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ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック その2:FIVEISM×THREEのゲームフェイスカモキット

 

 

 

ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その2です。

その1はこちら。

 

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わたしはテストステロン投与(男性ホルモン治療)を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。

今回は、FIVEISM×THREE(ファイブイズムバイスリー)のゲームフェイスカモキットをレビューしていきます。

 

 

 

 

1.FIVEISM×THREEとは

FIVEISM×THREEは、2018年9月にデビューした日本初のメンズコスメブランドである。スキンケアやヘアケアで男性向けを謳うブランドは従来にもあったが、FIVEISM×THREEはメイクアップアイテムを中心に扱うのが新しかったのである。価格帯はファンデーションが5000円台、アイシャドウが3000円~4000円台、リップが3000円台で、デパート(髙島屋や阪急などの百貨店)で買える「デパコス」にあたります。デパコスとしては平均的~やや安いくらいの価格帯だと思う。公式サイトを見ると「男だからとか、女だからとか、もう若くないからとか 誰かの価値観や世の中の風潮に合わせて生きている暇なんてない」「国籍、性別、年齢を問わず五感で汲み取る美の可能性」などの言葉が踊っており、メンズをメインターゲットにしつつ属性を問わず広く希求していくスタイルのようだ。

 

www.threecosmetics.com

 

No walls and no limitation : you are free to go as far as you can

FIVEISM × THREEは、 ひとりひとりの個性を尊重し

性別や年齢などの既成概念にとらわれない 「自己表現」を提案します。

 

 

ディレクターであるメイクアップアーティストのRIE OMOTOによると、アイテムは日常生活における男性の行動心理に合わせて使いやすさを追求し、男性特有の肌質や肌悩みにもこだわっているそうである。

 

www.vogue.co.jp

 

そんなFIVEISM×THREEは、STEALTH MAKEUP(ステルスメイク)なるスタイルを提唱しています。ステルスとは、「ステルスマーケティング(ステマ)」「ステルス値上げ」など昨今は悪いニュアンスで耳にする機会が多いかもしれないが、本来は「隠密性」「秘密裏の行動」などを表す言葉である。公式サイトには「さりげなく自分を良く見せてくれる 自然なメイク『ステルスメイク』。ほんの少し肌のトーンや質感を整えるだけで、 顔の印象は劇的に変わります。」「女性のような『色鮮やかなメイク』でなく、自然と健康的に魅せるのが『ステルスメイク』。」とあり、メイクをしているとバレないナチュラルなメイクを指すようだ。この「メイクをしているとバレない自然さ」は、ほとんどすべてのメンズコスメブランドが謳っていると言ってもいいくらい頻出の概念である。男性がメイクをすることは旧来的な「男性らしさ」から外れる行為であり、ミソジニーやホモフォビアと合わさって「女々しい」「オカマみたい」などと嘲笑されてきた歴史があるため、今も「メイクしてる感」に抵抗を覚える男性が多い(と、実態はともかく少なくとも多くのメンズコスメブランドが判断している)ということだろう。また、「自然さ」と関連して、「本来の美しさを引き出す」「本来の魅力を引き立てる」などの、「強いて作る美しさではない、その人が元々持っている美しさ」もメンズコスメ分野の頻出概念であると個人的には思う。この表現には、従来の女性主導の色鮮やかなメイク文化を「虚飾」として劣位に置いて、男性が着飾ることを正当化しようとするミソジニックな本質主義を感じるが、どうなんでしょうね。

 

ところで、2023年6月現在、公式サイトには"STEALTH MAKEUP"というタイトルの30秒ほどのYouTube動画が貼られている。内容はというと、FIVEISM×THREEの商品は直接的には映らず、メイクとネイルを施した男性がコンクリート打ちっぱなしっぽいオシャレな空間でスタイリッシュにキメ顔をしたり胸毛をチラ見せしたりするという雰囲気重視のコンセプトムービーである。で、その出演している男性(モデルなのか俳優なのか、寡聞にして存じ上げない)は欧米系の人(黒髪だがヘーゼルグリーンの瞳の、おそらく白人)に見えるんですよね。日本生まれで日本で展開しているブランドなのだから、顧客の大部分は黄色人種だと思うが、コンセプトムービーに出てくるのは白人。しかしこれはレディースコスメの広告でも珍しいことではない。ミディアムトーンのベージュ系のファンデーションしかなくて明らかに日系日本人しか想定していない国産ブランドでも、広告には金髪碧眼の美女が出てきたりするのである。この原因はまず単純に、白人的な見た目になりたいという需要があることだろう。普遍的な美の基準は白人の顔とされてきた歴史があり、その排他的な価値観から自由な日本人はほぼいないのではないだろうか。わたしにも、平たい顔を彫り深くしたいという願望はあり、苦心してハイライトとシェーディングを施す日もあります。FIVEISM×THREEのコンセプトムービーにおいても、「白人のイケメン」を配置することで憧れをそそる意図はありそうだ。

