新作コスメを買ったのでレビューしていきます。
キャンメイク シークレットビューティーパウダー OB-01 シルキーナチュラル オイルブロックタイプ。2020年4月発売(限定品)。4.5グラム850円。
公式サイト シークレットビューティーパウダー | CANMAKE(キャンメイク)
わたしがずっと愛用している、つけたまま寝られる肌色補正パウダー・シークレットビューティーパウダーの新作です。今回はなんと、皮脂崩れ防止機能までついている。わたしは、シークレットビューティーパウダーを普段のメイク直しに使っているので、迷わず購入。片栗粉のようなきめ細かい粉で、従来品よりもサラサラに仕上がる。従来品と同じく洗顔不要です。
パッケージはこちら。
従来品のレビューはこちら。基本的なスペックは従来品と変わりません。
従来品と本体のデザインがまったく同じなので、ADHDの民は注意してください。後ろのラベルの色だけが違います。従来品は白色のラベルですが、オイルブロックタイプは茶色のラベルです。
2つとも持っている人は、目印とおしゃれを兼ねて容器を装飾してみるのもいいんじゃないでしょうか。忙しい朝に、少しでも時短するために。
以前、キャンメイクのマシュマロフィニッシュパウダーをマニキュアでデコったときの記事はこちら。
キャンメイクの限定商品といえば、普段なら一瞬で売り切れるのに、これは近所のバラエティショップでいつまでも店頭在庫があったのを憶えています。無理もない。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行真っ盛りの2020月4日発売だったし、マスク生活中は需要が少ないベースメイクアイテム。しかも今年は、暑くなるのが例年より遅いということで、皮脂崩れ防止系アイテムの売れ行きは鈍かったんじゃないでしょうか。
一方、減少率トップは鎮暈剤(ちんうんざい)。要は酔い止め薬だ。前年同期比で22.2%と、8割近い減少である。3月1週目で前年比5割を切り、4月に入って下落幅が拡大した。
(中略)
このほか、口紅(2位、27.5%)、日焼け止め(3位、33.3%)、ほほべに(7位、46.3%)、ファンデーション(8位、49.0%)など、女性の外出が減ると使用頻度が極端に落ちるものが上位を占めた。
キャンメイクの数量限定商品は、売れ行きがよかったら数カ月以内に定番化して再販されるケースが多いのですが、これはどうなるんでしょうね。
こういう、期間限定販売と銘打ってわざと少なめに生産しておいて、「即完売!」「幻の名品!」とかで話題性を狙って、バズったら即定番化する商法にはいつも考えさせられてしまいます。おそらく、現品をくっつけた広告をバラまくみたいな感覚なんでしょうね。そりゃ売れるだろうけど、人気が下火にならないうちに即増産する変わり身の早さは、それなりに資本が豊かな大企業にしかできない芸当だろうし、マイナーブランドはとても真似できるまい。ケチつける気は毛頭ないけれど、なんというか、血も涙もないなあとは思いますね。資本主義だなあ。
近年、キャンメイクやセザンヌみたいなプチプラコスメは年々ハイクオリティになっていて、一昔前はデパコスでしか手に入らなかったような凝ったコスメがドラッグストアで簡単に手に入る時代になった。これは結局、企業努力や技術の進歩もさることながら、商品生産のあらゆる段階に搾取の技法が隈なく浸透したからにほかならないでしょう。われわれ消費者が得をしたぶんだけ、生産者側に皺寄せがいっているはずです。コスメに限らない。ここ十数年で、ちょっと気の利いた雑貨なんかが百円やそこらで簡単に手に入るようになったのは、豊かさの表れというよりは、貧しさのなれの果てなのでしょう。わたしが快適になったぶんだけ、わたしより立場の弱い誰かが搾取されている。
貧しさといえば、2019年12月に新発売されたキャンメイクのアイシャドウ、シルキースフレアイズ。わたしは購入していませんが、パッケージがキャンメイクにしては大人っぽいのが印象に残っています。
