インスタグラムで偶然見かけた商品に興味を引かれ、楽天で購入しました。
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THE N.B.P HOMME(エヌビーピーオム)の男性用オールインワンメイクキット。8910円。
男性向けの、ベースメイク・ポイントメイク・薄毛カバー(!)がこれ1つで叶うという、美容系ガジェットである。商品の概要はインスタか楽天ページか公式サイトを読んで把握しておいてほしい。早速レビューしていきます。
なお、書き手であるわたしについて、長くなるが述べておく。わたしは、出生時に外性器の形状によって女性と判断され、女性の境遇で育ち、典型的な女性としての性分化をした人間である。社会的にも女性として暮らしている。2022年3月から、自らの意志によってテストステロン投与、いわゆる男性ホルモン治療を始めた。メンズコスメに興味を持ったのは比較的最近である。10代前半までは性別違和とミソジニーによってメイク自体を忌避していた。10代後半から20代前半にかけてミソジニーを相対化するすべを覚え、フェミニズムを本格的に学ぶようになってからは、マイノリティとしての女性のジェンダー表現に愛着を覚えるようになり、「女性向け」とされるものを積極的に選んできた。自らが女性の境遇で生きている延長線上としてではなく、意識して積極的に選択し、「男性向け」とされるものは好まなかった。コスメやファッションも然りで、意識的にレディースを選んだ。わたしは身長が男性の平均程度あるし、趣味嗜好は(ファッション用語としての)マニッシュ、クール、モードに強く寄っているので、メンズファッションにも親和的であったはずだが、意識して目を背けていた。
同時期は精神疾患の症状が強くでており、結果的にこれが2019年ごろからのメンズコスメへの興味の下地を作った。精神疾患の症状で日常生活に常に困難を感じており、「標準的な手法」としての女性用メイクに適応するのは難しいと自覚した。ここで、「オルタナティブな手法」としての男性用メイクに初めて興味を持つ。男性用スキンケア用品やその広告に注目するようになり、2020年3月に初めて「メンズコスメ」を標榜するブランドで買い物をする。女性向け・男性向けを問わず、いいものはおおむね屈託なく取り入れるようになり、現在に至っている。
このブログは、こんな人間が書いています。
すでに長い。
では、とっととレビューしていきます。
1.外箱
2023年5月現在、実店舗での取り扱いはおそらくない。ネットではいくつかの販路があるが、楽天で買うのが一番簡単だと思います。
外箱はこちら。メンズコスメのパッケージはたとえ若者向けであってもおおむねシンプル志向・高級感志向だが、この商品も例外ではない。
韓国語表記あり。元は韓国のメーカーが作っているようだ。ファンデーションの色味などを見るに、日系日本人などの、肌がイエローベージュ~オレンジベージュ系の色の人を対象にしているようです。
海外コスメにはよくある「24M」マークあり。これは使用期限24カ月間、2年持つという意味です。日本製コスメにもあるといいと思うんだけどな。
日本語の成分表示はこちら。オム・ド・THE N.B.Pとあるが、これが正式な商品名らしい。
2.説明書・外見
開封してみると、商品本体と説明書が入っています。
商品は円筒形で、縦9センチ・直径3センチ程度。片手で握ることができる心地よいサイズ。まったく重たくはない。
説明書は日本語と英語。日本語のほうを全ページ載せます。
男性の肌になじむカラーとアイテムだけをチョイスした美しい肌から豊かなヘアラインまでつくれる男性向けメイクキット
要は、これ1個でベースメイク・眉メイク・アイメイク・唇メイク・薄毛カバーが全部できますよという、十徳ナイフみたいな便利グッズなんですね。
十徳ナイフといえば、持ってても結局使わねえことでお馴染みですが、こちらはどうなんでしょう。
3.中身
全体像
さて、肝心の中身である。
説明書にある通り、本品はカバーを開けて回転させることによって目的のセクションを出す仕組みである。
円柱の上部は鏡になっている。便利。
全セクションを順番に出してみる。
リップブラシ。
ファンデーション。
プライマー(下地)、リップバーム(リップクリーム)、パウダー(フェイスパウダー)。
