最近訪れた場所をいくつか日記に書いてみたら、大半「場」の話をしていることに気づいた。光と音が溢れて、わたしのような精神障害者はいるだけで疲弊させられてしまう都心において、せめて腰を下ろして休憩できる「場」の話である。都心という、消費に最適化された場所で、消費を行わずにただ「居る」ことは想像以上に難しい。消費をまったく行わないことは不可能に近いが、少なくとも、消費を急かされることはなく、お金を出すタイミングを自分で決められる場に身を置きたいと常々思っている。
ライター/批評家の谷頭和希は、都市においてただ「居る」営みを「滞留」と表現し、滞留を受け止める場所としての機能が街から失われつつあることを度々指摘している。
この問題、ずっと考えてて、渋谷も17軒スタバがあるのに、週末はどこも満員。
— 谷頭和希 (@impro_gashira) 2024年4月7日
明らかに、都市の中で滞留できる空間が減っていて、その皺寄せがカフェに来てる https://t.co/cWZ5piW3J9
この仮説、意外とデータ的にも言えて、
— 谷頭和希 (@impro_gashira) 2024年4月7日
2000年代前後に現れた「ジベタリアン」は、2003年あたりに姿を消してる。それは、都市の浄化政策が大きいけど、相前後する形で、2000年代カフェブームが勃興し、スタバの数が爆増し始める。
都市の浄化運動とスタバの増加が(因果関係はないけど)連動してる
思うと、トー横問題も、この「都市の滞留」を、巡る問題だった。街の中に留まることについて。
— 谷頭和希 (@impro_gashira) 2024年4月7日
今、トー横を見ると、なぞの植物が置いてあって滞留を妨げている。ある意味で、トー横キッズたちは追い出されたわけだけど、その人たちはどこにいるのか?
かつて滞留を受け止めていたカフェやファミレスが過剰な人出に圧殺されて機能不全に陥る中で、谷頭は新たな「場」として、渋谷のミヤシタパークのようなソフィスティケートされた都市型公園や、多機能ジムのチョコザップに公共性を見い出している(ミヤシタパークに関しては前提として、元々いた社会的弱者の「場」を奪って建設されたという問題点は踏まえつつ)。わたしにとっても、自分なりの「場」を見つけることは喫緊の課題だ。通っているGID科が都心にあり(東京においてすら、ホルモン治療が可能な病院は内科や歯科ほどは多くはなく、近所でまかなうことはできない)、また買い物好きでもあるので、都心には頻繁に通わざるを得ない。ちなみに、都心の過剰な消費喚起力に疲弊する感覚と買い物好きは両立する。自分の意志でお金を出していると思える限りにおいて、わたしは買い物が好きだ。
上京して4年、新宿や渋谷に来るだけで胸ときめいた時期は終わりつつある。心身を損なわず持続可能な都会暮らしのために、外出の際には、「場」として心地よいかどうかも注意してみていこうと思う。選択肢があることが東京のアドバンテージなのだから。
以下は、近年の印象に残った外出の記録である。個別記事にしたものやする予定の場所は除く。
1.イートイン
お気に入りのブランドのスイーツのポップアップがあのミヤシタパークに来ることになったので、不本意ながら初めてミヤシタパークに足を踏み入れた。整備され一定以上の成長は許されていない植物といい、人工的な古めかしさが演出された飲み屋街といい、高度な茶番の印象はやはり拭えない。イートインは一応座る場所ではあるが、ゆっくり落ち着くことは想定されていないので、場としての居心地はよくない。ささっとクレープを食べてささっと退店した。
ブランドはブラックパリ。過去記事でも漆黒のケーキを紹介した。
2.カフェ
都心で、下調べなしで居心地のいいカフェに行き当たるのは至難の業である。わたしは店探しが不得意なので(改善努力はしている)、大抵行き当たりばったりに歩いては結局チェーン店に入ったりしている。
