敏感肌ADHDが生活を試みる

For A Better Tomorrow

ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック その13:VARONのオールインワンセラム

 

 

 

※本記事はアフィリエイトリンクを含みます。

 

ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その13です。

 

過去回はこちら。

 

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

www.infernalbunny.com

 

わたしはテストステロン投与(男性ホルモン治療)を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。

 

今回は、VARON(ヴァロン)のオールインワンジェルをレビューしていきます。

 

 

 

 

 

1.サントリー代表取締役社長の発言について

VARONはサントリーが運営するメンズコスメブランドである。サントリーとは、飲料メーカーとして有名なあのサントリーのことだ。ペットボトル飲料の天然水や伊右衛門、なっちゃん、缶コーヒーのBOSS、お酒のほろよいや金麦やストロングゼロなど、知らない人はいないだろう。

 

www.suntory.co.jp

 

しかし、そのサントリーがメンズコスメも出しているとは知らなかった人も多いのではないか。サントリーホールディングスは実はサントリーウェルネスという健康事業を扱う株式会社を持っており、健康食品やサプリメント、スキンケアやヘアケア用品などを扱っている。メンズコスメブランドVARONは、サントリーウェルネスの事業の一環として運営されているのである。

そんなVARONについて見ていく前に、少し前にインターネットを騒がせたサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長の新浪剛史(にいなみたけし)氏の発言について触れておく。2023年9月、新浪氏は日本記者クラブの講演にて国民健康保険廃止論とも取れる発言をして批判を呼んだ。この発言については誤解として弁明・謝罪がなされたが、それ以前からの言動からして新浪氏が保険証廃止・マイナンバー制度推進賛成の考えを持っているのは明らかである。さらに遡れば、安倍晋三元首相の「桜を見る会」前日の夕食会に違法献金を行った件も世論を騒がせた(2022年12月不起訴処分)。ジャニー喜多川の性加害問題を巡ってはジャニーズタレントとの契約を更新をしないことを発表して人権を説いた新浪氏だが、一連の騒動を受けて、ネット上ではサントリーの不買を表明する人も増えている。

 

わたし個人のスタンスとしては、特定の企業やブランドの不買を行うことはあるがそれを基本的には表明しないということで落ち着いている。不買は行う。なぜなら今のわたしは首都圏に住んでおり、ある程度の経済的な自由があり、なにかを不買しても代替品を探す精神的・経済的コストを負担することができるからである。持ち物にはこだわりたいほうであり、わざわざおのれの信条に反するものを買わなくても、選択肢はいくらでもあるのだ。逆に言うと、代替品の選択肢がないものや、排除することで日常が著しく不便になり生活コストが手に負えなくなるものは不買しない。これはまったくわたしの都合でしかない判断なので、他者に共有しようとは思わない(わたしが身を置いている言論空間では、あくまで個人の選択と銘打って提示したとしても特定方向の論調や同調圧力に絡め捕られてしまう可能性が高い)。また、信条に反する度合いではなく、実生活上の必要度合いで不買するか否かを決めているのだから、わたしの判断には逆進性があるはずだ。具体的に言うと、生活に大きく食い込んでいる大企業ほど不買されにくく、オルタナティブな中小企業ほど不買されやすい。これは本来不条理なことであり、その点においても、わたしの判断を正当なものとして提示することはできない。

 

すべて現時点での考えなので、今後変わるかもしれない。これもコストの話になるが、考え続け、変わり続けるコストを負担できるのならしたほうがいいと思っている。ほかの何もののためではなく、おのれの魂のために。わたしにとって不買は社会の問題である以上に、矜持とか魂の問題である。もちろん、矜持も魂も社会(政治)から自由ではないのは言うまでもないが。

今回わたしはわたしの判断に基づいて、サントリーの商品を購入した。あなたにはあなたの判断があることと思う。わたしの判断はあなたの口出しするところではないし、逆も然りだ。

それでは、購入品をレビューしていきます。

 

 

 

2.非化粧品メーカーのメンズコスメ開発の系譜

今回取り上げるVARONの運営元は、先述したようにサントリーである。サントリーは飲料メーカーだが、とりわけアルコール飲料のイメージが強いのではないでしょうか。サントリー公式YouTubeチャンネルを見ても、目立つのはソフトドリンクより生ビール、金麦、ハイボールなどお酒のCMである。

 

youtu.be

 

youtu.be

 

お酒といえば、従来的な男性ジェンダーに親和的なものの一つである。典型的なイメージとして、家でビールを飲むのは「お父さん」であり、「お母さん」はお酌係である。演歌の歌詞に出てくる飲酒者の多くは男性だ。一気飲みの強要などのアルコールハラスメントも多くは男性同士のコミュニティで顕在化する。そんなサントリーが男性向け化粧品を作るのは、意外なようでいて理に適っている。

