最終更新:2023.7.20
ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その5です。
過去回はこちら。
わたしはテストステロン投与(男性ホルモン治療)を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。
今回は、uno(ウーノ)のオールインワンリップクリエイターをレビューしていきます。過去にマスクメイク紹介の記事でも軽く触れたが、もっと詳しく見ていきます。
- 1.unoとは
- 2.unoのCMを見てみよう
- 3.レビュー オールインワンリップクリエイター
- 4.レディースコスメの無彩色ティント
- 5.リップっぽい形状は男性にとって使いにくい?
- 6.メンズコスメの色変リップクリームまとめ
1.unoとは
unoは1992年創業のメンズコスメブランド。老舗化粧品メーカーの資生堂が運営し、ヘアケア・ボディケア・スキンケアから簡単なメイクアップアイテムまで多種を展開しています。前回のレビューノックで紹介したギャツビーの対抗馬ポジションのブランドですね。
公式オンラインショップのブランド説明は「自分を大人に引き上げたいハイティーンから30代男性をターゲットに、多様な個性を自由に楽しめ、清潔感ある第一印象を演出できるプロ仕様のメンズグルーミングブランド。整髪料は高いスタイリング力を実現し、スキンケアは肌のコンディションをスマートに整え、大人への進化をサポートします。」とあります。この「グルーミング」は、メンズコスメ業界に頻出の単語です(わたし調べ)。日本語で表すなら「身だしなみ」が近いと思う。スキンケアやボディケアや化粧品をひとまとめにして広義の身だしなみ整えグッズとして呼ぶとき特有の単語です。レディースコスメの場合、ファンデーションやリップといった化粧品は、ヘアケアやボディケアとは別の独立したカテゴリーと認識されていることと思うが、メンズコスメの場合、男性が従来から使ってきたアイテムの一環として認識させるような言葉使いがなされているんですよね。男性の化粧への抵抗感を少しでも軽減して、従来の身だしなみの延長線上として手を伸ばしてもらおうとする意図があるのだと思われる。ちなみに、グルーミング(grooming)の原義は、動物が体の衛生や機能維持などを目的として行う毛づくろいなどの行動のことである。動物も行っていることと連想させて、自然な行動であると印象づける意図もありそうだ。
2.unoのCMを見てみよう
そんなunoだが、大手メーカーだけあって豊富にCMを作成しているので少し見てみましょう。
2023年7月現在、イメージモデルは竹野内豊(1971年生・現在52歳)、窪田正孝(1988年生・現在35歳)、高杉真宙(1996年生・現在27歳)が務めています。いずれも人気の美形俳優ですね。現在公式YouTubeで公開されているCMはどれも、スーツを着用してサラリーマンに扮する3人の寸劇スタイルである。竹野内豊演じる上司または先輩社員に若手2人が憧れており、竹野内豊のかっこよさの秘訣はunoの商品であるという展開が多い。過去には「男の俺も惚れちゃウーノ」というオモシロ決め台詞もありました。
過去記事でも書いてきたように、メンズコスメのCMはスーツを着たビジネスパーソン、いわゆるホワイトカラーの男性をターゲットにしていることが圧倒的に多い。理由はいくつか考えられるが、一つには、営業やプレゼンテーションなど、見た目の印象も大事な場面が多いと想定されているからだろう。unoのCMはホワイトカラー男性向けの典型で、スーツ着用でないCMが見当たらないくらいだ。
なお、令和のエリートのイメージの一例がバチェラー(恋愛リアリティ番組。ルックスよし社会的地位よしの才色兼備な独身男性のパートナーの座を巡って女性たちが争うさまを描く)だとすれば、複数のバチェラーがメンズ美容に関わっているのは興味深いところです。
歴代バチェラーの久保裕丈氏・小柳津林太郎氏はunoのCMに出演しています。
