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ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック その4:gatsby THE DESIGNERのオールインワンネイル

 

 

 

ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その4です。

過去回はこちら。

 

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わたしはテストステロン投与(男性ホルモン治療)を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。

 

今回は、gatsby THE DESIGNER(ギャツビーザデザイナー)のオールインワンネイルをレビューしていきます。

 

 

 

 

1.ギャツビーザデザイナーとは

ギャツビーザデザイナーの製品を使ったことがない男性でも、ギャツビーは聞いたことがあるんじゃないでしょうか。

ギャツビーのアイテムをいくつか並べてみます。

 

 

ほとんどの人が、ドラッグストアなどで見たことがあるのではないか。実際に使っている/使ったことがある人も少なくないと思います。それもそのはず、ギャツビーは、ヘアスタイリング剤からシャンプーといったヘアケア用品、洗顔料などのスキンケア用品、髭や眉を整えるツール、汗拭きシートや消臭剤などの身だしなみツールに至るまで、男性の身体を整えるグッズのほぼすべてを展開する大手ブランドなのです。1978年のブランド創業以来、古くは松田優作から本木雅弘、木村拓哉、最近は松田翔太から佐藤健まで、時代を彩る「いい男」たちをCMに起用しつつ、男性用化粧品分野でトップクラスのシェアを誇っています。わたし自身、美容にとくにリソースを割いていないと思しき男性の家に行くと、百発百中といっていいくらいギャツビー製品が置いてあるのを見てきました。製品が幅広く、ドラッグストアやスーパーには必ず置いてあるため、とくにこだわりなく見繕うとギャツビーを手に取ることになるのでしょう。

 

ギャツビーザデザイナーとは、そんなギャツビーから2021年10月に出た派生ブランドで、本家ギャツビーよりもメイクアップ用品が充実しているのが特徴です。

面白いことに、ギャツビーザデザイナーには独立した公式サイトがあり、それは本家ギャツビーの公式サイトから飛ぶことができません。わたしが見落としているだけかもしれないが、少なくとも、ざっと見た感じではわかりやすくリンクが貼られてはいないです。

これが本家ギャツビーのサイト。ギャツビーザデザイナーに至る導線はないように見える。

 

www.gatsby.jp

 

ギャツビーザデザイナーのサイトはこちら。

 

gatsby-the-designer.jp

 

ブランド側は、ギャツビーユーザーがその延長線上でギャツビーザデザイナーに手を伸ばす、といったフローを想定していないのでしょう。ギャツビーザデザイナーを使う人は、「メンズメイク」「メンズコスメ」などで検索して独自にギャツビーザデザイナーにたどり着くと想定されているのだと思われる。

 

 

 

2.ギャツビーザデザイナーの商品を見てみよう

さて、そんなギャツビーザデザイナーであるが、いくつか商品を見てみてほしい。

 

 

すべての商品の外箱に、若い美貌の男性の水彩画がついています。

ゆるパーマやセンターパートといったお洒落な髪型やアンニュイな表情は、今どきの韓国ボーイズグループのファッションフォトを思わせます。イラストレーターは、ざっと調べた感じ名前は出ていないようで不明。

ちなみに、公式サイトの商品一覧には外箱から出した製品の姿で掲載されているので、ネットで見ているだけだと気づきにくい。実店舗でメンズコスメ売り場を眺めていると、シンプルで直線的なデザインのパッケージが多い中で、ギャツビーザデザイナーは異彩を放っています。目立つためだとしたら大成功してると思う。

 

本家ギャツビーのパッケージは、大文字で効果効能がどかんと印字してあり、簡便だが洗練されてはいない、楽天の広告のような泥臭い印象でした。これは、細かいことを気にせず豪快で、合理的で即物性を求めて、装飾には興味がないといった、男性ジェンダーのステレオタイプと無関係ではないはずです。ステレオタイプがブランド側の想定する男性ユーザー像に影響し、その男性ユーザー像向けに作られた広告がまたステレオタイプを助長するという共犯関係があるのは間違いないでしょう(その是非はここでは置いておきます)。

