星の数ほどある美容情報をインターネットで収集するにあたって、信頼のおけるブロガーやインスタグラマーやYouTuberはいい指標になる。しかし、インターネットのインフルエンサーの世界はバズって金儲けてナンボなので、このメイクはブス見え! とかオバサン! とか非モテ! とか、強くて粗雑な言葉を使う人が多いのも事実だ。不誠実なステルスマーケティング(ステマ)も残念ながら業界全体に蔓延っている。そういう世界は見ていて疲れるので、美容系インフルエンサー自体視界から遠ざけている人も多いのではないだろうか。しかし、(比較的)誠実な発信をしている人も少数ながらいる。今回は、わたしが個人的に好きな美容系インフルエンサーを紹介します。全員、ブスとかモテとか(あんまり)言わずに、基本自分軸で美容と向き合っている人だとわたしは思っています。
なお、「ブスとかモテとか(あんまり)言わない」とカッコつきなのは、たまには言う人もいるから。最近は言ってないけど昔は言ってた人もいる。わたしは図太いので気にせず見ているが、嫌な人は嫌だろうとは思います。そこらへんは各自で自分の考え方で調節してください。見るのも見ないのも自由だ。
※今回は全員「さん」呼びしてます。芸能人レベルに有名な方は呼び捨てのほうがオフィシャルな感じがするとは思うのだが、畏れ多くもSNSで繋がっている方の場合は呼び捨ては失礼なので、全員をさん付けで統一することにしました。繋がっている1名の方以外、べつに全然交流ないです。コンテンツも一つ残らず全部は見てないです。投げ銭もしたことないし、呉樹アカウントからはSNSフォローもしてなかったりする。カジュアルなファンということでひとつお願いします。ライト層の分際でおすすめとか言うことで熱烈なファンの方の気に障ったらごめんなさい。
わたしがおすすめしたいのは以下の7人。
全員が複数の活動媒体を持っているが、メインと思われるものを肩書としています。
水越みさと
YouTuber
1994年生
美容系YouTuberといえばこの人でしょう。YouTube参入は2019年と比較的遅いが、懇切丁寧で実用的な色味比較レビューで頭角を現し、2023年10月現在チャンネル登録者数は77万人。コスメの色味を知りたければ水越みさとさんを追うのがおすすめだ。プチプラからデパコスまで守備範囲は広く、コスメ以外では月経用品のレビューなんかもしてくれます。
シンプル耐性のあるお顔立ちを活かして、華やかすぎない実用的なメイクを見せてくれる。
美容系YouTuberを見る目的は人それぞれだろうが、単純に眺めてモチベアップする目的でも、実際にコスメ購入の検討材料にする目的でも、どちらも叶う。美容系YouTuberとカテゴライズされる人たちの中から一人選ぶのなら迷わず水越みさとさんをおすすめする。
コスメヲタちゃんねるサラ
YouTuber
1994年生
美容系YouTuberもうすぐ10年選手のサラさん。チャンネル登録者数は2023年10月現在84万人。芸風はプチプラコスメレビューから毎日メイク・冠婚葬祭メイクといったシチュエーション別のメイクレクチャー、ボディペイントも駆使したおふざけメイクまで幅広い。親近感とたしかな技術を併せ持っている。高すぎないテンションで淡々とした口調で話してくれるのも「しんどくない」のでよいです。
おふざけメイク企画を「IQ3企画」って言うのが気になる人はいるかもしれません。
私生活では自称引きこもりのゲームオタク。長らくパートナーとして動画に登場していた恋人のダイスケさんと2019年に結婚。カップルチャンネルとしても見応えがある。
Make up GYUTAE(ギュテ)
YouTuber/メイクアップアーティスト
1994年生
メイク前とメイク後のビフォーアフター動画がバズりまくっているギュテさん。チャンネル登録者数は2023年10月現在57万人。実は全身脱毛症に罹患しており、髪はウィッグで、美しい眉毛とまつ毛もペンシルで描いたものだというから驚きだ。
在日コリアンであり、全身脱毛症を理由に壮絶ないじめを経験。過酷な生い立ちにめげずに好きなメイクで輝いている姿が共感を呼んでいる。また2022年にはノンバイナリーのマセクシュアルであることを告白している(マセクシュアルとは、ジェンダーアイデンティティに関わらず性的指向が男性に向いていること)。