ビジネスパーソン向けメディア新R25のYouTubeチャンネルでは、久保裕丈氏・小柳津林太郎氏・友永真也氏がメンズ美容について討論しています。光脱毛器のPR動画でもある。
黄皓(こうこう)氏はメンズ美容プロダクションのSoft Drinkに関わっています。
unoのCMでもう一つ注目すべきは、ビジネスパーソンに扮する竹野内豊がひげを生やしていることである(すべての動画ではなく、一部ではあるが)。スーツを着るような職種では男性のひげは許されないことのほうが多いと思われるので、あえてのひげは目を引きます。これは、従来的な男性らしさを強調し、メイクやスキンケアにまとわりつく女性向けのイメージを払拭する意図があるのではないでしょうか。100本ノックその2で紹介した日本初のメンズメイクアップブランドFIVEISM×THREE(ファイブイズムバイスリー)のイメージビデオに出ている外国人男性もひげ面でした。100本ノックその4で触れたメンズ日傘ブランドIZAのイメージモデルのオダギリジョーと窪塚洋介も、ひげを生やしていました。ちなみにオダギリジョーは2008年にunoのCMにも出演しています。
男性にメンズコスメを身近に感じてもらうためにひげをとっかかりにする作戦は、男性モデルの容姿だけではなく商品名にも表れています。
例えば、先述したFIVEISM×THREEにはコバートディフィニションツール フォーアイブロウズ&ビアードという商品がある。
レディースコスメでいうところのアイブロウマスカラで、眉毛をカラーリングする液体であるが、ひげや白髪隠しにも使えることになっている。
また、100本ノックその3で紹介したORBIS Mr.(オルビスミスター)にはビアード&アイブロウペンシルという商品がある。
眉毛を描くためのアイブロウペンシルだが、こちらも、ひげやもみあげを描くのにも使えることになっています。ちなみに商品説明には「眉毛と髭に印象を刻むグルーミングツール」とあり、グルーミングという単語が使われています。
わたしは今のところひげは生えていないので(テストステロン投与の作用でいずれ生えてくる可能性はある)わからないのですが、これらのコスメを実際にひげに使う人はそう多くはないのではないでしょうか。やはり、実際にひげを想定しているというよりも、ひげの持つ男らしさのイメージを利用しているのではないかと思われる。
3.レビュー オールインワンリップクリエイター
価格:880円 容量:2.2グラム
さて、unoのオールインワンリップクリエイターである。
簡単に言うと、色つきのリップクリーム。唇を保湿するとともに、うっすらピンク色に色がついて血色感を足して健康的に見せることができる代物です。
パッケージはこちら。
うっすらピンク色に色がつくからくりは、ティント処方と呼ばれるもので、唇の水分量やpH値に反応して染料が浸透する仕組みです。通常のリップは染料ではなく顔料によって色を唇の上に乗っけているだけだが、ティントのリップは染料で唇の角質そのものを染めているので、色が長続きします。レディースコスメでいうと、オペラのリップティントなどが有名。
オペラのティントは2019年ごろまで落ちにくいリップの定番だったが、コロナ禍でよりマスクにつきにくいKATE(ケイト)のリップモンスターが大バズりしてからすっかり影が薄くなってしまった。
発色はこんな感じ。透け感のある青味ピンクです。
絵の具のように色をかぶせる顔料ではなくて、化学変化で染める染料なので、リップそれ自体はピンク色ではないのがミソである。レディースコスメでは、上記のオペラのリップのように、色がわかりやすいようにリップ自体も赤やピンク色で作るのが一般的です。しかしこのunoのリップは、本体に色素を入れずグレーのままなのが面白いですね。
これも、女性らしさを抑える工夫の一環でしょう。一般的に寒色や無彩色は男性的な印象を与える色とされていますし、赤やピンクが多いレディースコスメのリップと差別化することもできます。
