1.ADHDのメイク直しポーチ選びの条件
最近、ポーチを新調した。
メイク直しのために、鞄の中に入れて持ち歩く用のポーチである。
ここ1年半ほど愛用していたのは、雑誌『&ROSY』2018年6月号付録の、LANVINのミニポーチだ。このブログにも何回か登場している。
これが存外優秀だった。ティッシュ入れが外側についているおかげで、鞄の中でティッシュケースを兼ねることができるのです。これが地味に便利で、もうティッシュ入れつきではない普通のポーチには戻れなくなりました。しかし、(あくまで付録なので贅沢は言えないのだが)縫製が少し安っぽいのと、マチなしの合皮素材なので収納力が低いのが気になってはいた。そして、安価な合皮の宿命で、表面のポリウレタンコーティングがだんだんベタついてきたので、買い替えを決断しました。
世にメイクポーチは山ほどあるが、①ティッシュ入れつきで②マチがあるものは意外と少ない。これは当然の話で、ティッシュケースは本来ポケットティッシュだけを収納するものだから、ポーチ部分はおまけみたいな商品が多いんですね。あと、常に持ち歩くものなので③耐久性も必要だ。繊細な素材(レースなど)やホコリがつきやすい素材(ベロアなど)はNG。
たかがメイクポーチひとつ買うのに条件まで書き出すのは大げさなようだが、わたしにとっては必要な作業なのです。わたしはADHDなので、脳のワーキングメモリが少なく、マルチタスクが不得手だ。ものを使っている最中に、同時に「壊さないように気を遣う」という精神的コストを割くのも、立派なマルチタスクである。メイク直しポーチを使っている間ずっと気を遣わなければならないというのは、いわば精神的コストの分割払いだ。それよりは、買う前に条件を事細かに決めるという精神的コストの先払いをして、その後は心置きなく快適に使い続けるほうがずっといいと思います。買う前の思考コストをケチってはいけない。その一手間に妥協するな。
ものを使うときの精神的コストの先払い・後払い・分割払いの話は、今までにも何度か書いた。
なにを買うにしても、こうやって泥臭く条件を明文化する(自分に必要な条件を見極めるには慣れが必要だが、慣れたら頭の中で一瞬で組み立てられます。最初はメモしておくもいいと思います)習慣をつけてしまえば、店頭での買い物自体はめちゃくちゃ早く済みます。ぱっと見回して、条件に当てはまらない形状のものは一瞬で除外して、あとは色とか柄とか趣味の部分で悩めばいいだけなので。選択肢が多すぎて疲弊することも少なくなります。なんとなく店頭に赴いて、膨大な数の商品を前にパニックになって思考停止してしまうのが一番よくない。
今回わたしが買ったのはこちら。
2019年夏に発売された、ポールアンドジョーのクリザンテーム柄ポーチ。1800円。ポリエステル製。マチは少ないが、とても柔らかい素材なので広げて使うことができる。
▼ポケットティッシュとLANVINのポーチとの比較。大きさはあんまり変わらないように見えるが、容量はけっこう違います。
ポールアンドジョーのコスメは持っていないのだが、この菊モチーフは好みで、グッズがずっと欲しかったのでちょうどよかった。ADHDとしては、うっかりリップなんかをつけてしまっても④汚れが目立たない濃い色がよかったのだが、そこはバイブスを優先しました。メイクポーチはなによりもまず第一に、テンションがアガるものであってほしい。美容はバイブスがすべてだ。
2.ADHDのメイク直しポーチの中身
さて、せっかく新しいポーチを買ったので、メイク直しポーチの中身を紹介したい。
SNSで人のポーチを垣間見るのってワクワクするよね。こういうやつ。
