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ジェンダークィアによるメンズコスメレビュー100本ノック、その16です。
過去回はこちら。続き物ではないので1から読む必要はありません(読んでくれたら嬉しいけど!)。以前の内容を踏まえるときはリンクを貼ります。
わたしはテストステロン投与(男性ホルモン治療)を受けているが、女性から男性への「性別移行」を目指しているわけではなく、男性ジェンダーに帰属意識はない。しかし、AFAB*1のジェンダークィアとしても、そしてわたしの生活を規定するもう一つの属性である精神障害者としても、メンズコスメが持つ可能性に注目しているので、メンズコスメの奥深い世界をより理解するために、身銭を切って100個のコスメを買って使ってレビューすることにしました。「メンズ向け」「ジェンダーレス」を明言しているブランドのアイテムを中心に、メイクアップアイテムだけではなく、スキンケア、ヘアケア、美容グッズなど幅広く取り上げる予定です。
今回は、VERCURY(バーキュリー)のメンズマニキュアをレビューしていきます。
1.ねぇ…頭ナデて…←は?
わたしがメンズコスメレビュー100本ノックチャレンジをするにあたって、取り上げるメンズコスメは、ドラッグストアや百貨店の店頭といったオフラインの場と、Google検索やSNSといったオンラインの場と、両方から探している。最近はインスタグラムから見つけることが多いが、Amazonや楽天で閲覧履歴や購入履歴からアルゴリズムが勧めてくる商品も、自分では選ばない雰囲気のものが多かったりでなかなか面白いです。
今回取り上げるバーキュリーのネイルも、Amazonで偶然見つけたものです。
商品ページはこちら。
まず、商品名に注目。
頭に注目。
爪カッコイイ…ねぇ…頭ナデて
いや、そうはならんやろ。
爪がイイ感じの男性がいたとして、好印象は抱くかもしれんが、ねぇ…頭ナデて…とまではいかないと思いますよ、一般的には。頭を撫でてほしいかどうかは関係性によるだろ。あと、「撫でて」が「ナデて…」とカタカナ表記されるだけで不快さ倍増するのが凄いですね。
さらに、画像4枚目に注目。
女子ウケネイルで高感度UP!!
いや、漢字間違ってるし。
この文脈だと「好感度」でしょう。
かように、ツッコミどころ満載なわけです。
これは是非レビューせねばと、購入した次第。
2.謎のブランド、バーキュリー
販売しているのはバーキュリーなるメンズコスメブランドである。Amazonのほかのページを見た感じ、スキンケアとBBクリームとコンシーラーとネイルを出しているようだ。メンズコスメブランドとしてはオーソドックスなラインナップです。
しかし、公式サイトらしきものがあまりにも手薄である。メニューもなく、Amazonへのリンクが貼ってあるだけ。
公式インスタグラムは、2020年9月が初投稿で、2023年10月現在投稿は8つ、フォロワーは15人。
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あまりにもショボい。まだ知名度がないだけというよりは、知名度を得るために積極的にリソースを割いている形跡がない。
しかし、コスメ界隈にはよくあることではある。ネットの情報が少なく、実店舗展開もしていない謎のマイナーブランドは、Amazonや楽天にはごろごろしています。バーキュリーもそんなブランドの一つなのだろう。
3.商品について
さて、商品についてである。
バーキュリーはマニキュアを2種類出している。一つは水やアルコールで落ちる1dayタイプの水性ネイル。過去記事で紹介した胡粉ネイルと同じような、除光液を必要としないネイルである。そしてもう一つが、今回買った除光液を必要とするタイプの一般的なネイルである。クリアカラーとブラックカラーの2色展開で、わたしはブラックを購入した。
価格:1900円 容量:5.0ミリリットル
Amazonプライム感謝祭セールで1425円で買いました。元価格は1710円だったり1900円だったり変動がある。
1度塗りでしっかり黒に発色しました。
メンズネイルはレディースネイルよりもツヤを抑えめに作るパターンもあるが(例:メンズコスメレビュー100本ノックその3で紹介したORBIS Mr.のネイルケアプロテクター)、バーキュリーのこれはしっかりツヤがあります。
ハケは先端が真っ直ぐにカットされたタイプ。毛量多めで広がりもいいのでまあまあ塗りやすい。ネイルに慣れていない男性を想定するならラウンドカットがよりよいとは思う。
攪拌球(ボトルを振ったときに中身が混ざりやすくするための金属の小さい球)が入っているのは好印象ですね。5ミリリットルくらいの使い切りサイズのネイルは攪拌球が入っていないことも多いので。
製品説明はこちら。
4.メンズネイルをするような男性像とは
商品としては可もなく不可もないバーキュリーのネイルだが、やはりその広告が面白い。
もう一度見てみましょう。
まずね、ネイルって女性ジェンダー者にとっては圧倒的に自己満足寄りの美容なんですよ。女性として生きる者にとって、美容は個人の自由な楽しみだけではなく、社会的な抑圧として強制されるものでもある。そんな中で、ネイルはマナーとして強制されることがない(むしろ職種によっては制限されたりする)。他者からしか見られないメイクと違って、日常的に自分の目に入る。肌への馴染みを気にする必要も薄いので、色の自由度も極めて高い。いわゆる「男ウケ」も、むしろ悪いとされている。だからネイルは、真に自分だけの美容なのだ。それは男性にとっても同じであってほしいとわたしは思います。他者の視線を気にした結果としてではなく、自分の気分をアゲるために、ネイル含む美容を楽しめるような空気があってほしい。
それなのに! この!! 広告は!!!