コメダ珈琲は都心ならどこにでもあるがどこも激混みである。チェーン店は雰囲気が画一的なので身構えずに入ることができるのが大きなメリットだ。大当たりは存在しないが外れることもない。わたしは旅先でも、思考コスト削減のためにチェーン店に入ることがよくある。
新宿二丁目にあったカフェラバンデリアは、左翼のコミュニティスペースのような雰囲気だった。マイノリティにとっての心理的安全は確保されているかもしれない。小さな店なので席間隔は狭め。
猫もうろうろしていて面白いカフェだったが2023年に惜しくも閉店。
【ご挨拶】
— Café☆Lavandería (@kilowatio0501) 2023年10月31日
今年2023年3月26日をもって、東京・新宿2丁目にあった
カフェ★ラバンデリアは閉店しました理由は立ち退きです。
2009年オープン以来、仲間と共に模索しながら運営してきましたが、なんとか続けてこられたのは、皆さんのおかげであったと思っています。 pic.twitter.com/BBOFdphgB7
一人でふらっとタカノフルーツパーラーに入るのにちょっと憧れていたので、新宿髙島屋店にてチャレンジした。味も雰囲気もいいが高価格なので常用は不可能。
2023年3月の大阪旅行の際は、心斎橋パルコのエンポリオアルマーニカフェに入った。パフェは見目麗しく味もよかったがすこぶる高いので常用はできない。サービス料10%までかかる。
同じく大阪のロートレシピは、スキンケアも有名なロート製薬が運営するカフェレストラン。野菜中心の健康にいいメニューが揃っている。美容好きの人と行けば話が弾みそうだ。
出し物の美味しさで印象に残っているのは銀座一丁目のGINZA CAFEである。チーズケーキと、信じられないくらい大きいグラスで出てくるぶどうジュース(金箔入り!)が絶品だった。しかしやはり銀座の一等地なので時間制限もあり、寛ぎ度は低め。地下なので電波も悪い。Wi-Fiの有無は失念。
同じく銀座のコムサカフェもいちご大福のケーキがとても美味しかった。あんこは入っておらず、いちごが求肥のような皮に包まれていて、さらにケーキに乗っているのである。しかし1ピースが1500円もする(ホールケーキは20000円)。ドリンクを足すと2000円以上かかるので常用はできない。高いだけあって席は広々としており、少しわかりにくい場所にあるからか空いている。
3.夜パフェ
ここ数年流行っている、深夜まで営業しているパフェ専門店。夜パフェと聞くと、隠れ家的空間で薄明りの中ソファに腰かけて深夜までひっそりとおしゃべり……みたいな優雅な雰囲気を想像してしまう。しかしわたしが行ったパフェテリアベル新宿三丁目店は全然違って、激混み・激うるさ空間のカウンター席で時間制限つきの中慌ただしくパフェを吸い込む過酷アトラクションでした(パフェ自体は美味)。思えば新宿の一等地にあって隠れ家的雰囲気なわけがないのであった。
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4.バー
お酒が強くないのでバーに行くことは少ない。
有名なバー十誡は、文学好きの友達をもてなすときの鉄板スポットだが、一人で利用するには高い。雰囲気は抜群。
印象に残っている飲み物は、友達が頼んだのをお相伴させてもらったアブサン飲み比べセットである。薬草を漬け込んだ酒であるアブサンは大層クセが強くて苦かったが、アブサンを舐めたあとに口に含んだ水は甘露のように旨く感じた。アブサンの不味さは水を美味しく飲むためではないかとすら思った。これはこれで文化的な体験だったように思う。
新宿ゴールデン街の月に吠えるも、酒目的ではなく文化を味わうために行った。「日本一敷居の低い文壇バー」を標榜する店で、読書家や作家・ライター志望、出版業界の人々などが集まって独特の雰囲気を形成している。東京の文化コミュニティ特有のしゃらくささが地方出身者としては気に入らねえな。初の単著を出したばかりの友達と行ったら、隣の席の人とバーテンがその本の話を始めたのには驚いた。これが東京か。