コスメの商品選択そのものは、個人差が大きい部分なので、ラインナップ自体は単にわたしの趣味の紹介でしかない。しかし、「なぜそのコスメを買ったか」「なぜそのコスメを持ち歩くのか」にはわたしなりの理由がある。その理由の部分に、ADHDとしてメイクを楽しむために行ってきた工夫が込められているので、そこらへんが誰かの日常生活の参考になればいいなと思っています。
1.常備しているツール
コスメおたくの傾向があるので、使うコスメ自体は気分によってコロコロ変わるが、以下の4つのツールはいつもポーチに入れています。
①ポケットティッシュ
当然。外側のティッシュ入れに常備する。メイクをしていないときも普通にティッシュケースとして使える。
②あぶらとり紙
メイク直しの定番アイテムですね。わたしは混合肌でテカりやすいので使うが、乾燥肌の人はティッシュで十分だと思います。
ブランドは特にこだわりがないので、無印良品で買っている。「迷うくらいなら無印」「どうでもいいならとりあえず無印」は、思考コストの削減に役立ちます。無印良品の商品は、最低限の品質が保証されており、オンラインでも買えて、再入手性が高い。ベストではないかもしれないけれど、ベターであることはほぼ確実。大ハズレを引く可能性だけは回避できるわけです。ベスコスならぬベタコス。
無印と比較すると、「とりあえず百均」が危険な理由がわかりますね。品質にムラがあり、オンラインで買えず、再入手しようとしても「そこになければないですね」になる可能性がつきまとう。よく考えて買い物をする必要があるし、買ったあとも、微細な不具合によって精神的コストを削られる可能性があります。百均と無印、どちらを利用するかは、自分の財布の余裕と精神の余裕を鑑みて相談というところだ。なにもかも無印で買えたらいいのですが、わたしの経済力ではそうもいかない。早く5000万億兆円欲しい。
③鏡
亀柄がかわいい。わたしが亀好きであることを知っている友人からのいただきものです。
④シェーバー
ちょっとした毛に気づいたときにささっと整える用。特に眉。眉は大事です。
2.お直し用コスメ
季節や、その日どんなメイクをしたかによっても違うが、基本的には、リップスティック・フェイスパウダー・アイシャドウ・アイブロウペンシルの4種類だけを持ち歩いている。ここは個人差があると思う。わたしは薄いメイクが好きなので、アイテムは少ないほうかもしれません。
最近気に入っているラインナップを載せておきます。ちなみにわたしは、お直し用途だけにコスメを別途買うことはしていない。以下のコスメはすべて、家でのフルメイクでも使っている。
①RMK リップスティック コンフォートマットフィット 03 モードファクトリー
2019年4月発売の新作。最近の溺愛リップです。雑誌『SPUR』で「史上最強にお洒落なマットリップ」「超モード」と絶賛されていて興味を持った。「モード」「クール」という言葉にめっぽう弱い。
リップは大事です。究極に時間がないときは、リップを塗っただけでメイク完了にすることもある。気分だけでも引き締まります。
詳しく紹介した記事
②ナチュラグラッセ UVパウダーコンパクトN
2019年春発売の限定品。SPF50・PA++++で、夏場の日焼け止めパウダーとして活躍した。皮脂ブロック力は弱く、正直それなりに崩れるんですが、化粧崩れしても崩れ方が汚くないのがいい(毛穴に溜まらない。皮脂と混ざって、クッションファンデのように均一に伸びてから、全体的に少しずつ薄くなってゆく)。フィニッシュパウダーにしてはけっこうしっかり色がつくので、薄づきのパウダーファンデ感覚で使うのがいいと思います。粉っぽさがなく、綺麗なツヤ肌になる。クレンジング不要で、洗顔料で落とせます。
