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ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック その28:エムロゼのブルーブライトトーンアップクッション

 

 

 

※本記事はアフィリエイトリンクを含みます。

 

ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その28です。

 

過去回はこちら。続き物ではないので1から読む必要はありません(読んでくれたら嬉しいけど!)。以前の内容を踏まえるときはリンクを貼ります。

 

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わたしはテストステロン投与(男性ホルモン治療)を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。

 

今回は、エムロゼ(RMROSÉ)のブルーブライトトーンアップクッションをレビューしていきます。こちらは、Amazonほしい物リストを通じて中魚なおむさんにいただきました。ありがとうございます。なおむさんはわたしが19とか20とかの、今よりもっと若くて愚かだったときから濃いお付き合いのある大恩人なのです。当時はブログもやっておらず、今以上に曖昧な身分だったので、今こうしてスポンサーになっていただいていることが気恥ずかしくも不思議でもあります。

なおむさんの詩や小説やエッセイはこちらのnoteから。

 

note.com

 

 

 

 

1.美容家とはなにか

エムロゼは2021年10月デビュー。ブランドストーリーには「誰にでも美しくなる権利がある。EMROSÉはすべての人に、愛と美を惜しみなく提供するトータルビューティブランドです」「年齢やセクシャリティ、肌の色を越えて、旧時代の常識を脱ぎ捨てて、軽やかに、自由に、美容を楽しめる世界へ」といった言葉が踊り、ジェンダーレス・エイジレスを志向していることが明記されている。プロデューサーはタレント/美容家のMatt(マット)。名前に聞き覚えがなくとも、パーツを不自然なまでに強調した個性的なメイクを施した顔や、プロ野球選手の桑田真澄の息子というプロフィールで思い至る人も多いだろう。

 

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そもそも美容家とは、明確な定義はないが、美容を生業として情報発信する美容の専門家を指す。実務内容だけを見ると今でいうインフルエンサーに近いが、インフルエンサーという言葉やSNSがなかった時代から、美を追求しスキンケア方法やメイク方法を指南するカリスマリーダーとして一定数存在してきた。多くは女性で、美容雑誌で連載を持ち、広告やタイアップに登場し、斬新な美容法を実践してみせて流行を作り、自らもコスメをプロデュースしたりする。もちろん、女性芸能人やアパレル関係者が美容関連の情報を発信することは珍しくないが、美容家は俳優や歌手といった本業があるわけではなく(タレント活動の延長上として演技や歌に手を広げる人はいる)、美容そのものを生業としている点に明確な違いがある。発信する美容情報に説得力を持たせるためにはもちろん一定レベル以上に容姿端麗である必要があるが、美貌だけで大成することは決してできない。魅力的で新規性のある美容法を考案する発想力、それをアピールする発信力、カリスマ性と親しみやすさの両立など、総合的なプロデュース能力は必須である。男性目線の美容エッセイ『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』で知られるライターの伊藤聡は、美容家の美容家たる所以を、「自称できないこと」「独自のイズムがあること」に見い出している。

 

私なりに研究した結果、美容家のもっとも重要な役割とは、「なぜ美容をするのか」「美容は何のためにあるのか」という問いに対して、人びとの心に響く言葉を発信することだと思う。「まさに美容とはそのためにあるのだ!」と多くの人が共感したとき、ついに美容家としての道が開かれる。この強い共感を生み出せるかどうかに、美容家としての手腕がかかっているのではないだろうか。いっけん、容姿やタレント性、マーケットでの影響力ばかりが重要視されているかのようでいて、実際にはどれだけしっかりした主張を持っているかが問われる。美容家には「イズム」が必要だ。そこがおもしろいと思った。

 

出典:伊藤聡『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』 p.142 2023年2月22日初版第1刷 平凡社

 

小説家や画家と同じようにその人ならではの美学を体現し続け、実績を積み上げた末に他称によって確立される地位が美容家というわけである。かように過酷であるので、SNSが発達し尽くした現代においても、「美容系インフルエンサー」は星の数ほどいるが「美容家」とまで呼ばれる人は多くはない。法的な面でも、美容を生業とするには美容師国家試験に合格して美容師免許を取らないことにはできることが限られてくるので、これもハードルの一つである。美容師免許というと髪を切るだけの資格と思われがちだが、実はメイクアップも美容師免許に含まれ、業として継続して他人に直接メイク指導などをする場合は美容師免許を持っていないといけない。実際のところ抜け道やグレーなやり方などはいろいろあるのだが、法律では一応そうなっている。