キャンメイクといえば、女児向け玩具っぽいデザインとも言われているように、女子小学生からをターゲットにしたブランドらしく、ガーリーなパッケージが特徴でした。しかし最近は、こういう少し大人びたデザインの商品も出すようになった。2020年6月には、キャンメイクの主力商品のひとつであるパーフェクトスタイリストアイズのリニューアルも発表されました。こちらも、現行のバージョンとは打って変わって、大人っぽいシンプルなデザインになっている。
こちらが現行のパーフェクトスタイリストアイズ。魔法少女の持ち物のような可愛らしい雰囲気です。
そしてこちらが、2020年7月に発売される新しいバージョンです。
シルキースフレアイズのデザインを踏襲した、落ち着いた花柄。特徴的だったダイヤモンド型のパーテーションはなくなり、シンプルな直角の仕切りに。雰囲気は、旧来品とはまったく別物です。もうキャンメイクは、お化粧覚えたての中高生だけのものではなくなったということなのでしょう。わたしのような、大学生とはいえ成人している人間や、社会人も普通に買っている。社会人ですらそんな具合なんだから、中高生の貧しさは相当なものだと思われます。美容系YouTuberの「プチプラコスメ縛りのメイク紹介」動画に、「キャンメイクやKATEやちふれは高いから、ダイソーやスリーコインズ縛りでやってください」みたいなコメントがついているのを何度も観たことがあります。ダイソーのオリジナルコスメブランドのUR GRAM(ユーアーグラム)も、去年から今年にかけて散々バズりましたよね。わたしは使ったことがないのですが、100円の割にはなかなか優秀だとか。
なお、プチプラは安さだけで選ばれているわけではなく、デパコスブランドに比べるとフットワークが軽くて最新技術をこまめに反映してくれる等の長所があり、それゆえにプチプラを好んでいるコスメ愛好家も多いです。とはいえ、貧しさゆえに選んでいる―― 泣く泣く選ばざるを得ない、というよりは、プチプラ以外の選択肢は最初から考えられない・考えたこともない―― 層が増えているのも確かなんじゃないでしょうか。
もちろんそれはそれで、どこにお金をかけるかは個人の自由です。いい年した社会人ならプチプラばかり使ってちゃみっともない、みたいな根拠のない抑圧こそが有害なのだから。そういう、漠然とした “世間の声” にじわじわと自己肯定感を削られてきた人は多いと思う。抑圧が薄れてきているのは非常に喜ばしく、わたしのような発達障害者や、その他のマイノリティを確実に救っています。
***
COVID-19による社会的混乱が可視化したもののひとつが、搾取の構造です。
たとえば、外出制限によって需要が急増したUber Eats、その配達員たちの過酷な労働環境は何度も話題になりました。
しかし、似たような非道はCOVID-19以前からもありとあらゆる場所で行われていたことを、わたしたちは薄々知っていたはずです。医療従事者やエッセンシャルワーカーが過重労働を強いられているのは、今にはじまった話ではないと。この国が、人間を安く使い潰してようやく先進国の体裁を保っている朽ち木であることを、今までも知らなかったはずはない。というか、わたしたちだって多くは一介の労働者であり、安価に使役される側なので、本来他人事ではない。それでも、学習性無力だか同調圧力だかに抗えずに口をつぐんできたのです。そして、自分と少しでも違う立場・業種の人たちを搾取してきたのです。互いにむしりあって互いの生活を保ってきたことを、わたしたちは知っていたはずだ。去年までは辛うじて見て見ぬふりができていたが(見てみぬふりをしていてもなんとなく許されていたが)、SNSが発達して、自分とは異なる業種の人たちの生の声が目に入りやすくなったことに加えて、今回のコロナ禍があり、いよいよ善人面がしにくくなってきたというだけのことです。善人面とは、リベラル面と言い換えてもかまいません。
プチプラコスメを買うことだってそうです。この安さが、必ずしもフェアトレードの成果ではなく、おそらくは搾取によって担保されていることを、わたしは知っています。でもわたしは購入した。安いからです。わたしにお金がないからです。