メイクの作風はどちらかというと日常生活で役立つというよりは見て楽しむ寄り。あと、なんというか「ノリが若い」ので、キラキラしすぎてちょっとしんどい人もいるかもしれない。メイク前のビフォーの顔の自虐芸もあります。あと、ゲイのことはたまにホモって言う。
Riki Matsui(松井力)
YouTuber/メイクアップアーティスト
1993年生
アメリカに拠点を置く看護師、バイオリニスト、M・A・Cの美容部員と多彩な顔を持つ松井力さん。アメリカのDIVAを手本に、ジェンダーレスに楽しめるメイク動画を発信している。
オープンリーゲイでもあり、パートナーとの仲睦まじい様子も見ることができる。ギュテさんの項目でも書いたが、SOGIをオープンにして活動している人がいることは今の日本ではわざわざ書く価値があることだと思うので、わざわざ書いています。
ちこえ
青担当の春ライブ参戦メイク💎
— ちこえ (@chicoecco) 2020年3月22日
クリアな発色で薄づきの青シャドウに高発色のアイラインやマスカラをあわせるメイクが春らしくて好きです。ぼかしフチの青コン(アイクローゼットのクリアマリン)を着用。ラインストーンはつけまつげのノリでしっかり固定しましょう。気分はアイドル♩ #推しメイク pic.twitter.com/vS3zl0dT7I
メイクレシピプランナー
X(Twitter)のフォロワー15万人を超えるちこえさんと言えばなんといっても、ハイクオリティな着画や置き画の数々である。
コスメとかわいいものが好きなわたしのシチュエーション別 必要なアイテム pic.twitter.com/kBmzSC2rAf
— ちこえ (@chicoecco) 2022年8月20日
あまり派手だとは思われたくない状況でも洒落た爪にしたいときに選ぶマニキュア pic.twitter.com/tMTCE5Hrmy
— ちこえ (@chicoecco) 2023年1月7日
自分の唇を消し去る勢いでつくるから唇タイプ不問💋お人形さんみたいなガラス玉グラデーションリップのやり方 pic.twitter.com/jKz7fUAvyy
— ちこえ (@chicoecco) 2022年12月31日
アップされる画像はどれも非現実的に見えるほど美しい。これだけだと、目で見て楽しむのがメインの超人かなと思うじゃないですか。実際ちこえさんは、年齢やプライベートの人間関係など、パーソナルな情報は公開されていない(有料のオンラインサロンではもう少しプライベートな話もされていると聞くが、わたしはサロンには参加していないので無料で享受できるコンテンツだけでの話をしています)。
しかしちこえさんの真髄は、美しい画像と実際的なレビューを両立させていることにある。
商品レビューの多くは、よく読むと容器にも言及がある。美しい写真に惑わされそうになるが、完璧ではいられない日向けの情報も多い。
日焼け止めは自分に合った形態を選ぼう
— ちこえ (@chicoecco) 2023年3月24日
液体を塗るのめんどくさい…手も汚れるし…という人はスティックorクッションがおすすめ。スティックはコスパ悪いけれど塗るハードルがぐんと下がるからどこのメーカーのものでも良いのでひとつ持っておくと助かると思う。首とか耳にぐりぐり塗れて便利だよ。 pic.twitter.com/8ZRd0rEIT9
洗面所まで辿り着けない日もある限界社会人の帰宅後メイクオフルーティン(カゴにひとまとめにしておくといいよ) pic.twitter.com/aYVUvNVfiX
— ちこえ (@chicoecco) 2023年3月20日
さらに、インスタグラムのシチュエーション別持ち物・メイク紹介のコンテンツが面白い。たとえば、フォロワーからのリクエスト「小テストの採点でしか話したことのない人たちしか来ない同窓会の持ち物」は、開口一番「断ってください」から始まる。さらには、行ったからにはたくさん飲食するために「胃が大きくなっても目立ちにくいワンピースドレス」、「行き帰りの自分の心をしずめるため」のイヤホンと続く。完全に正解。