なにを考えてるんだよ!!?
(きっとなにも考えてない)
いやほんと、なんも考えてないと思いますよ。申し訳ないけどそう判断せざるを得ない。まずネイルってそんなに「女子ウケ」しますかね? 現段階では、ネイルをしている男性が少なすぎて、ウケるかどうかの判断の俎上にも上がってこないのが実際のところなんじゃないでしょうか。雑な女子ウケ売りは、真剣に女子ウケを志向してセルフプロデュースしている男性にも失礼ではないか。
てか、真剣に考えて作ってたら、既存の画像素材に爪だけ黒く塗るなんてこと、しねえからァ!!!!!
↓
↓
↓
あからさまに素材っぽかったんで、画像検索したら、ありましたよ。元ネタ画像が。
男性専用ネイルサロンの公式サイトで使われている画像としてヒットしました。
また、同じ男女モデルによる同一シチュエーションの差分のような画像が日本から中華圏まで広く流通しているので、大元はどこかのフリー素材だと思われます(初出の素材置き場は発見できず)。
なぜフリー素材と気づいたかって、バーキュリーの広告の男性、ブラックのマニキュアを塗ってそうなスタイリングをしてないじゃないですか。後塗りなのがバレバレである。
だがここでふと思ったのが、わたしの中にはどうやら「メンズネイルをしてそうな男性のスタイリング」が存在するらしいんですね。
たとえば、メンズコスメレビュー100本ノックその4で取り上げたギャツビーザデザイナーのオールインワンネイルにも、黒色が存在する。
このパッケージの男性は、「メンズネイルをしてそう」に見えて、ちゃんと馴染んでいるようにわたしには見えます。
ネイル雑誌の表紙を飾るような男性も、当然馴染んでいます。
しかし思えば、ネイルは自分ウケのためにするものであって他者の視線はどうでもいいのだから、スタイリング的には「正直馴染んでない……?」みたいな状態であってもべつにかまわないわけです。上記のネイル雑誌の男性のような「キメた」スタイリングに限らなくてもよい。それこそ、バーキュリーのフリー素材の男性みたいな、シンプルな服装の男性がネイルするのも自由です。メンズネイルの雑な広告にキレてたら、自分の固定観念に気づいたというお話。それはそれとして公式の商品画像はもっと真剣に作ってほしい。
以上、バーキュリーのメンズマニキュアについてでした。
5.余談 YouTuberとメンズ美容
上記のネイル雑誌「NAIL EX」の2022年8月号の表紙を飾るのは、人気グループYouTuberのコムドットのリーダー・やまとである。
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男性単独表紙&YouTuber表紙はNAIL EX史上初めてだそうで、大抜擢と言えるのではないでしょうか。
コムドットは2018年結成の男性5人組YouTuberで、メンバーは1998年から99年生まれのいわゆるZ世代。2023年10月現在メインチャンネルの登録者数は383万人で、今若者に最も人気なYouTuberグループの一つであろう。やまとの「宣戦布告」が半ばネットミーム化したり、緊急事態宣言中に大規模なパーティに参加して炎上したりと、ファンではない人や上の世代からは「生意気」「ビッグマウス」「炎上」といったイメージを持たれているように思うが、本来の芸風はいわゆる迷惑系や炎上系ではない。
【宣戦布告】
— コムドット やまと (@comyamato0515) 2020年12月9日
全YouTuberに告ぐ
コムドットが通るから道をあけろ
俺らが日本を獲る pic.twitter.com/iUVpaFA8zP
やまと含めメンバーは若く容姿にも恵まれており、美容系の仕事もこなしている。イヴサンローランやGUCCIといったハイブランドのイベントに登壇しているほか(下記インスタの左隣の女性はモデルのせいらで、やまとの実妹)、ファッション雑誌の表紙も飾っている。