 

www.heibonsha.co.jp

 

過去に書いた『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』のレビューはこちらから。

 

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有名な美容家を見てみよう。

1932(昭和7)年生まれの鈴木その子は、昭和50年代(1975年~)から平成にかけて料理研究家と美容家として活躍した。裕福な家庭に育ち女子短大で栄養学を学ぶも、当時のブルジョワ家庭の女性の多くがそうであるように、大学卒業と同時に結婚。専業主婦として一男一女をもうける。しかし実父の遺産を引き継いだことで自ら企業家として世に出ることを決意。1974年にレストラン「トキノ」をオープンして好評を博す。しかし1976年、息子が拒食症による貧血でマンションの5階から転落死。実母は過食による動脈硬化で亡くなっていることもあり、料理と健康の研究に力を入れるようになる。息子の死から半年後、「トキノ」を健康食・ダイエット食専門のレストランとしてリニューアルオープン。1980(昭和55)年発売の著書『やせたい人は食べなさい』がミリオンセラーとなり、料理研究家としての地位を確立する。

 

こちらは没後に発売されたアップデート版。

https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594084714

 

料理と健康を追究する中で、鈴木の関心は肌の健康、つまり美容へと向かう。1990(平成2)年には「トキノコスメ」、1999(平成11年)年には「荘シリーズ」を発売するが、美容家としての彼女を一躍有名にしたのはTBS系バラエティ番組の「未来ナース」である。1998(平成10)年4月放送開始の浅草キッド進行によるバラエティで、鈴木はレギュラーとして出演。不自然なまでの白塗りメイクと極端なライティングで「美白の女王」としてキャラ立てし、当時多くいたガングロギャルに色白メイクを施し清楚なお嬢様風に変身させる企画でブレイクする。

 

https://www.sonoko.co.jp/user_data/SZZ002/packages/default/new_layout/images/biography_j/biography_p_age66.jpg

(出典:鈴木その子の生涯 | SONOKO オンラインショップ)

 

鈴木その子=美白というイメージはこの番組で確立された。ガングロブームの反動もあって、バブル経済が完全に弾けた世紀末の日本で「鈴木その子」は一種の社会現象と化す。「笑っていいとも」や「SMAP×SMAP」に登場、紅白歌合戦にも白組応援団として出演するなどお茶の間で親しまれたが、2000(平成12)年12月に病死。享年68歳であった。

以上で述べてきたような鈴木の生涯については下記の記事が詳しい。

 

dot.asahi.com

 

鈴木その子は、まずは料理研究家として世に出た。料理研究家は、「主婦」という役割を一般化させた都市型生活の浸透や、メディアの発達、家電の革新的進歩といった社会変化に伴う女性の生き方の変化を反映する存在である。日本においてテレビの本放送が始まったのが1953(昭和28)年2月のことで、1956(昭和31)年4月に日本初の料理番組『奥様お料理メモ』が放送開始。それに起用された元祖料理研究家の江上トミ(1899-1980)は、ふくよかな体型と熊本訛りの「おっかさん」キャラだったが、実は父方は地主、母方は肥後細川家の重臣の家系という煌びやかな育ちで、陸軍技官の夫に随伴して洋行も経験している。ほかにも、外交官の妻としてセレブリティと交流し各国のトップレベルの料理を知っていた飯田深雪(1903-2007)、ロシア貴族と結婚して貴族流の料理を学んだ入江麻木(1923-1988)といった日本の最初期の女性料理研究家たちは、生家や配偶者が富裕層であることが多い。女性が社会進出するにはそれだけの恵まれた境遇が必要であった厳しい時代背景が偲ばれる。わたしはフェミニストの端くれとして、女性の著名人のプロフィールを書くときは恋愛関係や婚姻関係をゴシップとして扱ったり必要以上に深堀りしたりしないように心がけるくらいの意識はあるが(男性の偉人の来歴は妻子が影も形もないことが多いでしょ)、彼女たちの来歴を書くにあたっては男性の支えに言及せざるを得ない。

