過去記事に書いたように、わたしは2020年夏から一人暮らしをやめて、双極性障害の兼業作家である「先生」と共同生活をしている。
書生として、衣食住*1と勉学に集中できる環境と小遣いを提供していただく代わりに、わたしに委託された家事のひとつに炊事がある。これは、ただ三度の食事を作成して食卓に並べるだけではなく、先生の望みであるダイエットに協力するとか、 おやつを爆買いしようとしていたら制止するとか、先生の食事管理とでもいうべき内容まで含まれている。その様子を、ここに記録していこうと思う。オープンな情報とすることで、 ほかの誰かの参考になったり、こちらにも有益なフィードバックがあったりしたら幸いである。題材の性質上、先生のパーソナルな生活状況を公にしてしまうことになるが、書生のバランス感覚と先生の最終チェックによって、必要分のプライバシーは守られていると信じる。わたしが書く文章で言及される先生の個人情報はおおむね、先生が自身のSNSなどですでに明かしてきたものに限られている。
1カ月目と2カ月目の様子については、過去に詳しく書いた。
今回は、3カ月目の様子を記録してきます。
- 1.朝食の変化
- 2.在宅ネコチャン、料理をするの巻
- 3.白飯を断つようになった
- 4.鉄玉子を導入した
- 5.お茶を緑茶から麦茶に変更した
- 6.ハーブティーを供給するようになった
- 7.道産子ネコチャン、薄味に慣れるの巻
1.朝食の変化
朝食のメニューは、思考コスト削減のために毎朝同じである(このスタイルは先生の指示)。しかし10月下旬からは、先生のリクエストで、新たにソーセージ2本が加わった。レンジでチンするだけなので手間はかかりません。わたしはソーセージがさほど好きではないので、先生にだけ出している。
この変化を踏まえて、改めて現在の朝食タスクを記録しておきます。
・ベーグルを前夜に冷凍庫から出して自然解凍しておき、朝に二等分してオーブントースターで焼く。
・ヨーグルトを二等分してジャムを垂らす。ヨーグルトは週二回の宅配で入手する。
・サラダの作成。基本はレタスとトマトで、そのときどきで冷蔵庫にある野菜を適宜活用。
・スクランブルエッグの作成。わたしが早起きした日はゆで卵になることもある(ゆで卵のほうが作るのに時間がかかるので)。
・ソーセージをレンチン(先生だけ)。
以上のようなものを食卓に並べる。
実際の写真がこちら。
こんな感じのものを、朝6時30分に出しています。双極性障害の治療の一環として、生活リズムを一定に保つ必要があるので、休日も同じ時間である。わたしは6時10分ごろに起きて台所で準備を始める。6時15分ごろ、わたしの物音を聞きつけて猫が起きてきて、6時20分ごろ、わたしと猫の物音を聞きつけて先生が起きてくるという流れ。
ちなみに、わたしが引っ越してきた当初の先生の指示は、ベーグル・サラダ・ヨーグルト(プレーン)だった。そこからわたしの趣味でスクランブルエッグが加わり、ジャムが加わり、今回先生のリクエストでソーセージが加わった。いつの間にか豪華になったものである。ダイエットするにしても、朝はしっかり食べて腸を動かしたほうがいいと思います。
平日の先生は、このような朝食を瀕死の顔で食べて、食後は頭を抱えて呻いたり叫んだりして出勤する気力を蓄え、わたしに急かされてラジオ体操をし、しおしおとシャワーを浴びて絶望の表情で出勤しておられます(えらい!)。
2.在宅ネコチャン、料理をするの巻
9月下旬から10月中旬にかけては、先生の仕事の都合で、在宅時間が比較的長かった。だからか10月は、わたしよりも先生が台所に立つことが多かったように思う(わたしから頼んだわけではない)。書生が料理すると書生の好きなメニューしか出てこないが、ご自分でやると食べたいものを自由に作ることができるから、いいことであろう。気分転換にもなりそうだし。一種の作業療法みたいなものである。
▼これは、先生が作ったチキンカレー。おいしゅうございました。
まちがいさがしの間違いの方に 生まれてきたような気でいたけど…
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年10月17日