男性に親和的なものを扱う非化粧品メーカーがメンズコスメを開発する例は、サントリー以外にも多い。たとえばリップスボーイは、美容院リップスがプロデュースするメンズコスメブランドである。リップスは元々男性専用サロンであり、男性客が圧倒的に多い。

 

 

オーシャントリコも、美容院オーシャントーキョーがプロデュースするメンズコスメブランドである。オーシャントーキョーもメンズカットを得意とする美容院だ。

 

オーシャントリコ アンサーオイル 120mL

オーシャントリコ アンサーオイル 120mL

  • OCEAN TRICO(オーシャントリコ)
Amazon

 

メンズ美容クリニックのゴリラクリニックは、その名もゴリラコスメティクスを開発している。

 

 

メンズ部門もある美容クリニックTBCからは、LUWONT(ルオント)なるメンズコスメブランドが2022年1月にデビューしたばかりだ。

 

 

ファッションバイヤーのMBは、MYSTR(ミスタ)なるメンズコスメブランドを手がけている。MBの名にピンとこなくても、男性向けの脱オタクファッションの手引として有名な漫画『服を着るならこんな風に』の監修者と言えば聞いたことがある人も多いだろう。

 

 

 

元々男性に親和的なブランドが作るメンズコスメには、ブランド側としては、あらかじめ会社名を知っている人やファンが存在しており、最低限の集客を見込めるメリットがある。このメリットは女性向けサロンや女性芸能人がレディースコスメをプロデュースするメリットと同じだ。加えてメンズコスメの場合は、お客側の男性としても、あらかじめ馴染みがあるからメンズコスメ特有の心理的抵抗がなく手に取りやすいというメリットもありそうだ。ウィンウィンというわけです。

 

 

 

3.商品について

さて、VARONのオールインワンセラムである。

 

 

www.suntory-kenko.com

価格・容量:20ミリリットル2200円、40ミリリットル3300円、120ミリリットル8250円

 

「大人の男性用」スキンケアということで、要は中高年男性向けです。これはレディースコスメの世界でもそうなのですが、コスメブランドは「オッサン向け」「オバハン向け」とか「ジジイ向け」「ババア向け」とかは言わずに、「大人」とオブラートに包む傾向にあります。20代の若者だって年齢でいうと大人なのですが、コスメの世界で「大人」と言うとおおむね40歳以上と憶えておきましょう。

容器はポンプ容器。スキンケアはワンタッチで出せるポンプ容器に統一すべし過激派なので嬉しいところだ。

 

 

この商品の容器はポンプに加えて蓋もついているので、蓋をすれば旅行や銭湯に持ち運ぶこともできる。これ1本でスキンケアが済むオールインワンなので、普段は化粧水と乳液のステップを踏む人も、気力がないとき用や持ち運び用に小さい容器を買っておくと便利そうだ。

中身は伸びのいいジェルである。

 

 

パッケージはこちら。わたしが購入したのは20ミリリットルサイズ。

 

 

同封の説明書はこちら。

 

 

注目すべきは、サントリー独自成分としてウイスキー樽材エキス(ヨーロッパナラ木エキス)が配合されていることである。ウイスキーはお酒の中でもとりわけ男性的なイメージが強い。これも、男性に親しみを持ってもらうための酒類メーカーならではの希求法であろう。

香りはオリジナル・フレッシュ・クラシックの3種類がある。それぞれ公式の説明を引用する。

 

Original

上品で落ち着いた、フローラルのやさしい香り。紳士のような気品をまとい、人生を謳歌する大人の男性に華を添えます。

Fresh

サントリーが世界で初めて開発した青いバラ「blue rose APPLAUSE(アプローズ)」の香りを再現した爽やかで軽やかな柑橘系の香り。爽やかな男性に仕上げます。

Classic

コクと深みを感じる、スモーキーな香り。重ねた歳を味わうように楽しみながら、深みに変えていきます。

 

わたしはオリジナルを購入した。燻した木の香りが混ざった花の香りという印象を受けた。個人的には強すぎることもなく使えた。

 

 

 

4.メンズコスメと広告

さて、VARONのオールインワンセラムの説明書をもう一度見てみよう。

 

 

キャッチコピーは「顔の印象が変わる。10日間始まる」。この商品は医薬部外品や医薬品ではなく化粧品分類のため、「シミが薄くなる」「シワが浅くなる」のような明確な効果を掲げることは薬機法上できない。それゆえ「顔の印象が変わる ※肌が潤い、整っている状態」という曖昧な表現に留まってはいるが、「望ましい変化」が起こると謳ってはいる。その変化の結果としてもたらされるのが、イラストにある、「肌の調子がいいと仕事も前向きに」「おしゃれも楽しく出かけたくなる」「家族や周りからも褒められてもっと自信が持てるように」といったメリットというわけだ。