ギャツビーザデザイナーの広告イラストの男性は明らかに、美容にリソースを割いている「おしゃれ」な外見をしており、従来的な男性のステレオタイプから逸脱しています。

近年の調査によると、メンズメイクに肯定的な男性は増加しており、年齢が低いほど抵抗が薄れる傾向にあります。

 

prtimes.jp

 

prtimes.jp

 

ギャツビーザデザイナーのデザインは、変わりはじめている男性たちに応えていると言えるでしょう。

もちろん、「今どきの若い男性」だからといって従来的ステレオタイプと無縁なわけではもちろんなく、若い世代には若い世代なりのマッチョイズムがあることはジェンダー研究者も指摘するところなのは留意しておく必要があります。

 

ポストフェミニズムにおける男性性を論じた河野真太郎『新しい声を聞くぼくたち』では、新自由主義時代のミソジニーをポピュラー・ミソジニーと呼んだバネット=ワイザーの論が紹介されている。

bookclub.kodansha.co.jp

 

 

 

3.メンズネイル、ネーミングいろいろ

さて、ギャツビーザデザイナーのマニキュアである。商品名をオールインワンネイルという。ベースコート(最初に塗り、色素沈着を防いだり色持ちをよくしたりする)やトップコート(最後に塗り、ツヤを出したり強度を上げたりする)が不要で、これ1本を塗るだけでいいタイプということだ。商品の性質を端的に表した名前ですね。

前回のメンズコスメレビュー100本ノックで紹介したORBIS Mr.(オルビスミスター)のマニキュアは、ネイルケアプロテクターという名前でした。

 

 

www.orbis.co.jp

 

加えて、前々回のレビューノックで触れた、日本初のメンズメイクアップブランドであるFIVEISM×THREE(ファイズムバイスリー)のマニキュアは、ネイルアーマーという名前です。

 

www.threecosmetics.com

 

さらに、わたしは買っていませんが、大手国産化粧品メーカーであるKOSE(コーセー)が展開するメンズコスメブランドのマニフィークからは、ネイルシールドというマニキュアが出ています。

 

magnifique-beauty.com

 

プロテクター(防護具)、アーマー(鎧)、シールド(盾)。戦いを連想させる言葉が続きますね。

メンズ美容業界ではもっと直接的なネーミングをしているブランドもあります。例えば、イギリスにはその名もWAR PAINT(ウォーペイント)というメンズコスメブランドがあります。2018年創業で、日本にも上陸しています(まだ取り扱い店舗は多くないですが、都会を中心に全国展開している)。日本ではまだ少ないヴィーガンコスメブランドでもあり、メンズメイクをしたいヴィーガンの方にとっては選択肢となるでしょう。

 

warpaintformen.jp

 

コスメだけではありません。例えば、メンズ日傘ブランドIZA(イーザ)のブランド名は、武士の掛け声「いざ!」に由来すると公式サイトに明記されています。

 

wpc-worldparty.jp

 

IZA(イーザ)というブランド名に込められた想い。

 

それは、武士(侍)が思い立ち コトを始める際に放つ言葉「いざ!」に由来する。

 

男性が「傘を持ち歩く習慣をつくる」コト。 それは私たちにとって、挑戦だ。

 

同じように、今日この傘を手に携える男性もなにかコトを起こそうと一歩踏み出している人ではないかと想像する。

 

さぁ。いざ!今日という一日を、切り拓け。

 

 

男性を武士に喩えるならば、日傘はさしずめ刀といったところでしょうか。

こちらの宣伝ビジュアルのオダギリジョーの表情は、時代劇で武士が刀を構える場面といっても通用しそうです。

 

 

美容が戦いに喩えられること自体は、珍しいことではありません。「メイクで武装する」などの表現は、女性からもしばしば聞くことです。

文芸サークル「劇団雌猫」は、2018年の書籍『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』で、オタ活にも美容にも積極的な女性たちの美容語りを収集しています。

 

www.kashiwashobo.co.jp

 

『だから私はメイクする』をめくると最初に目に飛び込んでくるカバーそでには、「『自分がどうありたいか』を知るために、私たちは今日もおしゃれして、“社会”という名の戦場へ向かう」とあります。

 

 

ここでは社会が戦場に喩えられ、おしゃれは自己理解を深め戦場でサバイブするためのツールであるとされています。本文中にも、美容と戦いの親和性を連想させる発言は複数見られます。