アイシャドウ2色、ヘアシャドウ。
さらに、円柱の上部の鏡はスクリューキャップになっており、開けると中にはアイブロウペンシルとシャープナー、アイシャドウチップとヘアシャドウブラシが入っている。
この仕組みのおかけで、複数のコスメを持ち歩かなくて済む。さらに、ガジェット感を出すことで、男性が親しみやすいようになってるんじゃないでしょうか。
メンズコスメは、一般的なレディースのコスメとはまた違った方向で、外見に凝っていることが多い。たとえば、2018年にローンチした日本初の男性用メイクアップブランド、FIVEISM×THREE(ファイブイズムバイスリー)のアイシャドウを見てみよう。
四角くて薄い容器とサイズ感は、ジッポライターを意識しているそう。さらに容器下部には重りが入っており、シャツのポケットにサッと滑り込ませやすいという凝りようだ。このアイシャドウは商品名をアイシェードトランスといい、記事を書くために公式サイトを見に行ったらいつの間にか廃盤になっていたため、以上の説明はわたしの記憶によるが、たしかにこんな感じのことが書いてありました。男性的な持ち物とされているものに造型を寄せて、少しでも心理的抵抗を少なくする工夫がされてるんですね。当時読んで関心した記憶があります。買っておけばよかった。いつまでもあると思うな親と金とコスメ。
FIVEISM×THREE公式の、アイシェードトランスの使用法動画を貼っておきます。モデルさんたちの雰囲気も好きだったんだけどな。
FIVEISM×THREEの公式サイトはこちら。気づけば記憶にある商品がいくつか廃盤になっていました。実店舗も、利用しやすかったニュウマン新宿店が閉店してしまったし、景気はよくないのかもしれません。現在ネイルとフェイスパウダーを持っているが、もっと買い支えたいところだ。
今回レビューするTHE N.B.P HOMMEも、アイシャドウやリップクリームが入っているパレットは丸ではなくて四角形をしています。これも、少しでも直線的=男性的な印象を与える工夫なのだろう。
さて、説明書の順番に沿って実際の中身や色味を見ていきましょう。
FACE プライマー&ファンデーション&パウダー
まずはベースメイク(肌のメイク)から。
プライマー(下地)はバーム(軟膏)状であるが、オイリーではなくさらっとしている。男性の肌は女性より皮脂が多い傾向にあるので、テカリを抑える効果を見込んでいるようだ。
色は透明だが、一応手に出してみたのがこちら。
ほぼ見えない。
このプライマーで毛穴を軽く補正したあと、ファンデーションを伸ばして肌色を整え、パウダーで皮脂を抑える。
ファンデーションとパウダーを手に出してみたのがこちら。ファンデーションは平均的な女性用の「標準色」よりは色が濃い気がします。
あ、ちなみに本記事はメイクに詳しくない人が読むことも想定して、プライマー(下地)とかバーム(軟膏)とか、初歩的な用語にもいちいち日本語訳や解説をつけています。逆に鬱陶しいかもしれませんが、我慢してください。まあ、こんな長ったらしいレビューをここまで脱落せずに読んでくれている初心者の方がどれだけいるのかは知りませんが……。
EYE アイシャドウ&アイブロウ
初心者向けのメンズメイク指南はベースメイクとアイブロウメイク(眉メイク)で完成としていることもあるが、このキットはアイメイク(目周りのメイク)にも踏み込んでいます。アイメイクとなるといかにも女性的でハードルが高いと感じる人もいれば、せっかくやるなら色のあるメイクに挑戦するほうがメイクらしくて高揚すると感じる人もいそうですね。
アイシャドウは、多くの初心者向けメンズコスメがそうであるように、ラメなしのマット(ツヤなし)質感である。チップつき。手に出してみたのがこちら。
アイブロウメイクは、鉛筆状のペンシルで描く方式。手に出してみたのがこちら。
ダークブラウンですが、個人的には黒髪の人が使うにはちょっと明るいと思いました。たしかにメイクのセオリーとして、眉は髪より少し明るい色で描くと洗練されて見える傾向にあるが、自然さを求める人には明るいかもしれません。個人的には、メイク感を出したくない人や男性がアイブロウメイクをするならグレー系のペンシルをおすすめします。あと、ペン先が硬くて色づきがよくない。上記の写真は力を入れて三度描きしている。
