへの使用も推奨されています。
■LIPPS BOY(リップスボーイ) アイブロー#001 グレー
LIPPS BOYはメンズ専用美容院LIPPSがプロデュースするメンズコスメ。ヘアサロンがオリジナルシャンプーやヘアワックスを開発するのの延長上でメンズコスメをプロデュースするパターンは、メンズコスメ業界に頻出です。
■IT's EASY.(イッツイージー) アイブロウ グレーブラック
近所のショッピングモールで見つけたブランド。運営元のアンドンナは主にヘアケア用品を多く出しているようだ。ここにも髪→化粧の流れが。
■BULK HOMME(バルクオム) THE IMPRESSION アイブロウ IM-100
バルクオムはドラッグストアなどで最もよく見かけるメンズコスメブランドの一つで、見覚えがある人も多いでしょう。
■VT(ヴイティー) シカフォーメン ナチュラルアイブロウ ナチュラルブラック
VTは韓国のスキンケアメインのブランドで、レディース美容の世界ではシカ*5配合の基礎化粧品が超有名。メンズラインもひっそり出ている。
■Magnifique(マニフィーク) ビアード&アイブロウペンシル 001 ナチュラルグレー
コーセー系列のメンズコスメブランド。こちらもひげ推奨。
■LUWONT(ルオント) アイブロウスタイラー ライトブラック
ルオントは、エステサロンのTBCが2022年1月に立ち上げたばかりのメンズコスメブランド。TBCはサンドイッチマンがメンズ脱毛のCMをしているので見たことがある男性も多いんじゃないでしょうか。ひげを脱毛する人が多いだろうに、CMではなぜか富澤がひげを生やしていることでお馴染み。
■SHISEIDO MEN(資生堂メン) アイブロウフィクサーデュオ ブラック
大手の資生堂もメンズラインを出しています。
以上、ルオモのアイブロウペンシル 02 アッシュグレーについてでした。
7.補足 レディースのアイブロウ事情と、メンズアイブロウのこれから
メンズコスメのアイブロウは自眉に馴染むこと・描いているとばれないことが最優先されているが、レディースにおいてはそこから一歩進んで、髪色よりほんの少し明るい色で描いて顔の印象を軽やかにするテクニックが人口に膾炙している。
また、ピンクや紫といった華やかな色のアイブロウパウダーやアイブロウマスカラを使ってお洒落なニュアンスを与える手法も2021年ごろから流行して久しい。
ラメ入りのアイブロウパウダーも登場している。2023年7月にはKATEが定番品のアイブロウパウダーにラメ入りの限定色を出し、2023年8月にはヴィセがグリーンのラメ入りアイブロウパウダーを限定発売して話題をさらった。
レディースのアイブロウメイクがますます多様化・高度化を極める一方、メンズのアイブロウメイクの歴史はまだ浅く、2023年9月現在、ほとんどのメンズメイク指南情報が自眉の延長上として馴染ませることに重点を置いている。しかし今後は、多様化する男性のニーズに応えて、バラエティ豊かなアイブロウアイテムが出てくるかもしれない。
その萌芽を感じさせるのが、前項で挙げたバルクオムのアイブロウペンシルである。バルクオムのTHE IMPRESSION アイブロウは、メンズコスメには珍しく4色もの色展開があり、そのうちの一つIM-400は赤系・ピンク系の髪色向けのダークピンクカラーなのである。
2023年9月現在、グレー系とブラウン系以外のアイブロウを出している日本のメンズコスメブランドは少ないのではないだろうか。今後の展開を見守りたいと思う。
続いて、メンズコスメレビュー100本ノックその7、ルオモのアイブロウマスカラのレビューをご覧ください。
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*1:assigned female at birth の略。出生時に女性を割り当てられること。出生時女性。AMAB=assigned male at birth は出生時に男性を割り当てられること。
*2:コスメを肌や紙に塗って発色を示したもの。色見本。
*3:さまざまある色を、明暗・彩度・色相などの要素からいくつかのグループに分類して、個々人の自肌の色や雰囲気に調和して映える傾向にある色グループをあてはめる思想。複数の流派があるが、スプリング・サマー・オータム・ウィンターと命名された4分類に分ける流派が一番有名である。たとえばわたしのパーソナルカラーはウィンターなのだが、これは「ウィンターと命名された色グループの色を身に着けると雰囲気に調和して映えて魅力的に見える人間である」ということを意味する。
パーソナルカラーの概念はメイク初心者には難解なので、興味があればググってみる程度でいいと思う。ググってみてピンとくれば採り入れてみたらいいし、ピンとこなければ忘れてしまってもかまわない。
*4:パーソナルカラー用語。色のうち、色相が青味寄りの色を指す。略称はブルべ。黄味寄りの色はイエローベースといい、略称はイエベ。
*5:CICA。美容にいい植物のツボクサのエキスのこと。鹿ではない。レディース美容界隈では2020年ごろからずっと流行している。