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当ブログでは、顔のない女性のイラストが表紙のフェミニズム関連書籍を観測・記録している。顔のない女性のイラストが表紙のフェミニズム関連書籍とは、典型的にはチョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』やオルナ・ドーナト『母親になって後悔してる』に代表されるような、顔を草花等で隠した女性のバストアップの写実的なイラストを装画に用いたフェミニズム小説や人文書である。本邦では、2018年12月のキム・ジヨン刊行以降多数見られるようになり、明らかに流行と化している。
まとめ第一弾では、キム・ジヨン刊行以降のこのような装画の多くが、榎本マリコという一人のクリエイターの手によるものであることを示し、顔のない女性のイラストが表紙のフェミニズム関連書籍と近年の榎本マリコの装画仕事を記録した。
取り上げた書籍:
1.82年生まれ、キム・ジヨン
2.僕の狂ったフェミ彼女
3.母親になって後悔してる
4.妾と愛人のフェミニズム 近・現代の一夫一婦の裏面史
5.覚醒せよ、セイレーン
6.それでも母親になるべきですか
7.まだすべてを忘れたわけではない
8.ホープは突然現れる
9.法廷遊戯
10.滅びの前のシャングリラ
11.幻の女 ミステリ短篇傑作選
12.スクリーンが待っている
13.家庭用安心坑夫
14.その丘が黄金ならば
15.ある大学教員の日常と非日常 障害者モード、コロナ禍、ウクライナ侵攻
16.九月と七月の姉妹
17.不可逆少年
18.猿の戴冠式
19.意識をゆさぶる植物──アヘン・カフェイン・メスカリンの可能性
まとめ第二弾では、榎本マリコ装画が近年求められる理由を考察するとともに、引き続き顔のない女性のイラストが表紙の書籍を記録した。条件はかなり緩くして、「顔がない人物のイラスト」という最も特徴的な部分さえ合致していれば取り上げている。フェミニズム関連書籍であれば男性表紙やバストアップではない女性表紙でもOK 、タッチが似ていればフェミニズム関連書籍ではなくてもOKといった具合に、臨機応変に収集した。また、類似したテイストの映画ポスターも記録している。
取り上げた書籍:
1.妻のオンパレード The cream of the notes 12
2.男性性を可視化する――〈男らしさ〉の表象分析
3.彼女の名前は
4.絶縁
5.アシスタント ※映画ポスター
6.Stopmotion ※映画ポスター
まとめ第三弾でも引き続き、顔のない女性のイラストが表紙の書籍を記録している。また、書籍を数多く観察する中で、顔のない女性イラスト表紙を複数手がける装丁担当者がいることも明らかになった。榎本マリコ装画の『ある大学教員の日常と非日常』など6冊を手がける川名潤、同じく榎本マリコ装画の『家庭用安心坑夫』など13冊を手がける岡本歌織などが該当する。デザインのイニシアチブは著者や編集者が握るケースもあると思われるので、どこまでが装画担当者の発案なのかは不明である。
取り上げた書籍:
1.声の物語
2.邂逅:クンデラ文学・芸術論集
3.増補 女性解放という思想
4.指名手配作家
5.心音
6.二木先生
7.ピエタとトランジ
8.心の壊し方日記
9.スター
10.飽きっぽいから、愛っぽい
11.マナートの娘たち
12.たまたま生まれてフィメール
13.蒸気駆動の男:朝鮮王朝スチームパンク年代記
14.ミセス・マーチの果てしない猜疑心
15.鏡の国
16.となりのブラック・ガール
17.夫よ、死んでくれないか
18.透明人間 Invisible Mom
19.労働系女子マンガ論!
20.互換性の王子
21.眠っている間に体の中で何が起こっているのか
22.コンプルックス
第四弾となる今回も引き続き、顔のない人物のイラストが表紙のコンテンツを収集していく。中身は未読なので込み入った分析はできないが、ネットで閲覧できる情報から判断して内容にフェミニズム要素を含む場合はその旨記している。
装丁・装幀・デザイン等の表記揺れはソースに準拠している。
顔のない人物のイラストが表紙の書籍
1.ディープフェイク
発売:2024.3.6 PHP研究所 PHP文芸文庫
著:福田和代 装画:小山義人 デザイン:大原由衣
ジャンル:サスペンス
2021年発売の単行本の文庫化。単行本版も顔が描かれていない人物が表紙だが、構図はバストアップではないので印象は異なる。
女子生徒への淫行や暴行をディープフェイク映像によってでっち上げられた男性教師が真相究明に挑むサスペンス小説。フェミニズム小説ではないようだが、性加害の告発・炎上・誹謗中傷・冤罪といった内容は近年の #MeToo を踏まえていると思われる。
装画は小山義人の書き下ろし。小山義人は元々目元のない人物画を多く手がけている。
— 小山 義人 (@koyama_13) 2024年2月10日
— 小山 義人 (@koyama_13) 2023年10月3日
2.kiitos. 特別編集 わたしを好きになるメイクBOOK
発売:2024.3.29 三栄書房
装画:榎本マリコ
ジャンル:雑誌/ムック本
ウェルネス&ビューティマガジンkiitos.(キイトス/ファッジの姉妹雑誌)の特別編集版ムック。「わたしを好きになるメイクBOOK」というタイトルから、メイクを通じて女性をエンパワメントする要素があると思われる。
装画は榎本マリコだが、ネット上に装画担当者の情報がなく、書店で現物を見て確認した(榎本マリコのインスタグラムにも載っていました。まずこっちを見ればよかったです)。
ちなみに、kiitos本誌のバックナンバーは写真表紙が多い。今回のイラスト表紙はインパクトがあったようで、X(Twitter)ではこのような投稿が見られた。
kiitosの表紙、österreichの「四肢」のジャケットに似ている🤔同じ人のイラストかな?素敵!