 

私が目指しているのは “男性ウケが良さそうな親しみやすいかわいさ” ではなく “浮世離れしていて迂闊に話しかけられない強い顔”。意見をいただいても、「私のメイク、ちゃんと周りを威嚇できてたんだ!」と、引き続き強いメイクをし続ける自信に繋がるだけだ。

──CHAPTER.1 自分のために/あだ名が「叶美香」の女 より(p.14)

 

私にとってのおしゃれって、戦闘民族が戦いに行く前にする顔に施す紋様とか、古代の人たちが願掛けのためにしていた入れ墨とか、そういうものなんですよ。

──インタビュー01 宇垣美里 より(p.47)

 

ストレートヘアにブラウンでまとめたナチュラルメイク、UNIQLOのジーンズにZARAの無地ロングカーディガンをはおっただけのスタイルは、私にとってなによりの武装。(中略)あなたたちの見ている私は「ナチュラルな私」という鎧をわざわざつけているわけなので、そこのところよろしくお願いします。

────CHAPTER.2 他人のために/会社では擬態する女 より(p.54)

 

規範から外れて理想の顔になるため、会社でつつがなく過ごすため……個々の目的は違えど、自らの欲望を反映した美容は、女性たちにとっては鎧や盾として心を守ってくれるものなのです。この社会で女性として生きることには、まだまだ困難がつきまとう昨今である。武装とは大げさでもなんでもなく、女性たちの心理を正しく表した言葉なのでしょう。また、威嚇や武装といった強い言葉は、「女性は男性にモテたくて美容を行うものである」というステレオタイプを否定するために要請された面もあるでしょう。シスジェンダーではないものの女性の境遇で生活し女性に近しい経験を重ねてきたわたしとしても、実感として同意するところです。

 

翻って、メンズ美容である。

レディースコスメ(ない言葉)を用いてレディース美容(ない言葉)を行う女性たちが美容を戦いに喩えるのは、既存の社会規範へのカウンター的意味合いの強調としてしっくりきます。しかし、メンズコスメやメンズ美容が戦いの語彙で表現されるのは訳が違う。戦う男のイメージは既存の男性ジェンダーのステレオタイプに内包されています。社会的強者とされる男性においては、戦いに精進することはカウンターにはなり得ない。むしろそうしたマッチョイムズこそが有害であり男性自身をも苦しめているとされています。

ネイルカラーでもなくネイルエナメルでもなく、プロテクターだのアーマーだの、従来的な男性ジェンダーに親和的な語彙を使うことで、メンズコスメブランドは、男性に親しみを持ってもらおうとしています。実際、男性がメイクすることへの世間の目は、まだまだ厳しい。そんな中でメイクを行って外に出ることは、男性にとっては挑戦であり戦いの意味を持ち得ることでしょう。それでも、マッチョな語彙を使っては本末転倒なわけです。メンズコスメブランドは、ネーミング一つとっても繊細なバランス感覚が要求される難しい局面にいると言えるでしょう。

 

【補足】

社会構造上、男性は社会的強者であり女性は社会的弱者であるが、女性の営為がいつも無辜であるというわけでは決してない。2010年代の劇団雌猫の活動は「不細工で根暗で気持ち悪いオタク女」というミソジニックなステレオタイプを塗り替えて、趣味に仕事に美容に人生を謳歌する生き生きとしたオタク女性像を普及させた。それは女性へのエンパワメントであり、フェミニズム的であった。しかし、劇団雌猫的語りに登場する女性たちの人生模様は結局のところ資本主義社会における「消費者」活動に終始するものであり、煌びやかな資本主義の倫理でもって女性間の多様性やそもそもの不平等な社会構造を透明化するものであると、文筆家の水上文はユリイカ2020年9月号『特集=女オタクの現在』収録の「〈消費者フェミニズム〉批判序説」にて批判している。可処分所得からすると過剰なくらいにコスメやファッションに金銭をつぎ込んでいる人間の一人としてわたしにも無関係な話ではないが、この場では紹介だけに留めておく。

 

www.seidosha.co.jp

 

 

 

4.レビュー ギャツビーザデザイナーのオールインワンネイル クロムシルバー

価格:1430円 容量:10ミリリットル

 

gatsby-the-designer.jp

 