平成7年生まれのわたしからすると、彼女たちはスーパーウーマンのように感じられて親しみを持つ余地がないように思えるが、それでも絶大な人気を誇ったのは「一億総中流」の時代だったからだろうか。「一億総中流」自体は1970年代の言葉だが、内閣府の世論調査で自らの生活程度を「中流」とした者は1958年時点で7割を超えている。昭和の時代は、2024年の現代から見ると生活上の不便や特有の苦痛は多かったにせよ、自分たちは豊かであるという意識を国民の大多数が共有し得ていたのだろう。

日本の料理研究家と、その背景にある社会史・女性史は、阿古真理の『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』に詳しい。

 

www.shinchosha.co.jp

 

少し時代が下った1932年生まれの鈴木その子もまた富裕な育ちで、実父の遺産を元手に起業している。江上や飯田、入江といったセレブな料理研究家の系譜に連なる存在と言えるだろう。そして鈴木のもう一つの職業である美容家もまた、従来的には女性をメインターゲットとしているがゆえに、女性の生き方の変化を反映するのではないだろうか。美容家の研究書はわたしは寡聞にして存じ上げないが、ぜひ読んでみたいと思う。ご存じの方はコメント欄などでぜひ教えてください。

 

なお、『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』では、女性料理研究家に離婚する人が多いことに言及がある。タイトルに挙がっている小林カツ代も、先述したロシア貴族と結婚した入江麻木も後年離婚している。時代柄、父親や夫といった男性の経済力に助けられて名を成した女性は多いかもしれないが、その関係性は必ずしも一筋縄ではいかなかったことは付け加えておく必要があるだろう。

 

 

 

さて、平成・令和の現代に活躍している現役の美容家としては、神崎恵を挙げないわけにはいくまい。神崎恵は1975年生まれ。若さがもてはやされる面が否定できない美の世界において、40代半ばを過ぎた今もトップインフルエンサーとして君臨している。「神崎恵愛用」「神崎恵のお墨付き」といった惹句は今も最高の栄誉として通用し、数多の美容雑誌に引っ張りだこである。インスタグラムのフォロワーは2024年1月現在、64.2万人。

 

i-voce.jp

maquia.hpplus.jp

 

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16歳でスカウトされて芸能界入りした神崎は、鈴木その子のような煌びやかな来歴を持たない。時代的にも、1975年生まれは就職氷河期の最年長にあたる。グラビアやテレビや映画の小さな役からキャリアをスタートさせ、シングルマザーとして苦労を重ねている。宅建や簿記の勉強もしながら、地道なチャレンジの末に現在の地位を獲得した苦労人ぶりも人気の理由の一つである。先述の伊藤聡が指摘したように美容家にはイズムが求められるが、それは美容分野に限った話ではない。美容家に求められる実質的な役割として、女性としての理想の生き方を体現するロールモデルたることが挙げられる。恋愛や結婚、子育て、老い支度といったライフイベントにも一家言が求められるのである。神崎のイズムは、累計166万部を突破するという数々の著書で語られている。実はわたしが神崎恵を知ったのも、美容の人としてではなく、タイトルに異様な圧のある自己啓発書を連発する人としてであった。

著書はたくさんありすぎてWikipediaのバイオグラフィにも抜け漏れが多い。いくつかタイトルを引用する。

 

『読むだけで思わず二度見される美人になれる』(2013年1月30日、中経出版)

帯には「光に潤む髪、透けるような肌、心奪われる香り 抱き心地のいい身体」

 

『会うたびに「あれっ、また可愛くなった?」と言わせる』(2013年8月31日、中経出版)

 

『すれ違いざまに恋に落とす』(2013年11月28日、中経出版)

 

『いるだけでどうしようもなく心を奪う女になる』(2014年2月1日、大和書房)

帯には「『ピュアでエロい女』が最強無敵!」「『この子にはかなわない』と思わせる。」

 

『「あのコの可愛さは普通じゃない」と噂される女になる(2014年4月21日、宝島社)

帯には「誰でも簡単に恋も仕事も欲しいものが全部手に入るメイクの秘密」

 

『妬ましいほどすべてを手に入れている美人を分解したらこんな要素で出来ていた』

 

『今まで私が出会ってきた美人たちから盗んだ絶対美人に見える秘密のワザ』(2014年9月17日、ポニーキャニオン)

 