水曜日の店番は元書店員です。先日常連さんが折れたアメスピ2本を手巻きで3本に錬金しており、絵面の違法みを含め最高でした。職人技です。
— プチ文壇バー 月に吠える (新宿ゴールデン街) (@puchi_bundanbar) 2024年4月24日
本日も19時からお待ちしております。 pic.twitter.com/Qiul9vnJLH
5.GINZA SIX
GINZA SIXはハイブランド中心のファッションビルだが、実は銀座において無料で座れるソファが多い穴場でもある。イオンモールにあるような、くたびれたお父さんたちが屍になっているソファスペースが各階に設置されているのである。しかもトイレの横とかの隅っこではなく、店に面した開けた通路に設置されているので、買い物の流れで自然に腰を下ろすことが可能なのだ。そもそもGINZA SIXは都心のファッションビルにしては意外なほど人が少ない。ハイブラ趣味の客はより駅に近い銀座三越か、よりディープなドーバーストリートマーケットに流れるからかもしれない。よってソファも空きが見つかりやすい。
また、南エレベーターからのみ入場できる13階フロアには、もっと閑散としたソファスペースがある。「作業や居眠りはご遠慮ください」と書いてあるが、れっきとした誰でもスペースだ。
13階フロアは存在自体が知られていないからか、本当に閑散としている。わたしも最近友達に教えてもらって知った。
なお、手を消毒するためのアルコールスプレーに加えて、有名香水ブランドのディプティックのハンドモイスチャライザーまで設置してあります。太っ腹。ハンドモイスチャライザーはとてもいい香りがします。
GINZA SIX、買い物ついでにぜひ利用してみてください。ちなみにお店のおすすめは、ハイブラ揃いの中では比較的庶民的な価格のものが見つかるパリゴ、ADHDの服選びにも活用できそうな合理性重視の多用途・時短・全天候型セットアップがウリのK-3B、この世で2番目に照明が暗いお店である香水ショップのフエギア(ちなみに1番はアズールバイマウジー)です。
6.シーシャ
わたしが友達と会うときの、現時点での最適解はシーシャ(水煙草)だと思っている。
シーシャは一応20歳以上のみの嗜好品だが、普通の煙草に比べてニコチン量はごく僅かで、煙はただの水蒸気であり、服に悪臭がつくことはまったくない。好きなフレーバーの水蒸気を吸う遊びと認識してかまわない。多くのシーシャカフェは食べ物や飲み物の持ち込みが自由であり、座席も快適なソファで、何時間でもダラダラできるのだ(祝日などは時間制限を設ける店もあるが、カフェの時間制限よりは長い)。1回の料金は店にもよるがだいたい2000円台で、狭いカフェで慌ただしくコーヒーを飲むことを思えば決して高くはない。シーシャに慣れてしまうと、結局自分は飲食がしたいわけではなくて落ち着いて座りたいだけなのだと自覚することができる。
有名チェーン店のチルインは、新宿や渋谷を歩けば必ず行き当たる。システムが明文化されており、初心者に優しい。
同じくチェーン店のCスタンドは、歌舞伎町に足湯つきの店舗がある。2時間ぶっ通しで足湯をするのは初めての経験で、自律神経が逆におかしくなるかと思いました。
嘔吐禁止の貼り紙あり。生理現象を禁止されたとて、という気もするが、牽制にはなるのかもしれない。
高円寺・吉祥寺・祐天寺に店舗があるはちグラムは、メニュー表が存在しない。好みのフレーバーを店員さんと相談しながら作ることができる。シーシャに詳しい人は楽しいかもしれない(わたしは詳しくないのでいつも店員さんに任せっぱなし)。土地柄、サブカルチャーに親和的な雰囲気があり、オシャレ心をくすぐられます。地方出身者としてはもちろん気に入らねえ。
以上、最近(といっても1年以上前のも含む)の外出記録でした。
外出先でメンタルを整える工夫については過去記事をどうぞ。