まちがいさがしの正解の方じゃ きっと出逢えなかったと思う…
ふさわしく笑い合えること…
なぜだろうか涙が出ること… pic.twitter.com/RbkDADcH0o
先生はべつに「調理自体ができない」わけではなく、疾患の苦痛により「継続的に自炊をする精神的余裕がない」だけの人なので、台所に立ちさえすれば普通に美味しいものを生成する能力をお持ちなのである。今後も気が向いたら作るかも、とのことです。なんにせよ、先生にとってよい方向になるのが一番だ。
3.白飯を断つようになった
わたしが引っ越してからしばらくの間は、主食は白飯だった。白米ともち麦を3:1の割合で混ぜて炊いて、140グラムずつ冷凍して、食べる直前にレンチンするというスタイル。これも先生の指示である。なお、二カ月目の記事に書いたように、実はこっそり130グラムに減らしていたし、9月からは先生と話しあって正式に100グラムに減らした。
しかし、10月中旬ごろからは、先生の希望で夜は白飯を完全に抜くことになった。もっとダイエットに力を入れたいとのことです。
献立を考えていて気づいたが、白飯がないと、おかずが薄味でもバランスが取りやすいですね。健康のためには薄味に越したことはないので、いいことだと思います。しばらくはこれでやっていきます。なお、100グラムずつ冷凍したものは用意してある。休日の昼にお茶漬けを食べたいときなどに使うつもりだ。
4.鉄玉子を導入した
日々の献立を振り返ってみたところ、鉄分がやや不足しているように感じた。鉄分が不足するとメンタルヘルスにもよくないらしいので、改善したいところだ。とはいえ先生は、向精神薬をたくさん飲んでいる上に肝臓の数値もよくないので、サプリメントなどをむやみに足すのは望ましくない。
そこで、鉄分を自然に摂取させるために、鉄玉子を導入することにしました。湯を沸かすときに鍋に入れると鉄分が溶出して鉄分補給になるという代物である。
買ったのはこちらの商品。
一般的なカードと大きさ比較。平べったい形なので、鍋から取り出しやすいし洗いやすいです。
とりあえず、煮物などを作るときに鍋に放り込んでいる。まだ効果はよくわからないが、少なくとも害にはなっていないようなので、使い続けるつもりです。
ちなみに、伝統的な鉄玉子はその名の通り卵型なのだが、重くて鍋から取り出しにくそうなのでやめておきました。
土偶型のも可愛いと思ったが、こういう複雑な形のものは溝に汚れが溜まると洗いにくそうなのでやめた。利便性優先です。
ADHDはただでさえ日常生活に割けるリソースが少ないのだから、プラスアルファのひと手間を加えるなら、余計なコストを負担する余裕はない。だから、鉄鍋を導入することもしません。定期的なメンテナンスが必要な調理器具は、ADHDにはハードルが高いと思っている。わたしは料理自体が趣味なわけでもないし、洗って乾かすだけでいい鉄玉子が限界です。
5.お茶を緑茶から麦茶に変更した
わたしが引っ越してきた当初、先生が食事時に飲むお茶は、ペットボトルの緑茶だった。先生はカフェインが効きにくい体質で、夜に飲んでも気にならないとのこと。しかし、カフェイン自体あまり身体にいいものではないし、覚醒効果を求めていないのならなおさら毎日摂取する必要はないのではないかと思い、常備する飲み物は麦茶に変えることにした。微々たる変化かもしれないですが、お茶を変えるだけでできる生活改善なのだから、しても損はないでしょう。よって、緑茶のストックがなくなるタイミングで、麦茶に切り替えさせてもらった。
現在は、水出しの麦茶を常備するようにしています。夜寝る前にわたしが仕込む。パックをボトルに放り込んで放置するだけなので簡単です。ボトルは無印良品のを新規購入した。
公式サイト アクリル冷水筒 ドアポケットタイプ/冷水専用約1L 通販 | 無印良品
災害時の備蓄用に、ペットボトルの麦茶も常備しています。
コーラやジュースは相変わらずちゃんと我慢しておられるので、飲む物はずいぶん健康的になったと思います。
6.ハーブティーを供給するようになった