— Roko (@Roko_kukka) 2024年4月13日
調べてみたところ、österreich(オストライヒ/ex.the cabsの高橋國光のソロプロジェクト)の2020年のミニアルバム『四肢』のジャケットは榎本マリコ装画であった。上記投稿は正しい。
3.鬼怒楯岩大吊橋ツキヌの汲めども尽きぬ随筆という題名の小説
発売:2024.4.17 講談社
著:西尾維新 装画:ヒグチユウコ 装丁:名久井直子
ジャンル:奇想小説
ついに顔のない猫イラスト表紙まで出てきました。流行りもここまで来たか。モチーフが猫なのは異例だが、写実的なタッチで顔が植物で隠れている点は王道である。
装丁はキム・ジヨンで榎本マリコとタッグを組んだ名久井直子。名久井直子はほかにも『互換性の王子』で顔のない人物イラスト表紙を手がけている。
装画は画家・絵本作家のヒグチユウコ。ヒグチユウコは元々猫の絵を多く手がけている。
西尾維新さんの装画を担当しました。
— Yuko higuchi ヒグチユウコ (@nekonoboris) 2024年4月15日
デザインは名久井直子さん。
『鬼怒楯岩大吊橋ツキヌの汲めども尽きぬ随筆という題名の小説』
ボリス雑貨店では栞を作ってみました。
ご購入のかたにおつけします。
ギャラリー店舗では蔵書票もあります。
販売スタートは公式アカウントから致しますね。 https://t.co/5ayimshnbJ pic.twitter.com/m06vNg2tAe
友人が銀座の無印良品さんの写真を送ってくれた!たくさん置いてくださってて嬉しい!!ありがとうございます。 pic.twitter.com/IAjg33jmZu
— Yuko higuchi ヒグチユウコ (@nekonoboris) 2022年10月18日
ちなみに、本書は帯に「装画 ヒグチユウコ」と記載がある。装画担当者が表紙にクレジットされるのは珍しい。ヒグチユウコレベルに有名人でない限りなかなかないと思われる。ヒグチユウコは近年はGUCCIとのコラボレーションでも知られている。
海外の顔のない女性のイラストが表紙の書籍
4.괜찮은 사람 A Good Person(邦題:大丈夫な人)
発売:문학동네 2016
著:カン・ファギル
ジャンル:短編集
この記事では基本的に日本版書籍を観測しているが、今回は韓国版を取り上げる。韓国のフェミニズム小説の奇才カン・ファギルの『大丈夫な人』(2022.4.30 白水社)は、韓国版が顔のない女性イラスト表紙である。
日本版はまったくべつのイラストが用いられている。装画は土屋未久、装丁は緒方修一。
韓国語版は2016年発刊なので、2018年発刊のキム・ジヨン日本版とは関係がなく、逆輸入されたわけではない。
最近の榎本マリコのクライアントワーク
最後に、最近の榎本マリコの装画以外の仕事のうち、個人的に印象に残ったものを記録しておく。
5.映画『ピアノ・レッスン』ポスター
2024.3.22上映開始
映画『ピアノ・レッスン』の4Kリマスター版上映にあたって、榎本マリコはコメントと書き下ろしビジュアルを提供している。
『ピアノ・レッスン』は女性監督ジェーン・カンピオンの1993年の作品で、フェミニズム映画として高く評価されている。今回のビジュアルも、榎本マリコがフェミニズム本と親和的なのを踏まえたコラボなのではないか。
6.F.A.T.のTシャツ
榎本マリコ作品はなんとTシャツにもなっている。こちらはアパレルブランドF.A.T.とのコラボ。ブランド公式インスタグラムには「今や、本屋に並ぶ新刊小説のいくつかは榎本マリコが手がけた装丁画だろう。いやらしい話だが、絵画展で買い手がつく原画のプライスも、笑顔プライスレス!の美しいG線上のアリアの延長線上にあるとはいえ、グングングンだ。」とあり(本当にいやらしい話だな!)、榎本マリコが装画の世界で引っ張りだこであることがアパレル業界にも伝わっているのがわかる。
以上、キム・ジヨン以降の顔のない女性のイラストが表紙のフェミニズム本および関連情報でした。
引き続き観測を続けていきたいと思います。