そしてもう一つ、ことに男性をターゲットにしているFIVEISM×THREEの広告においては、「(顧客の大多数にとっての)外国人」を配置することである種の生々しさを軽減する意図もあるんじゃないでしょうか。先述したように、男性の境遇でありながらメイクをすることはいまだに偏見の対象であり、少なくない数の男性がその価値観を内面化してしまっている(と、実態はともかく少なくとも多くのメンズコスメブランドが判断している)。顧客のマジョリティである日系日本人にとって、同じ日本人に見える顔の人がモデルだと、「おっさんなのにメイクしてる」という印象を反射的に抱いてしまって敬遠されかねないということで、白人を配置しているのではないだろうか。親近感のない白人なら、従来の男性らしさから外れた行動をしていても「生々しくなく、冷静に見られる」のである。この、白人のある種の「匿名性」もまた、日本の広告ではよく利用されている気がします。よほどの都会や観光地でもない限り、日本の街中を歩いていて目立つのは白人だが、広告や看板になると白人のほうが匿名性が増すというパラドックス。

 

youtu.be

 

なお、公式YouTubeには実際にFIVEISM×THREEのアイテムの使い方を教えてくれるハウツー動画もあり、こちらは日系日本人に見える顔の人のほうが多く出演しています。

 

youtu.be

 

ちなみに、「おっさんなのにメイクしてる」を回避するには、若くてキレイなあんちゃんを起用する手も考えられる。若い男性K-POPアイドルなんかはみんな当たり前にメイクしてますからね。しかしFIVEISM×THREEの場合これは選択肢にないようで、ざっと見た感じ広告に出ている男性ジェンダーの人はほとんどが大人びた男性である。実年齢は20代の人もいるかもしれないが、顔の縦横比が縦長でいわゆる「大人顔」の人が多く起用されており、フレッシュな魅力よりはマチュアな魅力が強調されているように見えます。これは、FIVEISM×THREEの価格帯からして、10代や若い学生よりは、経済力のある大人をターゲットにせざるを得ないからだろう。生々しさは回避しなければいけないが、親近感がまったくなく「最近の若えもんのやること」扱いされてスルーされるのは困るというわけだ。難しいですね。

ブランド紹介だけで長くなったが、まだまだ商品のレビューには至りませんので覚悟してください。次の章では、FIVEISM×THREEのアイテム(今回レビューするのとは別のやつ)をいくつか見ていきます。この100本ノックシリーズは商品レビューに見せかけた美容よもやま話ですので、悪しからずご了承ください。

 

 

 

2.FIVEISM×THREEのアイテムを見てみよう

①ネイルアーマー

FIVEISM × THREE(ファイブイズム バイ スリー) ネイルアーマー 11

FIVEISM × THREE(ファイブイズム バイ スリー) ネイルアーマー 11

  • FIVEISM × THREE(ファイブイズム バイ スリー)
Amazon

www.threecosmetics.com

価格:2420円 容量:7ミリリットル

 

まずはマニキュアです。ネイルアーマー、爪の鎧とはなんともゴツい。色はナチュラルなベージュからダークなメタリックブルーまで、寒色を中心に2023年6月現在全23色があり、公式サイトによるとクラシックカーからインスピレーションを受けているそう。FIVEISM×THREEのアイテムはすべて、こんな風に「『男心』をくすぐる」名前やコンセプトがついているので胸焼け注意です。

わたしは09 AH AR1を所持しており、過去記事でレビューしています。

 

ネイル着画とネイルボトル。

 

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②FFシークレットエージェントUV

www.threecosmetics.com

価格:3850円 容量:30グラム

 

次は日焼け止めです。公式サイトによるとFFとはFIVEISM FORCEの略、SECRET AGENTとはスパイ、秘密工作員を表すらしい。まずFIVEISM FORCEがなにかわからないんですが、FIVEは公式サイトによると五大元素・五大陸・五感などから転じて自由や冒険心を象徴する数字とされているらしいので、自由な心が持つパワーとか、そんなニュアンスかな。SECRET AGENTとは先述のステルスメイクと同じで、メイクしているとバレないように肌をきれいに見せるアイテムであることを示しているのだろう。