また、ティントは塗った人の唇の水分量やpH値に反応して反応するので、人それぞれ微妙に違う色に発色する。よって、メンズコスメ広告に頻出の概念である「自分だけの個性」「自分だけの魅力」と相性がいい。例えばVT(ヴイティー)のシカフォーメン ナチュラルリップバームは、オールインワンリップクリエイターと同じく本体は寒色(緑色)だがピンク色に発色するもので、「俺だけカラーで印象を変える」とのキャッチコピーがついています。
しかし、自分だけの色になるからといって自分に似合う色に発色するとは限らないので注意です。似合わない色に発色する可能性も普通にある。しかしメンズカラーリップは薄づきなのでそこまで心配しなくていいと思います。
4.レディースコスメの無彩色ティント
ちなみに、レディースコスメにおいても、本体の色が無彩色であるティントリップは存在します。多くは黒色で、ゴシックっぽさやモードっぽさの表現として好まれているようだ。わたしの手持ちの中だと、GIVENCHY(ジバンシィ)のランテルディリップスティック No.16 ノワール・レヴェラトゥールがそれにあたります。名前も見た目もカッコいいので就活のお守りリップとして買った記憶があります。現在は廃盤。
プチプラ*2では、マジョリカマジョルカのピュア・ピュア・キッス NEOの96番も有名ですね。
マジョマジョのピュア・ピュア・キッス NEOといえば、個人的に思い出すのが美容ライターの長田杏奈氏の2018年の連載「#美容迷子のお守りコスメ」の第1回である。
登場するラジオ局ADの25歳女性は、ちょっとリップを塗ったりフェミニンなスカートを履いたりすると「デート?」と詮索される環境にいます。多忙続きで美容にかける時間もない中、「丸の内OLみたいな人生楽勝コースもあったんじゃないか」と夢想する彼女。手っ取り早く丸の内OLに近づけるコスメはありますか? というのが相談内容なわけですが、まあわかりやすくミソジニックですよね。クリエイティブ業界のホモソーシャルに過剰適応してるタイプのこういう女性AD、いるわあ~(過去の傷が疼く)(わたしは映像プロダクションでADのバイトをしていたことがあります)。そこんとこをやんわり指摘する長田氏。
だんだん浮き彫りになってきたのは、るみこさんは「丸の内OL」や「美人で裕福な専業主婦」を羨み憧れるポーズをとりつつ、彼女たちをちょっと小馬鹿にしているのかなという点。たぶん、基本的にはご自身の自立心や個性、知性、女っぽく媚びないキャラクターに自負とプライドを持っている。けれど、そういう魅力がスラスラ通じなかったり、つらいときに正反対のキャラクターの人が楽勝っぽく見えたりすると気になってしまうのではないでしょうか?
自分の選ばなかった道を選んで歩いている人のことを、勝手に楽勝と決めつけるのはフェアではありません。るみこさんのように3時間しか寝られない日が何日も続いてヒゲがはえるみたいな場面はないかもしれないけど(私はあります)、その人たちにも種類のちがう不安や苦労があるはずです。ましてや、マスコミの未来を担う人材には、立場や価値観がちがう人を簡単にカテゴライズせずに思いやる感覚を持っていてほしい。たとえ、ネタだとしてもな!
そして、そんな彼女に長田氏が勧めるコスメの一つが、マジョマジョのピュア・ピュア・キッス NEOの96番なわけです。「『女として張り切っていると思われたくない』という精神的なハードルと、『どうせ落ちるから』という物理的なハードル」をクリアできるものとして紹介されています。
こんなにゴスでロックな見た目のリップだったら、塗っているところを見られても照れくさくならないはず。「ほら、デートじゃないっす。見りゃわかるでしょ」って、印籠(いんろう)代わりにも使えます。ちょっとした毒っ気を外見にも反映させることで、将来wikiられる女の引っかかりを出していきましょう。
このADさんは女性なわけですけど、女性でも、赤やピンクのリップよりも黒のほうが使いやすいと感じるシチュエーションはあるわけです。わたしが就活のお守りリップとしてGIVENCHYの真っ黒ティントを買ったのも、武装として使いたいから黒色の強さを気に入ったわけで。ADさんにもわたしにも、感覚の根底にはミソジニーがあることは否定できないでしょう。
5.リップっぽい形状は男性にとって使いにくい?