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しかしやはり、ファン以外の反応はどちらかというと冷ややかだ。上記のイヴサンローランのリップのイベントでの登壇は批判の声も多かったし、その後2022年7月にCHANELの香水とのタイアップが発表されたときも軽い炎上を招いた。
しかし事実彼らが数字を持っており、集客を見込めるのであれば、デパコスとYouTuberのコラボレーションは今後も増えるであろう。わたしとしては、男性YouTuberがメンズ美容・ジェンダーレス美容に関わるケースが増えているのが興味深い。
たとえば、メンズコスメブランドのBULK HOMME(バルクオム)は、YouTuber/俳優のカルマをブランドアンバサダーに起用し、CMを放映したりコラボ商品を販売するなどしている。バルクオムは2022年のメンズ化粧水・乳液の売上シェア1位であり、ドラッグストアで買える最も有名なメンズコスメブランドであろう。カルマコラボのキャッチコピーは「肌ビジュ最高」で、なんとも若々しいノリ。なおカルマとは、セクシズム発言でたびたび批判されているラッパーの呂布カルマとは別人なのでお間違えなきよう。ちなみに呂布カルマも、カルマの当て馬的な役回りでバルクオムのCMに出ている。ちなみに×2、日本のラッパーにはRyohuという人もいます。日本の芸能界にはカルマさんと呂布カルマさんとRyohuさんがいるんですね。
ちなみに×3、バルクオムの公式インスタグラムはカルマとのコラボに一切触れていない(コラボビジュアル発表は2023年7月、現在2023年10月)。インスタ自体は頻繁に更新されているので、意図的な戦略だと思われる。
自らメンズコスメをプロデュースする者もいる。露悪系・炎上系に近い芸風のYouTuber・ラファエルは、BLUUM(ブルーム)なるメンズコスメブランドを2023年春に発売している。
また、同じく露悪系・炎上系に近い芸風のYouTuber・ヒカルは2019年11月にReZARD(リザード)なるアパレルブランドを創業し、2021年9月にはコスメラインのReZARD beautyを発売している。
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ReZARDはメンズ・レディースともに展開、ReZARD beautyはジェンダーレス仕様だが、男性であるヒカルが広告等にも積極的に露出していることや黒を基調にしたパッケージの雰囲気からは、どちらかというとメンズコスメに近い印象を受ける。アットコスメストアでもメンズコスメの棚に置かれている。
メンズコスメレビュー100本ノックを試みるにあたっては男性YouTuberとメンズコスメの系譜も追っていきたいんですけど、わたしはヒカルとラファエルが大嫌いなので気は進みません。しかしReZARD beautyは売れているようで、実店舗で買えるし、伊勢丹新宿でポップアップしてたし、わたしは当初ヒカルのブランドとは知らずに名前だけ知っていた。でもヒカルのブランドにお金を落としたくなさすぎる! 化粧水7150円、美容液11000円とか、デパコス並みの強気の価格だし……。唯一、オリジナル不織布マスクは買えそうな値段でしたが、ReZARDのロゴが入ってるのが嫌。ReZARDのロゴつきのマスクをつけて街を歩くのは屈辱すぎる。
まあわたし一人が買わなくてもヒカルは痛くも痒くもないでしょう。興味ある方は上のリンクから覗いてみてください。
わたしがヒカルを嫌いな理由については長くなるので今日は割愛。ヒカルの活動について批判的な視座でありつつ公正に解説してある記事を貼って終わりにします。
*1:assigned female at birth の略。出生時に女性を割り当てられること。出生時女性。AMAB=assigned male at birth は出生時に男性を割り当てられること。