なお、シークレットと名づけられているメンズコスメはほかにもあります。たとえば、OCEAN TRICO(オーシャントリコ)のシークレットメイクBBクリーム ナチュラル

 

oceantrico.com

価格:1760円 容量:30グラム

 

オーシャントリコは若い男性に人気の美容院・オーシャントーキョーが手がけるブランドで、ヘアスタイリング剤やメンズコスメを扱っている。オーシャントリコのシャンプーならパッケージを見たことがある男性も多いんじゃないかと思う。オーシャントリコの商品はFIVEISM×THREEと違ってプチプラ*2で、若い人も気軽に買えます。そんなブランドの商品でも、メイクしているとバレないことは重要視されているようだ。

 

③アイシェードトランス

www.instagram.com

価格:3850円

 

こちらはクリームアイシャドウ。アイシャドウとしては珍しい形状の容器は、ジッポライターをイメージしており、ワイシャツの胸ポケットにスムーズに収まるように下部に重りが入っているという凝りようである(この容器へのこだわりはデザイナーのインタビューかなにかで見たのだが、ソースを見失いました)。ワイシャツの胸ポケットにアイシャドウ1つ入れるシチュエーションは実際にはなかなかないと思うが、ジッポライターを胸ポケットに入れるという、従来の男性らしさの範疇である行為の延長線上にあるように演出して抵抗感を軽減する狙いがあるのだろう。ベースメイクや眉を描くくらいならまだしも、アイシャドウまで行くとまだ抵抗がある男性は多いのではないでしょうか。だからなのか、アイシェードトランスはすでに廃盤となっており、現在はブラウン系のナチュラルカラー3色だけがオンライン限定で買えます。以前はグリーン系やブルー系の攻めた色味も扱っていたのだが、売れなかったんでしょうね。実際、FIVEISM×THREEのことはブランド開始から注目しているが、ここ4年、わたしが把握している限り、誰もが知るベストセラーのような大ヒットは生まれていない。運営母体にバズりっ気が薄いのかというとそうでもなく、FIVEISM×THREEがデビューした2019年以降、大元のレディースラインであるTHREEからは、「消える粉」と呼ばれて評判になったアドバンスドエシリアルスムースオペレータールースパウダー(2021年2月発売)などのバズりアイテムが生まれている。

実店舗も、わたしがよく利用していたニュウマン新宿店は2年ほど前に閉店しており、正直売り上げは厳しいのかもしれない。ニュウマン新宿店が閉店したので、新宿駅周辺だと今は伊勢丹新宿メンズ館と小田急百貨店新宿店がある。個人的には、伊勢丹新宿メンズ館は陳列がごちゃついており、とてもじゃないけどゆっくり色味を見たりタッチアップ*3を受けたりする雰囲気ではないのでおすすめしません。

 

 

 

4.商品について

製品。

製品の蓋を開けたところ。

価格:ケース 1980円、リフィル 4180円、計 6160円 容量:12グラム

 

ゲームフェイスカモキットはフェイスパウダーである。公式サイトによると、GAMEFACEはゲーム(主にフットボールの試合)の際、本当は怖いけれどそれを見せずに勇敢に戦うときの表情で、KAMOKITはカモフラージュをもじった造語だそう。これもやはり、メイクしているとバレないことを示唆するネーミングですね。実際、ゲームフェイスカモキットは皮脂によるテカリを抑制するための透明なパウダーであり、見た目はベージュ色だが顔に伸ばすと色はつかない。

手に出してみたらこんな感じ。ほぼ見えませんね。

 

手のスウォッチ。

 

容器はカードよりは大きく、お札よりは小さいくらいのサイズ感。厚さは1.3センチほどでかさばらず、鏡とブラシつきなので持ち運びにも便利そうだ。

 

Suicaと千円札との大きさ比較。

製品を手に持ったところ。

 

パッケージはこんな感じ。

 

パッケージ裏。

パッケージ裏。

 

付属のブラシでパウダーの上を左右にこすって取る方式だが、その際にパウダーが飛び散るのが気になりました。このデメリットは、過去記事で紹介したレディースコスメのRMK(アールエムケー)のシルクフィットフェイスパウダーもそうだったので、四角いパウダーはどれもそうなのだろう。