さて、unoのオールインワンリップクリエイターに関してもう1点、その形状に注目したい。
先端がレディースのリップのような、アーモンドみたいな尖った形なんですよね。
この先細りの形状は、唇の細部まで塗りやすいというメリットがあり、多くのリップやリップクリームで採用されています。しかし、レディースのリップに似ているからこそ使いにくいと感じる人もいるらしい。2019年1月、インフルエンサーのレンタルなんもしない人氏がその旨発言して軽く物議を醸しています。
去年もらったDHCのリップクリーム、めちゃくちゃ良いけど、切り口が斜めになってるせいか男が堂々と使うにはややハードルが高い pic.twitter.com/R3wtnsBBNK
— レンタルなんもしない人 (@morimotoshoji) 2019年1月4日
愛用しています
— あんず (@prizm_rain) 2019年1月4日
普通のリップクリームより潤いが続くので 塗る回数少なくてすむからかえってコスパいいなと思ってます
斜めの方が塗りやすいんですけど 男性のかたは恥ずかしいんでしょうか?
気にしたこともなかったのでびっくり
口紅塗ってるように見られたらどうしようと思っちゃうんですが、自分だけかもしれません。
— レンタルなんもしない人 (@morimotoshoji) 2019年1月4日
先端が女性の口紅みたいになっているリップクリームは、口紅を塗っているように見られたくないから抵抗があるというわけである。レンタルなんもしない人氏の感覚がどれほど一般的なのかはわたしには判断がつかない。男性ジェンダーで生きている方の意見を聞きたいところである。
「口紅を塗っているように見られたくない」と心配するシスヘテロ男性の感覚を、ミソジニックである、ホモフォビアであると批判するのは容易い。実際そのような批判は的を得ているとは思う。しかし、男性ジェンダーを生きている人が「女性らしい」とされているものを使うときの外面そして内面からの抑圧がどれほどのものか、わたしには芯からはわからないのだから、即座に断罪することはしたくないと思う。少なくとも、メンズコスメを通じてジェンダーを捉え直す試みを行っているこの記事でやることではない。「女性らしい」ものに対するミソジニーは女性にもあることは、前項でも指摘した通りだ。
100本ノックその3で触れたメンズ日傘ブランドIZAが男性を武士に喩えているのも、女性ジェンダーに親しんでいるわたしからすると滑稽に感じてしまうが、そこはお互い様である。女性ジェンダーを生きる人とて、男性ジェンダーを生きる人から見ると滑稽に思えるエクスキューズ(言い訳)を必要とする場面はあるのだ。
武士という漢度(おとこど)高いコンセプトを作ってもらわなきゃおちおち日傘も差せないのかと笑うべきではなくて、女性ジェンダーに生きる者も端から見たら滑稽なエクスキューズを必要としてしている場面はあるんですよね
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2023年7月10日
藤谷千明さんがおっしゃっていたように女性の滑稽エクスキューズの一例は「セックスすると女性ホルモンが出て美容にいい」。エッチなことを楽しむのに言い訳が必要なんですね。この立鳥レポもそう。オナニーじゃなくてセルフプレジャーと呼ぶ必要がある理由も、あるいは。https://t.co/oJq4OA3oI1
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2023年7月10日
広告から見る男性向け・女性向け双方のエクスキューズの差異については、今後も考えていきたいと思う。
6.メンズコスメの色変リップクリームまとめ
最後は商品情報まとめです。オールインワンリップクリエイターのように、本体はピンクではないがピンクに発色する色変リップクリームはたくさんのメンズコスメブランドが出しているので、いくつか挙げておきます。参考にしてください。中身はどれも似た感じなので、デザインの好みとかで選んじゃっていいと思う。
■THE FUTURE(ザ・フューチャー) リップケアクリーム パーソナルリップカラー
価格:1980円 容量:1.5グラム
■SHISEIDO MEN(資生堂メン) モイスチャライジング リップクリエイター TINT
価格:2750円 容量:2.0グラム
■KOSE マニフィーク ナチュラルリップバーム 99 002 ティント
価格:1650円 容量:3グラム
以上、unoのオールインワンリップクリエイターについてでした。