ペンシルの反対側にはスクリューブラシ(螺旋状に毛がついたメイクブラシ)がついており、毛流れを整えたり、濃く描きすぎたらなぞって色味を拭って薄くしたりできます。
LIP リップバーム
リップメイクはピンクがかった薄赤色のバームで、保湿しつつほんのり血色感を出せる。注目すべきは、トウガラシ抽出成分が含まれていて唇をふっくらさせる効果もあることだ。トウガラシの成分(カプサイシン)で唇の血行をよくして一時的に腫らしてボリュームアップさせる手法は、レディースコスメでは一般的である。英語のplump(ふくよかな、丸々太った)からプランパー(plumper)と呼ばれて、廉価なプチプラ(プチプライスコスメ)にも高価なデパコス(デパートコスメ)にも取り扱いがあります。有名なのはDiorのリップマキシマイザーかな。「女性が喜ぶ誕生日プレゼントまとめ」みたいなコタツ記事によく出てくるので、聞いたことある人も多いかもしれません。
このようにレディースコスメではありふれているが、メンズコスメでプランプ効果を謳うリップクリームはまだ少ない気がします。性別を問わず唇は加齢によってしぼむので、どの性別の人でも唇をふっくらさせると若々しく見えます。これからはメンズ向けでもプランプ効果が一般的になるのかもしれない。なお、トウガラシ成分はやや刺激が強いので、唇が荒れる人もいます。
手に出してみたのがこちら。
パレット上では薄いピンクレッドだが、伸ばすとほぼ透明。元の唇の血色が悪い人には物足りないと思います。
なお、リップクリームは繰り出しスティック型のほうがどう考えても便利なのだが、本品では四角いパレットからブラシで取る形式になっている。これはギミックの都合だとは思いますが、女性向けリップメイクでは一般的ではない形にすることで、メイクに慣れていない男性の心理的抵抗を減らす効果もありそうだ。リップってかなりアイコニックで、女性性の象徴のように扱われていますからね。
ちなみに、一般的なレディースコスメにも平らなリップは少ないながら存在します。プチプラなら、ケイトのレッドヌードルージュが2020年2月に出ている。2色のクリームを重ねて発色をコントロールするというコンセプトだが、やはりスティック型の便利さには勝てなかったのか、綾波レイコラボもしていた割にはあまり売れた気配がない。
ちなみに、同じくケイトがリップモンスターを発売して、マスク全盛のCOVID-19禍にも関わらず社会現象級の特大バズを叩き出すのはその後の2021年5月のことです。
レッドヌードルージュは2023年5月現在もドラッグストアで売っていますが、その形式上、テスター(店頭に設置してあるお試し用化粧品)がメチャクチャ汚ないことになってるのも、売り上げが振るわない一因なんじゃないでしょうか。これはコスメを買う人への個人的アドバイスなんですけど、ドラッグストアコスメのテスターはちゃんと見ておいたほうがいいです。幾多のお客が使っては去っていったテスターは、皆さんがそのコスメを雑に使った末路の姿に近いので。汚れ方やパケの壊れ方をよく見ておきましょう。おおむねその通りになります。
平らなリップは、高級品ならRouje(ルージュ)のリップパレットがお洒落だと思う。Roujeはかのジェーン・バーキンの再来と謳われるインフルエンサーのジャンヌ・ダマスが2016年に立ち上げたアパレルとコスメのブランドで、公式サイトやBUYMAなどから個人輸入できるようです。
チップやブラシはついていないので、出先でつけるなら指を突っ込むことになる。薬指で紅をつける姿が絵になりそうで素敵。手間がかかるので、鬱のADHDであるわたしには当然not for meだが、おしゃれと管理能力に自信がある人はぜひ使ってみてください。
話が逸れた。THE N.B.P HOMMEのレビューに戻ります。
HAIR ヘアシャドウ
さて、ベース・アイシャドウ・アイブロウ・リップで一般的に「化粧」と呼ばれる工程はだいたい終わったと思うのだが、このメイクキットにはなんとヘアシャドウがついている。毛の薄い部分に毛髪を描き足すための粉である。