 

ギャツビーザデザイナーのオールインワンネイルは、ピンクやベージュなど自爪に馴染むナチュラルカラー3色を展開する「ナチュラルライン」、ブラックやシルバーなどのアクセントカラー3色を展開する「エッジィライン」からなる。わたしはエッジィラインの一つであるクロムシルバーを購入しました。

 

パッケージはこんな感じ。先述の通り、美貌の若い男性のイラストがついています。

 

 

パッケージ裏はこちら。機能と使用方法が明記されているのが好感度高い。ネイルに慣れていない人も使いやすいだろう。

 

 

使用方法通り、ベースコートもトップコートもなしで一度塗りしてみたのがこちら。

 

 

公式サイトに「アクセサリーと相性の良いクロムシルバー」とある通り、シルバーアクセサリー合わせで映えそうな王道の銀色です。

過去記事で紹介した銀色のネイルであるダイソーのGENEネイル シルバーカラーと比べると、色の粒子が細かくて滑らかです。

下記写真の銀色がGENEネイル。表面が砂のようにざらついているのがわかります。

 

 

銀色は少ない面積でも目立つので、ネイルアートにも映える色であり、一本持っておいて損はないでしょう。先述のORBIS Mr.のネイルケアプロテクター 04 ドーンザイナイトと合わせてみたのがこちら。

 

 

ネイルアートというと難易度が高く聞こえるが、要はちっちゃなお絵描きなので、気軽に始めてみていいと思います。上記のネイルアートは細く切ったマスキングテープを雑に貼って作りました。

 

 

ネイルズインクのプラントパワー インナーピースオブミーと合わせてみたのがこちら。

 

 

どちらもよく見ると細部がガタガタで、自慢できるようなクオリティではないかもしれないが、自分の気分がアガればそれでいいのである。最初は誰しももっとガタガタだが、ネイルは死に覚えゲーなので仕方がない。

 

というか、ネイルに限らず、メイク全般は死に覚えゲーな節があります。女性なら最初からメイクの知識がインストールされているわけではなく、皆大なり小なり試行錯誤しているのである。学ばなければなにもわからないのは、男性も女性もそれ以外もほとんど変わらない(まったく変わらないわけではないとは思う。女性ジェンダーとして生活していると美容文化によくも悪くも接しやすい面はあり、男性ジェンダーの人よりは比較的とっかかりを得やすい傾向はあるだろう。しかしもちろん個人差が大きい)。

セルフネイルは、最初は難しい。でも、慣れてきたらなかなかいいもんだぞ。

 

以上、ギャツビーザデザイナーのオールインワンネイルについてでした。

 

 

 

5.ネイルをする前のお約束

さて、前回のレビューと今回と、立て続けにネイルについて書いてきたわけだが、一つだけ、これだけでも憶えて帰ってほしいことがあります。それは、ネイルを塗る前には必ずトイレに行ってほしいということです。

過去のメンズコスメレビュー100本ノックの記事で、メイクには明文化されない「名もなきステップ」が無数にあり初心者殺しであると書いた。「ネイルを塗る前にトイレに行っておく」も名もなきステップの一つだと思う。最近のマニキュアはプチプラ*2でも質が高く、表面が5分以内に乾く速乾のものが多い。しかし、パンツを下ろしたりトイレットペーパーを引っ張ったりして指をがっつり使う日常の動作は、マニキュアを塗ったあとは1時間くらいは控えたほうがいいと思います。表面は乾いてても中はまだ柔らかくて、指をぶつけたりするとよれて汚くなるので。だから、先にオシッコまたはウンチを済ませておくべきなのです。

 

ネイルの前にトイレに行け。

 

これが今日の結論です。

 

以上、メンズコスメレビュー100本ノックその4でした。

 

 

 

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プチプラコスメから見る社会について。

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*1:assigned female at birth の略。出生時に女性を割り当てられること。出生時女性。AMAB=assigned male at birth は出生時に男性を割り当てられること。

*2:プチプライス・コスメの略語。マツキヨなどのドラッグストアや、PLAZAやロフトなどのバラエティッショップで販売されている廉価なコスメのこと。おおむね2000円以下のアイテムが多い。