 

シルクフィットフェイスパウダー。

 

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丸い容器なら、円を描くようにパフを押しつけて取る方式なので、飛び散ることは少ない。しかしそんなことはメーカーの人はわかっているはずなので、あえて四角い容器を採用したのは、レディースコスメの一般的な容器(多くは丸型)と差別化したかったからかもしれません。丸いコンパクトを開いてパフで粉を塗る仕草ってけっこう女性的とされてますからね。

プチプラでも、LIPPS BOY(リップスボーイ)が四角いパウダーを出しています。

 

products.lipps-hair.com

フェイスパウダー

価格:2860円 容量:11グラム

 

リップスボーイは先に紹介したオーシャントリコと同じで、メンズ専用美容院のリップスが開発しているメンズコスメである。価格帯もデザインもFIVEISM×THREEよりは若向けな感じがします。公式サイトを見ると、トップに以下のコンセプトが踊っている。

 

products.lipps-hair.com

 

生まれ持った肌や

顔のパーツを整える。

目も、眉毛も、案外いいじゃん。

髪をセットするように。

服を着替えるように。

肌を、顔を、スタイリングしよう。

 

「カッコよくなる」は我慢しない。

 

やはりここでも、「生まれ持った肌や顔のパーツを整える」とあり、女性のカラフルなメイクとの差別化と本質主義が見て取れます。「髪をセットするように。服を着替えるように。肌を、顔を、スタイリングしよう。」とは、ヘアセットや着替えといった男性が日常的に行う行為の延長線上にメンズメイクがあるとする演出ですね。FIVEISM×THREEのジッポライター云々と同じだ。「肌を、顔を、メイクしよう。」ではなく「スタイリングしよう。」なのも心憎い。さらに最後、バナーにも大きく踊っている言葉「『カッコよくなる』は我慢しない。」が強烈である。ここには、男性ジェンダー者が女性ジェンダー者と違って社会的にメイクを強要されることはない反面、メイクをはじめとする美を目指す行為から疎外されてきたとする世界観が見て取れます。「カッコよくなる」のは、したいと思っていても「我慢する」ようなものなんですね。自分にとってプラスに働く行為であるにも関わらず。男性主導の社会の抑圧が当の男性自身をも縛っているいい例でしょう。そんなリップスボーイの四角いパウダーは、パフがグレーをしている(一般的なレディースコスメのパフはベージュ色)。公式サイトには「男性でも抵抗なく使いやすい様に、中のパフの色をグレーに。」と書いてあります。グレーにするのはいいが、わざわざ明記されちゃうとわたしが男性だったらちょっとナメられてるような気分になると思うんですけど、どうなんでしょうね。

 

 

以上、FIVEISM×THREEのゲームフェイスカモキットについてでした。

 

www.threecosmetics.com

 

ちなみに、FIVEISM×THREEの紙袋はグレーでロゴも小さく、メイク用品感がないように作られています。これも、男性の抵抗感を軽減する工夫なのでしょう。

 

紙袋。

 

 

 

5.補足 おすすめのフェイスパウダーの選び方

メンズコスメに限らずフェイスパウダーを買うならば、個人的にはパフと鏡つきのプレストパウダーがおすすめです。

プレストパウダーとは、今回取り上げたゲームフェイスカモキットのように、押し固められた固形の粉である。フェイスパウダーにはそのほかにもルースパウダーという、押し固められていないサラサラの粉の形式もある。しかしルースパウダーは、舞い散りやすくて指が汚れるので初心者やADHDにはおすすめしません。

 

左がプレストパウダー、右がルースパウダー。角砂糖と普通の砂糖のようなものだと思えばいい。

 

プレストパウダーとルースパウダー。

 

過去に書いた、フェイスパウダーまとめはこちら。

 

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メンズコスメレビュー、その3はこちら。

 

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*1:assigned female at birth の略。出生時に女性を割り当てられること。AMAB=assigned male at birth は出生時に男性を割り当てられること。

*2:プチプライスコスメの略語。マツキヨなどのドラッグストアや、PLAZAやロフトなどのバラエティッショップで販売されている廉価なコスメのこと。おおむね2000円以下のアイテムが多い。

*3:欲しいアイテムを、美容部員(BA)さんに実際に顔につけてもらうサービス。COVID-19禍以降は制限を設けるブランドが多かったが、2023年6月現在は解禁傾向にある。