加齢による頭部の脱毛はテストステロン(いわゆる男性ホルモン)に因ることが多いと聞く。わたしは女性としての性分化をしているので、薄毛を恐れる男性の気持ちを理解できるわけではないが、薄毛の人への差別的・攻撃的な言葉は嫌でも目にするので、少し想像することはできる。1年以上テストステロン注射をしているいるので、将来的に薄毛に悩むこともあるかもしれないし(今のところ自覚症状はない)。わたしは女性誌をよく読むのだが、女性誌の広告はどの雑誌も共通で、だいたいコスメ・脱毛・ダイエット・整形(とくに二重)である。それだけニーズがあるということでもあるし、このような広告が不安を煽ってマッチポンプ的にニーズが増えている側面もあるだろう。そしてたまに男性誌を手に取ると、これまたどの雑誌にも薄毛治療・脱毛・包茎治療・ED治療の広告が踊っているのだ。それだけニーズがあるのだろうし、女性誌同様に、マッチポンプ的にニーズが増えている側面もあるだろう。女性が体毛を減らせ・痩せろ・美しくあれ・二重であれと抑圧を受けるように、男性もまた、頭髪を増やせ・ズル剥けであれ・カチカチであれと抑圧を受けていることは想像に難くない。ハゲを笑う社会が悪いのは間違いない。しかし個人の生存戦略としては、こういう化粧品でも使って薄毛隠しせざるを得ないという矛盾。女性向け美容がずっと抱えているジレンマは、男性向け美容においては薄毛カバーでとりわけ顕在化するようだ。
ヘアシャドウは黒に近いダークブラウンである。手に出してみたのがこちら。
わたしは現在髪を金髪に染めているので、実際に効果を試すことはできませんでした。
以上、商品の全容でした。
4.まとめ
感想としては、細かい実用性は置いておいて、とにもかくにもメイクへのハードルを下げるには適した商品だと思いました。一通り全部揃って8000円台だし、ギミック満載のパッケージは所有する喜びも感じられそうだ。手が自然と伸びるような心躍る仕掛けは、新しいことに挑戦する際には強力な動機になりますからね。男性以外の性別の初心者がとりあえず買ってみるのもいい。女性向けメイク指南はなぜか初手からマスカラやらハイライトやらシェーディングやらフル装備させる傾向にあるが、これくらいシンプルなメイクから徐々に試していくのも一つの手だと思います。
最近はメンズメイクの手法を自分に実践してみている。今日はコントロールカラーUVとアイブロウだけ。これで全然いいじゃんね。 pic.twitter.com/kyILGyw6W4
— 呉樹直己🐢🦪 (@GJOshpink) 2023年5月11日
メンズメイクの初心者向けのやり方は、コンシーラーだけ・アイブロウペンシルだけとかもアリとされているのに、レディースメイクだと初心者向けのやり方でも下地からファンデからアイシャドウからフル装備させようとするのはなぜなのかって話。
— 呉樹直己🐢🦪 (@GJOshpink) 2023年5月11日
わたしは、初心者にいきなりフル装備をさせるのはビフォーアフターの差を大きくしてメイクへの動機づけにする意義があるので(顔解像度が低い人はコントロールカラーと眉だけじゃ変化がわからないと思うぜ)いいことだと思っていますが、世のレディース向けメイク指南はそこまで考えてるのか?
— 呉樹直己🐢🦪 (@GJOshpink) 2023年5月11日
もちろん、メンズメイク(とされているもの)とレディースメイク(とされているもの)で完成形が違うのはわかるよ? 2023年時点でのメンズメイクはマスカラはやらないことが多い、とか。でもメイク初心者としてのスタートラインは男も女も変わらないはずじゃん。
— 呉樹直己🐢🦪 (@GJOshpink) 2023年5月11日
とはいえ、使ってみて感じたり予測したりした問題点もあるので、書き出しておきます。
・チップ類が小さく、不器用な人には難しい
・アイテムの容量が少なく、すぐなくなりそう
・減り方が均一でなさそう
・公式によるとリフィル交換可能とのことだが、リフィルはおそらく日本未発売
あくまで初心者のスタートダッシュのサポートに特化した商品で、継続使用は前提としていないんだと思います。
以上、THE N.B.P HOMMEの男性用オールインワンメイクキットのレビューでした。
楽天のリンクをもう一度貼っておきます。興味がある方はぜひ買ってみてください。
なお、数年前に楽天アフィリエイトの申請をミスって以来、めんどくさくなってずっと放置しているので、リンクをクリックしたところでわたしには1円も入りません。
よろしくお願いいたします。