過去記事に書いたように、わたしは2020年夏から一人暮らしをやめて、双極性障害の兼業作家である「先生」と共同生活をしている。
書生として、衣食住*1と勉学に集中できる環境と小遣いを提供していただく代わりに、わたしに委託された家事のひとつに炊事がある。これは、ただ三度の食事を作成して食卓に並べるだけではなく、先生の望みであるダイエットに協力するとか、 おやつを爆買いしようとしていたら制止するとか、先生の食事管理とでもいうべき内容まで含まれている。その様子を、ここに記録していこうと思う。オープンな情報とすることで、 ほかの誰かの参考になったり、こちらにも有益なフィードバックがあったりしたら幸いである。題材の性質上、先生のパーソナルな生活状況を公にしてしまうことになるが、書生のバランス感覚と先生の最終チェックによって、必要分のプライバシーは守られていると信じる。わたしが書く文章で言及される先生の個人情報はおおむね、先生が自身のSNSなどですでに明かしてきたものに限られている。
1カ月目から5カ月目の様子については、過去記事に詳しく書いた。
1カ月目。先生の胃炎が寛解し、食生活が安定するまで。
2カ月目。先生の食事管理を担ったことによる、書生のメンタル面の変化について。
3カ月目。ダイエットの試行錯誤、飲み物のアップデート、先生の味覚の変化などについて。
4カ月目。朝食の内容変更、夕食の副菜事情などについて。
5カ月目。節約の工夫、キッチン回りの生活改善などについて。
今回の記事では、炊事タスクを行うにあたってわたしが直面したちょっとした課題の一つと、その解決策を記録しておこうと思う。実は2020年12月上旬時点で一応の解決を見たので、タイトルは厳密に言うと「4カ月目の課題」とすべきなのだが、その後2カ月ほど様子を見てちゃんと機能しているかどうか確かめたかったので、このタイミングで文章化することになりました。文章として公開されたコンテンツは、大なり小なりわたしの自意識に固着して逆説的にわたしの思考を規定する作用を持つので、言語化し公開するタイミングには常に慎重でいたい。
4カ月時点での、夕食後の時間の使い方
先生は双極性障害の治療の一環として生活リズムを一定に保つ必要があるので、先生と寝食をともにしているわたしも自然と、一定のリズムでタスクをこなすことになる。リズムは共同生活を始めてほどなく確定した。夕食後のわたしの時間の使い方は、以下のようなものである。
①下膳する
食卓の食器をシンクにもっていく。先生のぶんは先生がご自分でもっていってくれるので、自分のぶんと共用の大皿だけ。麦茶のボトルを冷蔵庫にしまう。麦茶がなくなっていたら作る。
②風呂場に直行して、浴槽の栓を抜いて前夜の残り湯を抜く
このタイミングで風呂の栓を抜く。残り湯を捨てている間の微妙な隙間時間に、③の工程を行う。
③台所に戻って、皿を食洗機にかける。食洗機に入らない大型の皿や鍋を手洗いする。ポットでお湯を沸かす
皿を食洗機にセットしてスイッチオン。食洗機はビルドインのもので、あまり大きくはないので、大皿や鍋などは入らない。残った皿を手洗いし、ポットに水を入れてスイッチオン。ポットにお湯が沸くまでの微妙な隙間時間に、④の工程を行う。
④洗いものが終わったころには浴槽が空になっているので、泡洗剤を吹きつける
そうこうしているうちに残り湯がなくなるので、泡洗剤を吹きつけてしばらく置く。
使っているのはルックプラス バスタブクレンジングなる商品で、60秒待つだけで水垢が落ちると謳っているが、個人的には60秒では早すぎると思う。やはり3分くらいは置いたほうがいいです。この微妙な隙間時間に⑤の工程を行う。
⑤台所に戻って、梨かりんごを剥く。お湯が沸いたらハーブティーを淹れる
デザートがあるときは準備をする。そうこうしているうちにポットのお湯が沸くので、ハーブティーを淹れる。抽出している間の微妙な隙間時間に、⑥の工程を行う。
⑥ハーブティーが入るころにはつけ置き掃除が終わっているので、泡洗剤を洗い流してお湯を溜める
風呂場に戻って、泡洗剤を洗い流す。水垢が残っている部分をスポンジでこする。お湯を溜める。
⑦ハーブティーと果物を先生のところに持っていく。一緒に食べる
お湯を溜めている間にデザートを食べる。会話・一緒にテレビなどを見る・一緒に猫を撫でるなどのレクリエーションがここで発生する。通常の友人関係に同じ。
⑧食べ終わるころにはお湯が溜まっているので、入浴する
食べ終わったら入浴する。わたしは熱め、先生はぬるめの湯を好むため、必ずわたしから入る。
⑨風呂から上がる
風呂から上がって一連のタスク完了。自室に戻って髪を乾かすなどする。先生は自分のタイミングでわたしのあとに入浴する。
ざっとこんな感じの流れが定着していました。細かく書き出してみるとわかるように、夕食後のタスクには微妙な隙間時間が非常に多い。この時間を無駄にしないようにと思うと、自然と順番が固定されるのである。