「寝坊したときの時短メイク」はおすすめの歯磨きの紹介から、「もう何にもしたくないけど、明日の自分を諦めたくない時のスキンケア・コスメ」は「戸締り確認する。戸締りさえしてあればとりあえず何とかなる」から始まる。
美容とともに生きている人ならではの解像度。SNSにアップするためだけではなく、本当にメイクに興味があって日常的に試行回数を積んでいる人なのが伝わってくるのである。おすすめです。
Gio Shin
美容部員
Gio Shinさんは韓国のトムフォードのチーフスペシャリストを務めている現役の美容部員。いわゆる「メンズメイク」に近い作風で、自然にハンサムに見せるテクニックをショート動画で披露してくれる。
わたしが韓国語が読めないので詳細不明ですが、眺めて楽しんでいます。
白井瑶
全自動お茶汲みマシーンマミコはコスメ紹介を絡めた1話完結の短編です。一応最初の話はこれ。あらゆることに絶望しながらあらゆることをあきらめて、期限付きの若さと可愛さを浪費する女の子の話です。→
— 白井瑶(しらいよう) (@shiraiyo_) 2018年4月29日
全自動お茶汲みマシーンマミコ - ゆらゆらタユタ https://t.co/PHc2oTfkyv
ブロガー/ライター
ブロガーの白井瑶さんは、女性の多様な感情を掬い取るショートショートを多数手がけている。中でもわたしが好きなのは、フェミニズムの視点から美容を語る小説風コスメレビュー「全自動お茶汲みマシーンマミコ」シリーズ。主人公のマミコは、若さと可愛さと男ウケ至上の価値観を痛々しいほどに内面化することで都会をサバイブしている20代のOL。シリーズは、心を殺して期限つきの若さと可愛さを浪費するマミコの空虚な日々をシビアな筆致で描き出す小説であると同時に、コスメレビューでもあり、マミコが生存戦略として美容にコストをかける様子を描く。シリーズは2016年から続いているので、その時々の流行りのコスメが登場するのが楽しい。
シリーズから胸に突き刺さる部分をいくつか引用します。
ニコニコ愛想を振りまいて、何を言われても素直に頷き、ちょっとしたセクハラや見下しにも笑顔で応じることにより、マミコは色々なものから守られ、同時に様々なものを失った。そうして少しずつ、マミコは全自動お茶汲みマシーンになっていった。
20代も後半に差し掛かった今、友人たちはそれぞれ部下を持ったり、大きな仕事を任されたり、留学したり、結婚したり、それぞれの階段を上っている。
マミコだけが、未だに女の子のまま足踏みしている。一応正社員だが、全自動お茶汲みマシーンには何のスキルも身についていない。
どこで間違えたんだろう。そう思いながらマミコはコタ アイケアのシャンプーで髪を洗い、ルルルンの高保湿タイプのシートマスクの上からパナソニックのスチーマーの蒸気を当て、フローフシのまつげ美容液を忘れずに塗って就寝した。
テツトくんは会話の節々で、マミコを枠の中に押し込めてきた。うん♡うん♡マミコは素直にぺしゃんこになって、奇妙な幸福を噛み締めた。決めつけられる安心感や、断言される快感は絶対にあるとマミコは思う。テツトくんといるときのマミコは、ぺしゃんこのペラペラで楽チンだった。
ーーそう、マミコは幸福だった。
幸福感の半分くらいはルナソルのグロウイングウォータリーオイルリクイドで作ったツヤツヤの肌と、キャンメイクのクリームチークで染めた桃色の頬によって演出されているのは確かだが、実際、高揚と全能感に似たきらめくなにかに、その時マミコは包まれていたのだ。
全自動お茶汲みマシーン兼、全自動既婚者性欲処理マシーンだったマミコ。与えられたタスクをただ淡々とこなすだけの、いつでも取り替えのきく、無力なマシーンだったマミコ。そのマミコが今手にしているのは、ひとつの家庭をグチャグチャに壊せる銃だった。
2016年からマミコが加齢している様子はないので、時空はサザエさん方式のようだが、激動のインターネットフェミニズムを反映してマミコも変化していくはずで、先が楽しみなシリーズです。
以上、おすすめの美容系インフルエンサーの紹介でした。