ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その12です。
過去回はこちら。
わたしはテストステロン投与(男性ホルモン治療)を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。
今回は、メンズツルリのオールインワンジェルをレビューしていきます。
1.メンズツルリとは
メンズツルリとは、ツルリのメンズラインである。ツルリは、BCLカンパニーから出ているスキンケアブランドだ。
BCLといえば、AHAやクリアラスト、乾燥さん、モモプリなど、主にバラエティショップで見かけるプチプラ*2コスメを多く展開しているメーカーである。中でも一番のヒット商品がサボリーノであろう。サボリーノは朝用のフェイスマスクで、1分貼るだけで洗顔から保湿から保湿化粧下地まで済むという謳い文句でヒットした。2015年の発売後、わたしの体感では2019年ごろには定番の時短コスメとして人気が確立された。定番の黄色いパッケージから始まり、現在はさまざまな色と香りのバリエーションが常時展開されている。心身の余裕が少ない人にも適しているので、当ブログ読者にも使用者は多いのではないだろうか。
ちなみに、2023年3月から男性も対象にしたユニセックスのサボリーノも発売されている。通常版よりシートが横長で大きいらしい。
ユニセックスサボリーノは購入してあるのでいずれレビューします。
2.Be a Plain Man なにもしていない男はプレーンではない?
さて、そんなBLCから2021年10月に発売されたのが、メンズツルリのモイスチャライザーである。
価格:1980円 容量:145ミリリットル
分類としてはポンプ容器のオールインワンジェル。メンズコスメレビュー100本ノック その11で解説したように、ポンプ容器のオールインワンジェルは最も初心者向けのスキンケアである。ポンプは片手ワンタッチで中身が出せるし、オールインワンジェルは塗るだけでスキンケアが完結する。初心者でなくても、少しでも時短したいハードワーカーや、心身の余裕が少ないADHDや精神障害者にもおすすめだ。
スキンケアコスメにありがちな容器の例。左からスクリューキャップ・ヒンジキャップ・ポンプ。ポンプが一番出しやすい。
メンズツルリの公式サイトはごくシンプルな作りだが、興味深い点はそれでも見つけることができる。
ヘッダー画像には大きく ″Be a Plain Man″ とある。
プレーンとは、ありのままの、飾り気のない、純粋な、素材のままのとでも訳すのでしょうか。このコンセプトを体現するように、メンズツルリの商品は洗顔料とこのオールインワンジェルの2種類だけである。潔い。しかし、文字通りの「ありのまま」「飾り気のない」「素材のまま」は、洗顔も保湿もしていない状態であるとも言えそうなものだ。しかし決してそうではないわけで、″Plain Man″ は「そうであれ」と呼びかけるようなものであり、文字通りのなにもしていない状態を指すわけではない。思うに、ここでのPlainは、「夾雑物がない状態」を指すのではないでしょうか。夾雑物とは、たとえばニキビ(肌荒れ)やひげ(ムダ毛)である。
規範的とされる身だしなみにおいて、肌荒れやムダ毛は許容されない(厳格さはそれぞれ異なるし、状況やジェンダーによっても違ってくる)。よって人間はそれらを処理してなくすことを求められる。夾雑物のない、ゼロの状態を求められるわけだ。さらに、女性と見なされる者なら、ゼロにした上でプラスアルファの身だしなみとしてメイクアップも求められる。一方、男性と見なされる者は、ゼロにする以上のことは求められない。だからメンズコスメは、ゼロの精度を高める方向へ先鋭化するのではないでしょうか。
より精度の高いゼロを志向するメンズコスメブランドの傾向を最もよく表しているブランドとして、AFFINITÉS(アフィニテ)を例に挙げたい。
アフィニテは2022年11月デビューのメンズコスメブランドで、海外を中心に活動してきたベテランヘアメイクアップアーティストのEita(長谷川栄太)がプロデュースしている。公式サイトによるとブランドコンセプトは以下の通り。
Concept
難しいテクニックはいらない。
AFFINITÉS(アフィニテ)なら誰でも気になるコンプレックスにアプローチし、清潔感のある肌へ。
AFFINITÉS(アフィニテ)は、ヘアメイクアップアーティストEita監修のもと、男性のメイクをするためのコスメではなく、マナーとしてのコスメをコンセプトに、+(プラス)するのではなく“足りない”を補い、より良いゼロを目指すためのメンズコスメとして開発しました。
マナーとしてのコスメ。こんな恐ろしい言葉があるでしょうか。
女性ジェンダーが個人的な楽しみとしてだけではなく社会的な抑圧として美容を強いられてきた悪習を、男性ジェンダーにも持ち込もうというのだろうか。「メイクをするためのコスメではなく」とあるが、アフィニテの商品ラインナップにはスキンケアだけではなくコンシーラーとアイブロウペンシルもある。コンシーラーとアイブロウはメイクではないのか。男性もやることだからメイク(=女性がやること)ではないと都合よく判定されるのか、あるいは、「マナー」の範囲がいつの間にか拡大されているのか。いずれにせよ恐ろしいことだと感じる。
個人的には現在のアフィニテに共鳴することはできないが、メンズコスメのある種の傾向を体現しているブランドの一つとして観察していきたいと思う。
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阪急メンズ東京のポップアップも行ってきました。マルチバームを購入。いずれレビューします。
3.成分について
さて、ツルリのモイスチャライザーの話に戻る。
中身は透明のジェルである。
パッケージはこちら。
成分を見る限りアルコールフリーで、無駄にスースーすることもなく、敏感肌の人も使いやすそうだ。実際わたしも刺激を感じることなく使えた。
また、オイルコントロール機能があるとされているが、有効成分や作用機序は明記されていない。成分表を見るとマイカと酸化亜鉛が配合されている。どちらも通常はパウダータイプのコスメに配合される粉体であり、スキンケアに配合されるのは珍しい気がします。推測になるが、これらの微量の粉体が皮脂を吸着するのをオイルコントロール効果と呼んでいるのかもしれない。いずれにせよ、パウダーをはたくほどの効果は期待しないほうがいいだろう。個人的にも、皮脂抑制効果はとくに感じなかった。スキンケアコスメなのであまりカラカラになっても困るし、こんなもんでしょう。
香りは公式によると「ウォーターランドの香り」。個人的には、率直に言うと「中年男性の整髪料の香り」って感じです。青草っぽい感じ。強くはないので個人的にはスルーできる。「中年男性の整髪料っぽい香り」はメンズコスメに頻出なので、その正体は今後じっくり掘り下げていこうと思う。
4.一番のメリット
一番の長所は、ボトルが透明で残量が見えるところです。
ポンプ容器のオールインワンはジャー容器のものに比べて残量がわかりにくいのがデメリットだが、メンズツルリはボトルが透明なので残量が一目瞭然だ。ほかのブランドも見習ってほしいものです。
以上、メンズツルリのモイスチャライザーについてでした。
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