気温が下がってきた9月下旬ごろから、夕食後やおやつの時間などに、温かいハーブティー(ノンカフェイン)を供給するようにしている。今この家には、なんやかんやで数十種類ものティーバッグがあります。わたしが元々持っていたものや、友達がわたしの誕生日プレゼントに贈ってくれたものや、先生が職場の引き出物でもらってきたものなど。そのときどきで、わたしがチョイスして淹れる。先生の体調(喉の調子が悪いならカンゾウ)や、時間帯(昼間ならシャキっとするシナモン、夜なら鎮静作用のあるラベンダー)や、食事内容(脂っこいものを食べた日はレモングラス)などに応じて選んでいます。これはべつに先生のためというわけではなく、ほとんどわたしの趣味だ。先生は興味なさそうだから話題には出していないし、ネットでもあまり言わないようにしているが、昔からハーブには興味があり、自分で育てていたこともあるのです。精神安定作用があるハーブとかもけっこう試している。
なお、なぜハーブ趣味をネットで言わないかというと、お金儲け絡みのスピリチュアルとか、薬に頼らず鬱を治す! 自然のパワーで体内を浄化! みたいな界隈と一緒にされたくないからです。とくに発達障害は、そのような根拠のない民間療法に絡め取られがちな障害なので。もちろんわたしは標準医療に従っているし、病院の処方薬をちゃんと飲む派だし、ハーブとかは趣味の範疇で使ってみているだけだ。薬でもハーブでもアロマでも、使えそうなモンはなんでも泥臭く試すというだけの話です。
ヨギティーのしゃらくせえメッセージを読まずに捨てる(丁寧な暮らし)
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年10月17日
ハーブティーの薬効には一定の興味があるので、わたしが飲むついでに先生にも淹れて出しているのだけど、薬に頼らず鬱を治す✨自然の恵みに感謝✨みたいな界隈と一緒にされたくないので、インターネットには書かない。あくまで、少しでも使えそうなモンは何でも泥臭く使ってサバイブするというだけ。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年10月17日
先生もどうせ興味ないので、ラベンダーとかカモミールとかペパーミントとか一切説明せずにどーんとマグカップで出してお互い無言で飲み干すだけなのだが、なけなしのプラセボ効果をドブに捨ててる感あるな。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年10月17日
ちなみにハーブティーの中には、極端に摂りすぎると肝臓に悪いものもある。いろんな考え方があるとは思いますが、個人的には、常識の範囲内で摂取するぶんには大丈夫だと思って出しています。毎日ではないし、一回量はマグカップ一杯だし、一度に大量に飲むわけではないので。パッケージ裏の注意事項もちゃんと読んでいる。とはいえ、生活にハーブティーを導入するのであれば自己責任でお願いします。
7.道産子ネコチャン、薄味に慣れるの巻
先生は北海道出身だ。
これは、先生の著書のプロフィール欄にも明記されている公的な情報なので、ここに書いても問題ないだろう。
▲先生の出身地域の風景(フリー素材から引用)。
このことは、先生のそばにいると自然に伝わってくる。
暑さに弱く寒さに強かったり(10月中旬ごろは、わたしはトレンチコートで先生は半袖Tシャツという妙な組み合わせで外出していた)。
金木犀の香りをいまいちわかってなかったり(金木犀ってトイレの芳香剤の匂いでしょ? などとおっしゃるので、わたしの金木犀のハンドクリームを嗅いでもらったら、うん、トイレの芳香剤の匂いですね! とのこと)。
わたしがはじめて見る独特な乾物が台所にあったり(北海道や東北の珍味で「鮭とば」というそうだ)。
このように、垣間見える情報から察することができるし、なにより、先生自身の口からたびたび言及があることで、かの地が、先生という人を形づくる要素のたしかな一部であることが感じられた。
▼家でジンギスカンパーティーをしたときの写真。
▼先生が通販で買った、先生の地元名物のカレーラーメン。
濃い味つけがお好きなのもそうだ。