『読むたびに可愛くなれる 最強の恋に落ちる魔法の言葉』(2014年9月19日、朝日新聞出版)

 

『この世でいちばん美しいのはだれ?』(2019年4月4日、ダイヤモンド社)

 

……。

どうですか。読みたいと思うか否かは置いておいて、尋常ならざる気迫を感じませんか。

実際には、抵抗を感じる人も少なくないだろう。わたしもそうだ。抵抗を感じる人がいる理由は、恋愛規範・異性愛規範を押しつけてくるように感じられる上に、「二度見される」にせよ「『また可愛くなった?』と言わせる」にせよ「心を奪う」にせよ「噂される」にせよ、美人であることを形容する言葉が徹底して他者本位だからであろう。異性を含めた他者の目を気にせず自分本位で美容を楽しみたい人にとってはたまったものではない。

まあ、この手の自己啓発書は目立ってナンボなところはあると思うので、大いに誇張されているだろうし、神崎自身の言葉ではない表現も多いだろう。しかし、「キラキラ」して「(男性からの)モテ」を追究する神崎恵像が年月をかけて形成されていったのは確かで、そのイメージは神崎本人すら超えているのではないか。2023年11月発売の、現時点での神崎の最新の著書『一生ものの基礎知識 美容の教科書』を手がけた編集者の大葉洋子は、同書を「“神崎恵”的なるものが苦手な方のために」と語る。

 

mi-mollet.com

「ずっと(異性から)モテるための美容的tipsを伝授している方なのかと勘違いしてました。だから、連載の担当になった時は、魅力をきちんと理解できるかなって不安だったんですよ。年齢は近いけれど、絶対に友達にはなれないタイプだとどこかで日和ってしまう部分もありましたし。けど、もう大丈夫です。こんな人なのかとわかったからには、神崎恵を食わず嫌いしている人を、この世からできるだけ減らしたいですね」というようなことを本人に伝えたこともありました。

 

語弊を恐れずにいうのなら、キラキラと輝いて見える神崎恵的なるもの(美容を頑張らなくてはならないという圧)が苦手だと感じていた方のために作った一冊です。「それ、私のことかも」と思った方、ぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。

 

神崎の知名度は、「神崎恵的なるもの」という仮想敵すら生んでおり、それは本人も周囲も織り込み済みなのである。

近年の神崎は、恋愛至上・異性愛至上なパブリックイメージを裏切るような発言もしている。

 

ananweb.jp

単純に“あざとさ”を仕込むのは、古いかなって思っていて。今っぽい色気は、ひと昔前の夕刻から深夜にかけて生まれてくる濃厚でねっとりしたものではなく、透明感に満ちた爽やかな朝のようなもの。内面から溢れる知性、清々しい印象など、全方位からにじみ出る“人間性の現れ”だと思います

 

withonline.jp

例えば、ここ数年、「ちゅるん」という言葉をみると、「なんか古いな」「なんかダサいな」と思ってしまう。10年ほど前に、わたし自身よく使った言葉だ。「ちゅるん」=神崎さんが流行らせた言葉だよね、とまで言われるくらいに使い込んだ言葉だけれど、わたしの中ではもう完全に古い言葉になっている。

 

この一年、「女っぽい」とか、「女らしい」、これらの言葉もまた使わなくなった。

 

ふと「え? 女っぽいってなに?」と。女っぽくいることよりも、自分らしく自由にいることのほうがずっと楽しくなってしまった今、何億回と繰り返してきたこの言葉がずどんと古くなってしまったのだ。

 

飽きる。気分じゃなくなる。

 

それって、自分が変化したからだ。ことによっては成長と表現できることもあるだろう。「飽き」こそがわたしにとって、変化の証。「なんかもう気分じゃない」ことをみつけると「あ、わたしまたちょっと変わってきてるのかも」とわくわくするんだ。

 

上記はいずれも2020年11月の記事である。後者のファッション誌withオンライン版の連載タイトルは『もう、メイクを落としてもいいですか?』で、2019年から始まっている。中身は正直けっこうしょうもないというか、たとえば第2回では

 

女が数人集まれば、噂話や悪口が止めどなく流れる。その中には「きっとそのひとは、ただ相談しただけだろうに」と思うような内容のものまであって、それを「ねえ知ってる? ◯◯ちゃんて」というふうに自慢げに披露されたりもする。SNSをひらけば、悪口の対象と仲良さそうに写っている画像が何枚も並んでいて、そんな瞬間に立ち会うたびに「女って怖いな」と思ってしまう。