自分や誰かに迂遠な罪悪感を植えつけるような、よくあるレトリックに溺れたいわけではありません。べつにわたしがくどくどと述懐するまでもなく、過去にも散々指摘され議論されてきた、ありふれた真理ではある。また、他者の痛みを慮る力は絶対に必要ですが、直接的な「共感」の及ぶ範囲ばかりをいたずらに伸張させて森羅万象を嘆いて見せるのは、自他境界の取り違えであり、精神的な幼稚さでしかないのも事実です。なにもかもを「自分ごと」として切実に捉えるのはいいことばかりではなく、自分と他者の差異を正確に認識できなくなるリスクがあります。表面的な共感に拠らない、他人のことを「他人ごと」のままで尊重する視点を忘れてはいけない。
この記事にオチはありません。個人は無力なのだからほどほどに諦めるしかない、それでもわたしはわたしのできる範囲で精一杯生活していくつもりだ、みたいな決意表明で無難に〆るのは簡単ですが(無難とはいえ、それもまた本音ですし)、今はその気分ではありません。
以上、キャンメイク シークレットビューティーパウダー OB-01 シルキーナチュラル オイルブロックタイプの感想でした。
【補足】
一億総貧困社会とはいえ、その中でも特にお金がない人は、社会的に不利な立場にいるマイノリティであるケースも多いだろう。わたしのような発達障害者も、そういう意味ではマイノリティです(もちろん、わたしがマジョリティに立つ局面も多々あるのですが、障害者と診断された身であるという面に限っては)。不条理な構造は、「庶民」という漠然としたくくりの中でも、よりマイナーなほうへ、より弱いほうへ皺寄せられます。清く正しく生きるためにはコストがかかるが、そのコストを引き受ける余裕を、マイノリティは持っていないことが多い。オメラスから歩み去れるのは、オメラスから歩み去ろうという気概がある人たちだけであり、その気概は、彼ら彼女ら個人の人徳(?)だけで培われるものではないのです。
ここらへんの話は、長くなるので、気が向いたら改めて書こうと思います。
リベラルでいることすら、ある面ではマジョリティの特権なんですよね。マイノリティをやらしてもらってる身からすると、パターナリズムを拒否することは困難。弱者は、リベラルに生きるコストに耐えられない。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年6月9日
そして、わたしが乗っかって楽をしたことでパターナリズムは温存され、その皺寄せは、わたしよりももっと弱い立場にいるマイノリティが背負います。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年6月9日
2017年に、ZARAの工場労働者が、服のタグに決死のメッセージを残した。でもそのタグは、わたしの服にはついていなかった。劣悪な環境で搾取されている労働者の悲鳴が記されたタグは、わたしの服にはついてなかったんですよ。わたしの服じゃなかったんです。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年6月9日
わたしは、レジ袋が無料なら意気揚々と貰うし(家でゴミ袋として使う)、箸は割り箸を使い捨てて生活してるし、店内が整然としていて感覚過敏に優しいとかいう手前勝手な理由でユニクロの服を買う。Amazonだって使う。ユニクロやAmazonの従業員の労働環境は当然承知しています。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年6月9日
わたしが利用してきた不条理なシステムは、わたしがペイしたせいで温存され、わたしより若い、わたしより弱い人たちに皺寄せられます。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年6月9日
ル=グウィンの傑作『オメラスから歩み去る人々』が収録されている文庫。自分の安楽な暮らしが他者の人権を犠牲にして成立している構造を端的に示した、寓話的短編。
Netflixのオリジナルドラマ、『ブロークン 危険な商品』(2019)。化粧品メーカーや家具メーカーの欺瞞的なマーケティングや環境破壊などを取り上げて製造責任を問うドキュメンタリーらしいです。未見。
【追記】
2020年上半期ベストコスメの記事で少し補足しました。
コスメそのものよりも背景に注目するレビューとしては、メンズコスメレビュー100本ノックシリーズがあります。こちらもよろしくお願いします。
コロナ禍に書いた日記はこちら。