▼毎年マイナーチェンジしながら限定で発売されます。今年のパッケージはこんな感じ。
メイク直しのパウダーは、プレストパウダー(固形に押し固められた粉)で、パフと鏡がついたコンパクトタイプであることが絶対条件だ。過去の記事でも力説してきたが、ルースパウダー(サラサラの粉末のままの形態の粉)は粉が舞い飛ぶので、ポーチや服が汚れます。ADHDが持ち運ぶのには向かない。
▼左がプレストパウダー、右がルースパウダー。
ただしプレストパウダーは、万が一割れたときにダイレクトにぶちまけられることがあるので、そこだけは要注意です(「プレストパウダー 割った」とかでTwitter検索してみよう)。ルースパウダーを選んで、普段からちょくちょく粉がこぼれてイライラするか、プレストパウダーを選んで、普段はおおむね快適だがある日突然大惨事になる可能性を呑むかだ。わたしは後者を選択しています。
クレンジング不要で肌色補正できるUVプレストパウダーまとめの記事はこちら。
③インテグレート プチクレヨンアイシャドウ ミニセット BR4<グレイッシュブラウン>,PK1<ペールピンク>
まるでロケット鉛筆(死語)。好きな色を組み合わせてカートリッジに繋げて使う。
ADHDとして、パウダーのアイシャドウとは決別しました。コスメおたくを名乗っているというのに。
完全に使わないと決めたわけではないが、よほど気に入った色じゃないと買わない。基本はスティックアイシャドウ(クレヨンアイシャドウ)の中から選ぶようにしています。やはりコスメは、練り形状のスティックが一番扱いやすい。粉飛びしないし、手も汚れにくい。スティックを繰り出してサッと目尻に引く便利さを知ってしまったら、もう戻れません。「アイメイクを描く」のではなく、「色を差す」「陰影を乗せる」感覚であえてラフに乗せると、最高におしゃれになります。
2018年にローンチした日本初の男性用メイクブランド、FIVEISM×THREEのアイシャドウも、パウダーではなくてクリーム状だ。メイクに慣れていない男性がパウダーよりも手軽に使えると判断されたのだろう。
2019年9月現在、FIVEISM×THREEの製品には、パウダー形式のものはフェイスパウダー1種類しかない(ファンデーションすらスティックタイプ)。男性にとって手軽なら、女性にとっても便利に決まってる。
公式サイト アイシェードトランス | EYES | FIVEISM × THREE公式サイト
スティックアイシャドウはパウダーアイシャドウに比べるとマイナーで、種類もカラバリも少ないので、似合う色を探すのは大変かもしれませんが、まだ試したことがない人は一度試してみても損はないと思う。便利なだけじゃなくて、コツを掴めばちゃんと綺麗に、キュートにもクールにもソフトにもメイクできます。わたしは仮にもファッションが好きなので、大前提として、おしゃれにならないなら選択しません。我慢して普通にパウダーアイシャドウを使うと思う。
インテグレートの以外で、メジャーどころのプチプラブランドのスティックアイシャドウをいくつか挙げておきます。取り扱いブランドはあまり多くはない。今後の展開に期待したい。
・ヴィセ クレヨンアイカラー
公式サイト アイカラー クレヨン アイカラー | Visee<ヴィセ>
・ロレアルパリ カラーリッシュ ル スティロ スモーキー
公式サイト カラーリッシュ ル スティロ スモーキー | グラデも簡単!ブラシで馴染ませて、簡単密着
・メイベリン トーンオントーンシャドウ
公式サイト トーン オン トーン シャドウ | スティックシャドウで簡単グラデーション!
