敏感肌ADHDが生活を試みる

For A Better Tomorrow

ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック その1:ZUQUUUN BOYSのBBクリーム

 

 

 

わたしは2022年3月から継続してテストステロン投与、いわゆる男性ホルモン治療を受けているが、男性へと「性別移行」をしたいわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。ではなぜホルモン治療なんかしているのかというと、かなり複雑な話になるのでここでは深堀りしない。要はなにが言いたいかというと、わたしは医療的措置を選んだとはいえ男性の文化に対しては非当事者であるということだ。今までもこれからも、わたしは男性ではない。当然、男性としての生活実績もない。

しかし、メンズコスメが興味深すぎる。

ここ数年、男性ジェンダーの非当事者の立場から、メンズコスメの広告や業界の動向を観察し、時には実際に購入して使ってきた。その結果、メンズコスメは、ジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、従来のレディースコスメ(レトロニムです)よりもわたしに合う可能性を秘めていることに気づいたのである。そんな奥深いメンズコスメの世界、外部から観察しているだけではもう物足りない。いっちょ腰を据えて、がっつり使っていきたいと思うに至った。よってこの度、企画を立ち上げました。名づけて、ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック。実際に100個の商品を購入して、実際に使って、レビューしていきたいと思います。

 

それではさっそく、やっていきましょう。

第1回となる今回は、ZUQUUUN BOYS(ズキューンボーイズ)のBBクリームをレビューします。

 

 

 

 

1.ZUQUUUN BOYSとは

ZUQUUUN BOYSというブランド名は、コスメ愛好家でも聞き覚えがない人が多いんじゃないかと思う。それもそのはずで、こちらはプチプラコスメ*1ではあるが一般的なドラッグストアやバラエティッショップでは取り扱いがなく、若者向けアパレルショップのWEGOとドンキとヴィレッジヴァンガードで販売されているのである。その正体は、WEGOが開発したコスメブランドZUQUUUN(ズキューン)のメンズライン。2020年4月に、このBBクリーム1色とコンシーラー2色が発売されている。

 

 

 

 

2.BBクリーム レビュー

BBクリームの製品とパッケージ。

製品を手に持ったところ。

ZUQUUUN BOYS BBクリーム

価格:1078円 容量:25グラム

 

まずね、ネットで拾える2020年4月当時のプレスリリースを見てほしいんですよ。以下にリンクを貼りますが、PDFなのでクリックする場所には注意してください。

 

http://www.sunsmile.co.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/20200401_ZUQUUUN%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%82%BA_%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9.pdf

 

近年のメンズコスメの活況は「画像加工アプリを駆使して、性別を問わずに動画やセルフィ―を美しく補正するのが、もはや当たり前の時代です。同時に、メンズコスメの市場も年々増加して 1000 億円を超える規模となっており、さらに 2010 年以降はファッショントレンドで “ジェンダーレス”が注目されるなど、今後も引き続き、10 代~20 代前半の男性を中心に『見た目』や『印象』にこだわる傾向は強まると見込まれます。」と分析されています。「価格は全て、10代の方にも手が届きやすい980円(税抜)です」とのことで、ターゲットを若者に絞ってるんですね。ここで疑問がポップするわけだが、レディースコスメは1000円を超えるものも平気でありますよね……? 生涯賃金は女性のほうが低く貧困なわけだが……? そう、メンズコスメは、従来メイクをしてこなかった男性に希求するべく、メイクのハードルを低くする工夫がたくさん施されているのである。その工夫の一つがお手頃な価格なわけですね。

しかし、低価格のしわ寄せは「開発協力兼、イメージモデルとして『WEGO』ショップの人気男性スタッフを起用」という部分に現れているのかもしれません。一見聞こえがいいが、あくまで接客のプロとして雇用されているはずのスタッフからイケメンを選んで顔出しさせてモデル代をケチっているとも読めます。開発協力の仕事だって、具体的な内容は不明ですが本来の業務からは外れるはず。カリスマ店員ブームも今は昔、この男性スタッフ2名はプレスリリースには名前が出ていない。十分な給与が振り込まれていることを祈るばかりだ。