 

「でも、それが女って生き物だよ」と友人の一言。確かに、そうなのかもしれない。ひとの不幸を見て安心したり、悪口を言うことで自分が優位だと自分自身に言い聞かせる。

 

出典:【神崎恵連載】vol.2「女の悪を脱ぎ捨てる」【もう、メイクを落としてもいいですか?】 神崎恵「もう、メイク落としていいですか?」 - with online - 講談社公式 - | 自分らしく、楽しく

 

と、バイアス強めの女のクリシェを長々と並べた上に「確かに、わたしもそんな時代があったなと、思い出す。」と年齢の問題にして流してしまうので読んでいて疲れますが、「あの神崎恵」がこのようなタイトルの連載を持つこと自体が斬新といえば斬新なのかもしれない。価値観のアップデートという概念は結局は「アップデートしたように見せかけるのがうまい」人が得するようにできているので、個人的には信用していない。神崎も生き馬の目を抜くインフルエンサーの世界でトップを走り続けているからには、アップデートした風のことを言うのはお手の物であろう。神崎の実際の内心はわたしにはわからないし、いずれにせよ、神崎恵(的なるもの)を意気揚々と痛罵したところでなんにもならないと思うのでしない(かといって、「ああいう人は生きている世界が違うから」と切断処理するのも違うと思うが)。人にはそれぞれの地獄がある。神崎にもあるはずだ。

 

 

 

2.Mattについて

さて、美容家の例として、鈴木その子と神崎恵を見てきた。すでに8000字を超えているが、ついてきていただけているでしょうか。

 

今日取り上げるのは、Mattとそのプロデュースコスメである。

Mattは1994年東京都生まれ。先述したように、著名なプロ野球選手の次男として生まれる。父が肘のリハビリのためにピアノを弾く姿に影響を受け、幼少期にピアノとバイオリンを始める。父の言いつけで小学6年までは野球もやるが、中学からは音楽に専念。高校・大学と楽器推薦で進学する。大学1年時にブライダルモデルを始め、卒業後もタレント活動を続けて現在に至る。

Mattの公式ホームページには、「現在は歌手・作詞作曲・タレント・モデル・レタッチャーメイクアップ・ブライダルタキシード&和装デザイナーなど様々な分野でアーティストとして活動している」とある。今のところ、「美容家」は肩書の中にはない。美容関係の記事でも、Mattは美容家と称されることもあれば、美容男子・美容マニア・美容フリークなどと呼ばれることも多く、定まってはいないようだ。しかし個人的には、美容系インフルエンサーは星の数ほどいても、Mattは美容家と呼べる存在ではないかと思っている。Mattには、伊藤聡が言うような「イズム」が明確にあるからだ。

Mattのメイクは一目見たら忘れがたいインパクトを残す。白い肌、極端に大きな垂れ目、膨らんだ唇は、一般的にメイクで重視される自然さや均整を無視して圧倒的な存在感を放っている。一部は整形によって形成されているそうだ。

 

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どう見ても万人受けではないスタイルだが、自分ウケを貫く姿勢が評価され、美容雑誌VOCEが主催する美容業界で影響力が強いイベントであるBEST COSMETICS AWARDS 2019では「最もニュースな美容人」に選出されて話題を呼んだ。同アワードでは、自身のメイクについて「そのころ(シワが出てくるころ)には、この化粧じゃなく、もうちょっとナチュラルにしたい。シワができたらやめようと思ってる。シワ対応の化粧じゃないので」と語っている。

 

www.oricon.co.jp

 

シミもシワも一切ない濃いメイクは、若い今だからこそできる表現として割り切っているのである。エイジレスが謳われる時代に、これはこれで潔い、「イズム」溢れる態度であろう。

ちなみに、ノーメイクかつフィルターもかけていない素顔はすでに公開されている(眉アートメイクとカラコンはあり)。メイク後の容姿と、世間で揶揄されるほどには差はない。

 

youtu.be

 

Mattの白い肌とセレブな出自は直接的に鈴木その子を連想させるようで、Matt本人も似ているとよく言われると言及している。加えて、鈴木をブレイクさせた「未来ナース」の進行役だった浅草キッドの水道橋博士も名前を挙げている。