イラストの中年男性表象はスーツを着用し、グラフや数字を用いたプレゼンテーションを行うような職業に従事し、妻と思しき異性にからかわれて照れている。ここには、ブランドが想定する男性像──ホワイトカラーのシスヘテロ男性──が強く示唆されている。過去記事でも繰り返し述べてきたように、多くのメンズコスメブランドがそのターゲットをスーツ着用のいわゆるホワイトカラー職としている。理由はいくつか考えられる。一つには、ホワイトカラー男性は営業やプレゼンなど、見た目の印象も重視される場面が多いとされているからだろう。しかし根本には、ホワイトカラーといわゆるブルーカラーの賃金格差と社会的地位の差があるのではないだろうか。ホワイトカラー男性のほうが賃金が高い(とされている)ので、美容にかけるお金もある(とされている)ことと、そもそもブルーカラー男性がこの国では社会的に周縁化されていることが、根本的な問題ではないだろうか。大手企業のメンズコスメのマーケティングに携わるような人間はおそらくホワイトカラーである。「一般男性」を思い浮かべたときに、無意識的にもホワイトカラー的な男性を想定してしまう可能性は否定できないだろう。さらに付け加えておくと、これを書いているわたしもまた、(高所得者では全然ないが)ホワイトカラー的な文化に親しんで育ち、ホワイトカラー的な価値観を当然のものとして内面化しているであろう人間である。

 

VARONには公式インスタグラムアカウントがある。しかし2023年10月現在、フィード投稿はゼロ。タイムラインの合間やストーリーの合間に挟まってくる広告のみでPRする方針のようだ。

 

www.instagram.com

 

PRコンテンツはインスタグラムのアルゴリズムによって現れるので、自発的に閲覧することができないが、3カ月ほど意識して観測して、いくつかの広告をキャッチすることができた。そのスクリーンショットがこちら(広告はURLによる共有ができない仕様になっている)。

 

 

ここにも「顔印象が変わった」という惹句があり、さらには「部下の目線も変わった」と続く。VARONが40代以上の男性をターゲットとしているので、そのくらいの年齢の男性には当然部下がいるとされるわけだ。2023年現在の40代以上というと、就職氷河期をがっつり経験したロスジェネ世代も含まれるので、ホワイトカラー・ブルーカラーの別を問わず管理職に就くどころではない男性も有意に多いはずだが、ここでは想定されていない。

広告とは当然、なるべく多くの人に買ってもらうために作られている。その結果、マジョリティとされる男性像をなぞり、結果的にステレオタイプを強化する方向に行くのはほとんど避けられない。しかしそんな中でも、多様な男性を表そうとしているブランドはある。メンズコスメレビュー100本ノックその4で取り上げたギャツビーザデザイナーは、アイメイクまで施した男性のイラストをパッケージにした。今後レビューする予定のメンズコスメブランドBOTCHAN(ボッチャン)は、「『男らしく』を、脱け出そう。 」をキャッチコピーとしている。広告は社会を反映するものであると同時に、広告から社会に与える作用もあるはずだ。メンズコスメとその広告については、今後も観察していきたいと思う。



以上、VARONのオールインワンセラムについてでした。

 

 

 

5.補足 ブルーカラー男性と美容

比較的経済力がある(とされている)ことと、美容にコストを割く仕事上のメリットがあること、この2点によって、ホワイトカラー男性はブルーカラー男性よりもメンズコスメに親和性があるとされ、ターゲティングされている。しかし実際のところ、本当にそうなのだろうか。

解体業を営む男性を主人公にした長寿連載漫画『解体屋ゲン』は、第71巻収録の第702話にて男性のスキンケアを描いている。

原作者のX(Twitter)にて読むことができます。

 

 

 

ここでは、皮膚ガンのリスク回避という健康のためと、体臭予防というエチケットのために、主人公がスキンケアに挑戦している(そしてここでも、女性=異性の承認が報酬として与えられる)。思えば日焼け止めなんかは、オフィスで働く男性よりも屋外で働く男性のほうが喫緊の必要度は高い。実際にどのくらいの割合の男性が塗布しているかはべつとして、親和性なら十分あるはずだ。先述したようにわたしは、偏った価値観を内面化してしまっている人間であるが、フィクションをとっかかりにしてでも(もちろんフィクションはフィクションなのでとっかかり以上のものに使うべきではないが)、広い視野を持てるように精進したい、という自戒。

 

 

 

 

 

*1:assigned female at birth の略。出生時に女性を割り当てられること。出生時女性。AMAB=assigned male at birth は出生時に男性を割り当てられること。