課題
しばらくはこれでやっていたが、日にちを経るにつれて、わたしの中で課題がはっきりしてきた。要は、本来リラックスタイムであるべき夕食後~風呂の時間がタスクの塊に化けてしまって、微妙な気疲れが日々蓄積してしまうのである。この、時間の使い方の変化が、一人暮らしのときとの最大の違いであった。一人暮らしなら、バイトなり勉強なりを昼間に行うので、夕食後はオフの時間であり、就寝までにゆるやかに精神をオフモードに持っていくことが可能だった。しかし、書生に就任してからは、夜もある意味仕事の本番であり、風呂から上がるまではオンモードを継続することになった(入浴も、もたもたして遅くなると先生の入浴も遅くなって翌日に障るので、迅速に入って、あまり長風呂せずに上がらねばならない)。オンになるべき時間が朝夕に二極化して存在しているので、ゆるやかなモード切替が不可能になり、一瞬でスイッチをオンオフする必要が出てきたのである。朝はまだいいとしても夜は、せっかく先生とおしゃべりしたりする時間があるのに、微妙にあとを気にする必要があるのがもったいないと思っていた。この時間に生活必要上の申し送りも行うので(ティッシュペーパーを楽天で発注してくださいと伝えるとか)、夕食後の時間はわたしにとって大切なのです。
偶然の解決
そんなことを思っていた矢先、解決策は偶然に降ってきた。12月上旬のある日、先生が雨に降られて帰ってきたため夕食の前に入浴をしてもらったのが、そのまま定着したのである。以降、先生は帰宅後即入浴し、入浴後に夕食という順番になった。
偶然の時間変更だったが、わたしにとっては僥倖でした。わたしは先生が帰ってくる前に入浴しておけば、夕食後には二人とも入浴を済ませている状態になり、あとはゆっくり食器の片づけなりおしゃべりなりをしていてよくなったのである。精神をゆるやかにオフに持っていくことが可能になったのだ。先生としても、夕食後に疲れが出てしまってお風呂に入りそびれるようなことがなくなったのはいいことなんじゃないでしょうか。
現在の夕食後のタスクは以下の通りである。シンプル。
①下膳する
②ポットでお湯を沸かす。その間に食洗機を回す
③梨かりんごを剥く。お湯が沸いたらハーブティーを淹れる。抽出している間に食洗機に入らなかった鍋類を洗う
④ハーブティーと果物を先生のところに持っていく。一緒に食べる
台所と風呂場を行き来しなくてもよくなっただけで、だいぶ楽になりました。
以上、わたしが発見した課題と、その解決策(偶然)でした。
どちらもほんのちょっとしたことだが、ほんのちょっとしたことにQOLを大きく左右されるのが生活というものである。オンオフの切り替えは、共同生活6カ月目のまとめ記事でも触れた感情労働をセーブするスキルにも通じる話だと思うので、これからも研究してもっとうまくなっていきたい。普段からぎりぎりで人生を回している障害者なのだから、些細な違和感も軽視せずに、解決策を探すくせをつけていきたいものである。
相変わらずわたしは、炊事・片づけ・掃除・洗濯・ゴミ出し・朝6時半に先生を起こすことなどを担当し、その代わりに基本的な生存と学習環境を保障していただいている。これが妥当な取り引きであると思えるかは人によるだろう。先生はこの程度のタスクのために安くはないお金を支出して赤の他人を住まわせているのかと驚く方もおられるかもしれない。しかし、人それぞれできることとできないことがあるというだけの話です。先生は社会人歴1X年の3X歳、わたしは大学生とはいえとっくに成人済みの2X歳であり、 お互いに自分のできることとできないことは把握していて然るべきである。無理や我慢をして破滅するのではなく、キャパシティを超えていることに関して他者に適切に援助を求めるスキルこそが望まれている。われわれは、双方納得して共同生活契約を結んでいるので、なにも問題はない。
引き続き、お互いに協力して、よりよい食生活・共同生活を試みていこうと思います。
おまけ 猫の大好物その2
先月の食生活改善の記事で、料理にかつお節を使うと食卓に載ってきてぺろぺろしようとすると書いたが、同じようにシーチキンにも興味を示すことが判明した。猫が普段食べているウェットフードに酷似しているからかもしれません。うっかりつまみ食いさせないように注意しようと思います。人間の食べ物は塩分…糖分…脂肪分…様々な化学物質…猫の身体によかろうハズもない。猫には栄養も毒も血肉に変える度量なんて必要ないので、健康にいいものだけを採らせていきたいものです。食と生存…共に分かち難く…。
強くなりたくば喰らえ! 朝も昼もなく喰らえッッッッ 食前食後にその肉を喰らえッッ 飽くまで食らえッッ 飽き果てるまで食らえッッ 喰らって喰らって喰らい尽くせッッ
*1:厳密に言うと、「衣」は毎月1日にいただくお小遣いの中からわたしの裁量で買うことになっています。食住は完全に生活費から出していただいている。