 

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Matt(元プロ野球選手桑田真澄さんの息子)のブレークも、鈴木その子ブームの再来のように思いました。奇妙、奇抜、面妖から、可愛いという肯定に変化し、社会がイジってもよいという流れ、コスメ、キャラクターが前提みたいなところも。ま、その子先生は、そこに会社と商売があり、ブームの規模はかなり違いましたが……。

 

たしかに、白い肌という一点においてはMattと鈴木その子は似ているように思われる。しかし、鈴木が「美白の女王」だったようにMattは「美白の王子」を志向しているかというと、実はそうではない。次項からは、プロデュースコスメのエムロゼに現れているMattの肌へのこだわりについて見ていく。

 

 

 

3.エムロゼと「美白」

改めて、エムロゼは2021年10月デビューのトータルビューティーブランドである。

公式インスタグラムはこちら。

 

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公式サイトはこちら。

 

emrose.jp

 

公式から発信されるコンセプトなどを読み込んで気づくのは、「美白」という言葉が登場しないことだ。

ブランドストーリーのページには、「白く透き通った肌」が一度だけ登場するが、ただの「白い」ではなく「透き通った」とセットになることで、色自体の白さというよりは透明度が高いがゆえの明るさが印象づけられる。

 

Mattのシンボルといえば、「Matt化」という

言葉まで生み出すほどの、白く透き通った肌。

 

絵の具の白を混ぜて作るパステルカラーと水で薄めて作るクリアカラーの違い、白コピー用紙と透明ビニール袋の違いとでも言おうか。Matt自身の肌そしてエムロゼが提唱する美しい肌は、クリアカラー、透明ビニール袋を志向している。

それ以外の部分でも、肌が美しいことの表現としては「透明感」「垢抜けた肌」「明るくツヤのある肌」が用いられているが、「美白」は出てこない。

 

感肌や肌荒れを気にする人でも毎日

使い続けられ、肌に透明感*¹を呼び込むレシピ。

どんなライフスタイルにもしっくりと馴染みすっと

背筋を伸ばしてくれるエレガントな世界観。

*¹うるおいによる、キメの整った状態

 

垢抜けた肌を目指したいのに、

何から始めたらいいのかわからない。

そんな風に感じる必要のない世界へ。

 

テクスチャーに「青み」をプラスすることで、

赤みやくすみ*²を抑え、明るく

ツヤのある肌*³を叶えます。

*²汚れや古い角質による*³メーキャップ効果による

 

 

製品の名前や説明にも「美白」は登場しない。たとえば、メラニンの生成を抑制する成分であるナイアシンアミドを含有したクリームは、名前を「ブルーブライトナイトクリーム」といい、成分については「高含有メラニンケア成分」と記載されている。メラニン抑制成分はメラニンによるスキントーン低下(日焼けによる広範な色素沈着)やシミを防ぎ、「美白成分」と呼ばれることも多いが、その呼び名はここでは採用されていない。

 

BLUE BRIGHT NIGHT CREAMemrose.jp

 

2017年から2018年ごろに、日本語圏X(当時Twitter)のローカルな美容コミュニティにおいて「美白」が大流行したことは過去記事で述べた。

 

www.infernalbunny.com

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「お肌の漂白剤」「キッチンハイター飲んだ? ってくらい白い」「学年で一番白い」「体調不良を心配されるほど白い」「クラスの男子に儚くて消えちゃいそうって言われた」など、色が白いことを形容する言葉はインフレ化していた。まだ薬機法や景品表示法に対するネットユーザーの理解も浅く、厳密に調べると法律違反や優良誤認にあたるような怪しげな比較画像や大仰な口調でもインパクトがあればもてはやされた時代である。当時、メラノCCや白潤やアクアレーベル等で色白になったと称する根拠の薄い比較画像を見た記憶がある美容好きも多いだろう。比較画像の多くが、アプリでの加工や光の加減による差を利用したフェイクであったことは言うまでもない。