引っ越し前のお試し同居の時点で、先生が使う食卓塩やドレッシングやソースの量を見て、わりと濃い味好みなんだなという予想はついていたが、正式に同居を始めて料理をするようになってからはっきりと確信した。先生も「北の人間だから、濃い味つけを好むのは仕方ない」と言っていました。年齢に応じて修正しなきゃとは思ってます、とも。
一口食べて、やべっ味付け濃すぎたわと思ってそう言おうとした瞬間に、先生が「これ美味しいですね!味が染みてて」とにっこりする。そのような回を積み重ねた結果、先生の好みの味加減をおおよそ把握いたしました。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年9月5日
同居人としてはつい、先生にとって一番旨かろうと思われる味つけをしたくなるところだが、ぐっと我慢して、健康にいいと思われる味つけを選ぶ日々が続いていました。ちなみにわたしは薄味が好きなほうである。
そんなある日、先生が外出帰りにお惣菜屋さんに寄ってレバニラを買ってきたことがあった。
晩ごはんのおかずとして、レンジで温めて食卓に並べた。すると、一口食べた先生が、思いがけないことを言ったのである。
「なんだか、味が濃く感じます」と。
そのレバニラは、たしかにわたしにとっては濃いめの味つけと感じられたが、ことさらに濃すぎる気はしなかった。既製品ならこんなもんじゃないかと思うし、先生はこれくらいを好ましく感じるのではなかったのか。
―― 先生の感じ方が変わってきたのである。その後も、以前ならば薄すぎたんじゃないかと思う味つけをしても、「これくらいがちょうどいいです」などとおっしゃることが増えた。健康意識が、北の大地を凌駕しつつあるのだ。慣れ親しんだ味の好みはそう簡単に変わるものではないと思うので、これはちょっと感動しました。この調子で、末永く元気で猫を撫でて穏やかに暮らしていただきたいものである。双極性障害も心配だが、内臓も大事にしなければならない。
以上、3カ月目の記録でした。
相変わらずわたしは、炊事・片づけ・掃除・洗濯・ゴミ出し・朝6時半に先生を起こすことなどを担当し、その代わりに基本的な生存と学習環境を保障していただいている。これが妥当な取り引きであると思えるかは人によるだろう。先生はこの程度のタスクのために安くはないお金を支出して赤の他人を住まわせているのかと驚く方もおられるかもしれない。しかし、人それぞれできることとできないことがあるというだけの話です。先生は社会人歴1X年の3X歳、わたしは大学生とはいえとっくに成人済みの2X歳であり、 お互いに自分のできることとできないことは把握していて然るべきである。無理や我慢をして破滅するのではなく、キャパシティを超えていることに関して他者に適切に援助を求めるスキルこそが望まれている。われわれは、双方納得して共同生活契約を結んでいるので、なにも問題はない。
引き続き、お互いに協力して、よりよい食生活・共同生活を試みていこうと思います。
先生は、買い物から帰ってこられるたびに、「大福餅を我慢しました😊」「アイスを我慢しました😊」などと、買わなかったものまで報告してくれる。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年10月8日
わたしは北海道には行ったことがない。北海道といえば、GLAYが真っ先に思い浮かびます。とはいえ、GLAYの出身地は函館なので先生の地元とは文化圏が違うかもしれません。GLAYも「北海道出身のバンド」ではなく「函館出身のバンド」と形容されることが多いし。北海道の圧倒的な広さがしのばれる。
GLAYといえば「Winter,again」や「HOWEVER」などの90年代のヒットシングルが有名ですが、個人的には2000年代半ばからの作品のほうが好きです。2004年のアルバム『THE FRUSTRATED』から、鮮烈なロックチューン「BEAUTIFUL DREAMER」をどうぞ。
*1:厳密に言うと、「衣」は毎月1日にいただくお小遣いの中からわたしの裁量で買うことになっています。食住は完全に生活費から出していただいている。