その他、太芯のジェルアイライナーを指でぼかしてシャドウっぽく使うという選択肢もあります。メイクにルールはないので、自分にとって心地よいほうへ、自由に試みていきましょう。自由なメイクとは、奇抜な色を使うことだけじゃないのだ。NO MORE RULES.(黒木メイサ顔で)
KATEの公式サイトのURLが、kate.jpとかじゃなくてnomorerules.netなの素敵だよね。このリップメイク全盛の時代に、かたくなにアイメイクのコレクションを量産して異彩を放っているのも可愛い。CHICCAはブランド終了するしルナソルはイメチェンが激しすぎるし、カネボウグループは滅びの美学でも追求してるんだろうか。破壊に向かっているのか。紅に染まったカネボウを慰める奴はもういないのか。
スティックアイシャドウの詳しいメリット・デメリットや、プチプラのスティックアイシャドウまとめの記事はこちらです。
④KISSME FERME カートリッジWアイブロウ 04 ダークグレー
公式サイト カートリッジWアイブロウ|キスミー フェルム KISSME FERME
これは以前の記事で紹介しました。アイブロウはパウダー&ペンシル一体型が一番便利です。粉もんのコスメはなるべく排除したい。
以上、ADHDがチョイスした、メイク直し用ポーチとコスメでした。
3.マイノリティとして生きるということ。個人のポーチの中身から「社会」を考える
繰り返すが、メイクアップアイテムは好みや似合う色が人によって大きく違う。わたしのおすすめするものが他の人にも合うとは限らない(化粧品に限らず、なんでもそうですが)。
それでも、わたしのごく私的なチョイスの根底には、「ADHDである自分にとってよりよい美容ライフを試みる」というテーマが必ず流れている。どのコスメも、「なんとなく」チョイスしたものは一つもないと断言できる。「健常でない」わたしでもうまく扱えるかどうかを慎重に検討した上で購入している(お金もないことだし)。そうやって常に頭を働かせないと快適に生きられないのが、マイノリティの生きづらさの本質だ。これは、発達障害者に限らず誰もが、おのれのマイノリティ性において大なり小なり感じた経験があることと思う(マイノリティ要素をひとつも持っていない人はいないと思います)。
わたし以外の例を借りると、たとえば、わたしの父はオストメイト(人工肛門保有者)なので、家の外ではオストメイト対応トイレを探さねばならなかった。なにも考えずに目の前のトイレにスタスタ入っていけるのは、一部のマジョリティの特権なのだ。
▼オストメイトおよび、対応トイレであることを示すマーク。当事者でない人はこのマークの存在すら知らないままで生きていけるが、当事者は頭を働かせてこのマークを探し歩かねばならない。
(出典:障害者に関係するマークの一例 - 内閣府)
なにも考えなくても快適でいられるとしたら、社会がもともとその人に合うように作られているからだ。それが、マジョリティであるということだ。
この社会はおおむね、わたしに合うようには作られていない(もちろん、すべての面において合わないわけではない。わたしがマジョリティ側に立つ局面も数多く存在します)。
だからわたしは、よりよく生きるために、ない知恵を絞って、平凡な一般人なりに全力を尽くしてきた。私的な選択の裏にある、その試行錯誤の中身を共有することには、意義があるんじゃないかと思います。
わたしはこれからも、わたしが試みるよりよい生活を記録していくつもりだ。それは誰かの参考になるかもしれないし、ならないかもしれない。インターネットの普及は、一個人の想像力を遥かに超える多様な生の在り方を可視化した。たとえば「ADHD」とか、たとえば「女性」とか、特定の「属性」であるというだけで誰かと連帯できるなんて夢物語だと、みんな気づきはじめている。われわれは、星の数ほど多くの差異によって、星間距離ほど遠く隔てられている。また、そのような隔たりを「分断」としてことさらに煽り、憎みあいを扇動するような輩も跋扈している。
それでも、「わたし」個人と「あなた」個人が、お互いの在り方からめいめい勝手にヒントを見出だすことなら可能だと思うのです。
それは、「連帯」と呼ぶにはあまりにもささやかですが、われわれに残されている数少ない「繋がり」のひとつでしょう。
わたしは、わたしのいる場所で、今日も生きている。よりよい生を試みている。
あなたも、あなたのいる場所で、少しでも安らかでありますように。
わたしは、自分の鬱が個人的なものだとは思っていない。個人の感情はしばしば、社会全体の課題と地続きだ。非・個人的な、いっそ政治的なものだ。そこにおいてのみ、わたしがわたくしごとを記述することには意味がある。
— 呉樹 直己 (@GJOshpink) August 17, 2019
わたしが連帯するとしたら、なにか特定の資格や属性を有した「誰か」ではなくて、「あなた」だけです。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2019年9月1日
ADHDのポーチの中身シリーズ、もう少し続きます。
次は、家でメイクを済ませる時間がなくてフルメイク一式を持ち出すときのポーチの中身についてです。
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