個人的には、「美白」は言葉や写真で表現しやすくて「バズ構文」と相性がいいからあそこまで盛り上がったのだと感じている。美しいとされる肌を表現するにあたっては、「ハリがある」「キメが細かい」「ツヤがある」「シミがない」などの形容が考えられるが、ハリやキメは厳密な計測が難しくて曖昧であり、大仰さ命の「バズ構文」とは相性が悪い。それに比べて、「シミがない」「色が白い」はわかりやすく、言葉でも写真でも表現しやすい。結果、2017年から2018年ごろは、肌が美しいことが「美白」の一語に雑に集約されていた最後の時代だったのではないだろうか。先述したように、肌が美しいことと色が白いことは本来イコールではない。しかしSNS映えする美点としては「白い」が一強状態であった。それが転じて、「白い」が肌が美しいこと全般をも表現していたのではないか(今も?)。ここらへんの話は、ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノックその26でも述べた。

 

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なにもかも一緒くたになっている万能の褒め言葉「白い」があるところから、近い意味を持つがややニュアンスが違う言葉として「透明感」がまず分化し、「ツヤ」「キメ」「色ムラ」といった概念が再発見されていったのが、2019年以降の美容界隈なのではないだろうか。

業界としても、単一的な「美白」を推し進めるトレンドが2010年代半ば以降退潮していることは、文筆家のつやちゃんと俳優・文筆家のマリコムによる対談企画『コスメは語りはじめた』で指摘されている。

 

note.com

つやちゃん(以下、つや):(前略)そもそも自分は2010年代半ばまでの美白概念が窮屈すぎて、以前はあまり積極的に語りたくないジャンルだったんです。ただ、ここ数年は美白というのがトレンドとしてやや退潮気味になってきている。皆が求める肌イメージがどんどん「白さ」から「明るさ」へシフトしていて、美白というよりも全顔の透明感やツヤというところに関心が移っていますね。つまり、以前の美白というのが「黒か白か」という非常に二項対立的で機能性重視な価値観だったところに、近年は「光」や「輝き」「明るさ」という新たな軸が投入されてようやく面白くなってきているという印象です。

 

つや:(前略)色には彩度と明度があって、白は無彩色なので当然ながら明度しかない。この世にある全ての色の中で白が最も明度が高い、つまり明るい色なわけです。そう考えると、本来はいかに肌に明るさを生んでいくかというのが健全な発想のはず。でも、美白は長らく、なぜか明るさよりも色素を操作して白さを作っていくという手段に躍起になっていた。そんなの不自然に決まっているんです。だからこそ、シミを消したりする方法は美容医療にとって替わられつつありますね。それは正しくて、コスメは白さではなく明るさやツヤといった、コスメでしかできないヘルシーでアートな方向にいった方が良いに決まってるんですよ。

 

2021年10月デビューのエムロゼもまた、鈴木その子が極端な形で体現してみせたような白さ一辺倒の肌ではなく、「透明感」「明るくツヤのある」などの言葉を駆使して、総合的な美しさを目指しているようだ。

 

そんなエムロゼが推しているキー成分は、グアイアズレンの青い色素である。グアイアズレンは濃青色の結晶性炭化水素で、植物からも抽出される。抗炎症作用があり、スキンケア成分として肌をケアするとともに、メイクアップ商品においては青色の色素がコントロールカラーとなって赤味やくすみを抑えるという一石二鳥成分だ。

 

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なお、コントロールカラーについて簡単に説明しておくと、肌の色むらをメイクアップ効果で整える下地である。素肌に生じる色むらには、血色の悪さによる青くすみ(目の下にクマとしてよく見られる)、ニキビの炎症や毛細血管による赤味(ニキビ部位や小鼻によく見られる)、老化現象の一種である黄くすみ、ひげを剃る人であればひげそり跡の青味などさまざまな色合いのものがある。コントロールカラーは、くすみの色合いの色彩学的な反対色である補色を塗布してくすみを軽減するものである。すなわち、青くすみ・ひげそり跡の青味にはオレンジ色、赤味には緑色か黄色、黄くすみには紫色のコントロールカラーを塗布すると、補色の効果によって色が打ち消されてスキントーンが整うのである。メンズコスメにおいてはまだ馴染みが薄いが、レディースコスメでは多数の商品が発売されている。

たとえば、先述した2018年ごろの「美白」ブームのころは、紫色の日焼け止め下地が大流行した。2018年2月発売のロート製薬のスキンアクアに続いて2019年2月にはコーセーのサンカットがバズり、長らく二大巨頭として君臨した。