 

商品を見ていきます。

パッケージは、多くのメンズコスメがそうであるように色使いは少なく、モノトーン基調で直線的な印象。Zが強調されたデザインは、メインターゲットであるZ世代を意識しているのかもしれない。

 

パッケージ表。

 

本体もモノトーンで、文字がデザインの主役になっている。液状のベースメイクアイテムとしてはオーソドックスな、スクリューキャップ*2のチューブ容器。

 

製品。

 

色味はこちら。日焼けしておりしみの多い日系日本人であるわたしの顔に適合したので、レディースコスメの「標準色」よりはやや暗めと思われる。

 

BBクリームを少し出したところ。

手のスウォッチ。

 

わたしが観測しているのは主に日系日本人向けのブランドだが、どのブランドも、メンズコスメの「標準色」はレディースコスメのそれより暗い傾向にあります。男性は、日焼け止めを塗る習慣の普及率が低く、女性よりも色黒の人が多いと想定されているのだと思われる。男性は女性よりも髪や眉の毛が太くて、顔面の黒色の色素が多く、スキントーンも暗く見えるという面もあるだろう。また、「色の白いは七難隠す」などと言われる女性と違って、男性は色白だと「なよなよして見える」と感じる人もいるので、「美白」志向が薄いと分析されているのかもしれない(もちろん、男性向けに「美白」を謳う美容液やベースメイクアイテムも最近はたくさんある。いずれ紹介します)。

 

カバー力は、一般的なレディースメイクの感覚でこれ1本で済ますには心もとないが、あとは眉とリップだけで済ませるナチュラルメイクなら十分でしょう。毛穴と色むらがほんのり補正されます。

これは実際にBBクリームとアイブロウとリップだけのメイク。肌荒れは通常営業なので多めに見てください。テストステロン投与を始めてから肌質が変わった(ここらへんの変化もいずれ詳述できたらと思います)。

 

BBクリームを塗った呉樹の顔の自撮り。

 

実際に使用してみた感想は以上です。ごく一般的なBBクリームといった感想。クレンジングが不要で洗顔料で落とせるのも、ハードルが低くていいですね。

 

 

 

しかし、本品のメンズコスメたる部分は、パッケージに現れているのでした。

裏面に注目。

 

パッケージ裏の製品情報。

 

パッケージ裏の製品情報の接写。

 

慣れない人のために、塗り方を詳しく書いてくれているのである。これもメイクのハードルを下げる工夫ですね。

とくに、スキンケアが肌に馴染むまで待つ時間を取る「スキンケアで肌を整え、2~3分ほどおきます」は、初心者がすっ飛ばしがちなステップなので、明記してくれるのは大変好ましい。

さらに拡大する。

 

製品情報の接写。

 

製品情報の接写。※塗布後は手をよく洗ってください と書いてある。

 

※塗布後は手をよく洗ってください。

 

※塗布後は手をよく洗ってください。

 

いや、普通に考えて塗布後は指にクリームがついてるから洗うじゃないですか。言われなくても。

なのに、手順の一つとしてちゃんと書いてくれている、この親切さ。

このおかげで、初心者でも手順をまったくの文字通りに実行することが可能になっているのだ。

 

メイクを初めとした美容行動は、実際にやってみたらわかるが、明文化されていないステップが無数にある。「ファンデーションを塗布する」とか「リップを塗布する」みたいなわかりやすいステップの間に存在する、いわば「名もなきステップ」。先述した「スキンケアが馴染むまで2、3分置く」もそうですし、たとえば、マニキュアを塗るときは乾くまで手を動かすことができないので、塗る前にトイレに行っておく必要があります。マニキュアが乾いてない状態でパンツを下ろそうとすると服にマニキュアがつくからね。だから、マニキュア慣れしている人は無意識に、塗る前にトイレを済ませているはずなんですよ。でも、世の初心者向けマニキュア指南で、「①まずオシッコします」から書いてくれているものは見たことがありません。明文化されていないのです。