 

 

 

赤味を整える緑色のコントロールカラーも多数展開されている。スキンケアの延長上で全顔に気軽に使えるラベンダーよりは使用範囲が少ないので、容器は小さいことが多い。

 

 

 

 

赤味は男性美容においてもポピュラーな悩みであり、メンズコスメブランドでは2023年秋デビューのマイベリル(myberyl)に緑色の下地クリームの取り扱いがある。

 

マイベリル CCクリームmyberyl.com

 

青は、黄色の反対色である紫から赤味を抜いた色であり、黄味・赤味を整えさらに肌の色全体を明るくする効果が強い。使用量に気をつけないと青白くなりすぎてしまうので、コントロールカラーとしての販売数は紫色や緑色よりも圧倒的に少なく、どちらかというとメイク上級者向けである。

エムロゼにおいては、Mattのようなワンランク上の肌を目指すために、すべての商品にグアイアズレンの青色色素が含まれている。

 

 

 

4.商品について

さて、やっと商品のレビューに移る。今回取り上げるのは、クッションUVのブルーブライトトーンアップクッションである。2024年1月現在、Amazonでは取り扱いなし。

 

www.instagram.com

BLUE BRIGHT TONE UP CUSHIONemrose.jp

価格:容器込み3960円、リフィル3520円 容量:15グラム

 

日焼け止め効果とコントロールカラー効果のある下地という位置づけ。メイクの下に使うのはもちろん、上からも使える。

クッションコスメは、鏡とパフつきのコンパクト容器のスポンジに液状のコスメが染み込んでいる形態のコスメである。リキッドファンデーションや下地によく見られる。手を汚さずに塗布できる一方で、パフが不衛生になりやすいのはデメリットだ。

本体はこちら。厚みはそこそこあるが、ぎりぎり持ち運びできる範囲かな。

 

 

パフをしまう段とクッションの段が分かれている。

 

 

本体は薄い青色。

 

 

パフに取って使う。

 

 

手に塗布したのがこちら。右側に塗っている。

 

 

思ったより色はつかず、青白くならない。ほんのりツヤが乗る。これが透明感というやつか。オイルによる油膜感あるベタベタしたツヤではないのが素晴らしい。白さ一辺倒ではないコンセプトに実態が伴っている。

下地として使ってみたのがこちら。

 

 

青色による補正効果はほぼ感じられないが、変に白くならずラメやパールでギラつかずツヤを足せる日焼け止めだと思えばいいのではないでしょうか。

わたしは最近はいわゆるメンズメイク仕様のごく薄いベースメイクがマイブームなのでこれでいいが、一般的ながっつりポイントメイクに合わせるにはこれとパウダーだけでは薄すぎるだろう。

 

パッケージはこちら。

 

 

わたしはクッション系のベースメイクアイテムがあまり好きではないのだが、かなりいいと思いました。

とはいえ、パフを衛生的に保つには頻繁に洗う必要がある・内容量が少なくてコスパが悪いといったクッションコスメ特有のデメリットは依然残っている。しかしこれはエムロゼだけのデメリットではない。

 

総じて、

・とりあえずクッションベースとはどんなもんか試してみたい人←一般的なクッション同等のスペックはある

・白くなりすぎたくない人←トーンアップ効果は少ない

・敏感肌の人←肌ケア成分配合。肌に合うかは人それぞれではあるが……

・見た目が綺麗なベースコスメで気分を上げたい人←青のクッションは少ない

・フェミニンすぎるパッケージもシンプルすぎるパッケージも物足りない人←パッケージはピアノの鍵盤・バイオリンの弦・五線譜をモチーフとして可憐で上品な世界観を表現しているらしい

 

は試してみる価値があると思いました。

個人的に、クッション系ベースを使うのはミュシャのミントグリーンに続いてまだ2個目なので知見が少ない。継続使用してみた感想についてはまたどこかで書きたい。

 


以上、エムロゼのブルーブライトトーンアップクッションについてでした。

なおむさん、ありがとうございました!

 

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www.amazon.jp

 

コメントを添えて、欲しいメンズコスメをリストに入れています。

 

 

よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

*1:assigned female at birth の略。出生時に女性を割り当てられること。AMAB=assigned male at birth は出生時に男性を割り当てられること。