ZUQUUUN BOYSのBBクリームは、メイクに慣れていない男性をペルソナに想定しているからこそ、レディースコスメの説明文はいちいち書いてくれない部分まで明文化してくれている。これは、メイクに慣れていない女性やその他の性別の人にとってもありがたい話なんじゃないでしょうか。女性の境遇で生まれたら自動的にメイクの知識がインストールされるわけではない。最初は「メイク 初心者」とかでググりながら恐る恐る取り組むことになるのは、男性も女性もそれ以外も変わりません。ハードルなんか低ければ低いほどいいに決まっています。それなのにレディースメイクとなると、社会的なマナーとして強制されている面もあるからか、女性なら最低限の知識・経験があって当然みたいな風潮がある。よくない。

メイク初心者は、性別問わず、メンズコスメから入ってみてもいい。これが、本日の結論です。

 

以上、ZUQUUUN BOYSのBBクリームのレビューでした。

 

 

【補足】

とはいえ、メンズコスメのハードルが低く設定されているのは無条件に賛美できることばかりでもない。メンズコスメの説明が懇切丁寧なのは、企業が男性のケア能力をあまりにも低く見積もっている──言葉を選ばずに言うと男性を獣かなにかだと思っている節があるからではないでしょうか。ここらへんの事情についても追い追い書きていきたいと思います。

 

 

 

3.メンズコスメレビュー100本ノックのルール

最後に改めて、この企画のルールを書いておきます。

メンズコスメとは書いてはいるが、取り上げる商品はメイクアップアイテムやスキンケアアイテム、ネイル、ヘアケアなど、種類を問わない。くしやカミソリなど、厳密にはコスメではない美容グッズも登場するかもしれません。プチプラからデパコスまで幅広く取り上げたいところだが、わたしの経済力からしてプチプラ多めになると思う。

取り上げる商品は、「メンズコスメ」あるは「ジェンダーレス」「ユニセックス」を明言しているものに限る。メンズ向けやジェンダーレスを最初から謳っているブランドのものは優先的にレビューすることにする(BOY DE CHANEL、SHISEIDO for MENなど)。

加えて最近は、とくにメンズ向けを標榜していなかったブランドも男性ジェンダーのモデルを起用してユニセックスに使えることをアピールするケースが多くなっている(KATEなど)。そのような商品は、商品説明に男性客を想定した一筆がある場合のみ取り上げることにする。単に男性ジェンダーの芸能人が広告にいるだけなら、女性ファンが多い人として選ばれただけの可能性もあるので基本的には取り上げない(例:メイベリンの錦戸亮コラボ)。

記事は、商品名や「メンズコスメ」で検索してたどり着いた男性やメイク初心者の人が読むことも想定して、メイクに慣れている人にとっては常識である用語にも積極的に注釈をつけている。百戦錬磨のコスメ好きにとっては煩わしいかもしれないが、我慢してほしい。

とはいえ、全部の用語に注釈をつけていてはきりがないので、「ファンデーション」「コンシーラー」のような、ググればわかる一般名詞にはつけていない。つけるのは「プチプラ」「デパコス」のような、界隈用語に近くてググっただけではニュアンスを掴みにくいと思われる言葉のみ。

 

以上、ルール説明でした。

それでは、100本書き終えるまでにどれくらいかかるかわからないが、興味のある方はしばしお付き合いください。

 

 

 

過去に書いたメンズコスメのレビューはこちら。

 

www.infernalbunny.com

 

その他、コスメレビューや美容よもやま話はブログカテゴリの「美容・ファッション」からご覧ください。

 

www.infernalbunny.com

 

www.infernalbunny.com

 

www.infernalbunny.com

 

 

メンズコスメレビュー100本ノック、第2回はこちら。

 

www.infernalbunny.com

 

 

 

 

 

*1:プチプライス・コスメの略語。マツキヨなどのドラッグストアや、PLAZAやロフトなどのバラエティッショップで販売されている廉価なコスメのこと。おおむね2000円以下のアイテムが多い。

*2:回して開けるネジ状の蓋。