わたしは鬱で、ADHDで、日常生活に割けるエネルギーが少ない。誰と比べて少ないのかは曖昧ですが、まあ便宜上、「健常者」という雑なくくりを拝借しておきましょうか。健常者よりも、脳内のリソースが少ない。だから、そんな自分の特性に合わせて意識的に生活を組み立てないと快適に生きられない。わたしがポケットのないボトムやアウターを選ばなかったり、アクセサリーは紛失前提で安いものしか買わなかったりするのも、自分仕様に生活をカスタマイズする試みの一環だ。わたしはファッションに凝るのが好きなほうだが、大好きな趣味だからこそ、自分の少ないリソースで維持管理できる服しか買わない。日常生活も、趣味も、心身のコンディションが悪いときのエネルギー量に合わせて組み立てる。そのためにも、どんなときにコンディションが悪くなるかとか、自分の特性を知る努力を続ける。特性に関して新たな発見があったら、それをまた生活に反映して、より快適に生きられる環境を整える。ここ数年は、この繰り返しで人生をサバイブしています。服に関する試行錯誤は、下記の記事にも詳しく書いた。
記事中に書いた、わたしの「買わない服の条件」はこちら。
服のNG条件
①家庭の洗濯機で洗濯できない(アウターは除く)
②アイロンをかけないとだらしなく見えてしまう素材
③ニット
④レーヨン・キュプラ・リヨセル・テンセル100%
⑤モヘア
⑥ファー
⑦ベロア、別珍、ベルベット
⑧タイツ、ストッキング
⑨ポリウレタンの混紡量が多い、ポリウレタンでコーティングされている
⑩薄い色(とくにボトム)
⑪ポケットがないボトムとアウター
⑫オールインワン
⑬高額な帽子・アクセサリー・手袋・傘
⑭ペンダント(ネックレス)において:裏表があるペンダントトップ
⑮耳飾りにおいて:イヤリングNG。音が出るものNG。
⑯ハイネック、タートルネック
⑰レースのインナー、化学繊維のインナー
⑱締めつけるインナー
1年ほど前の記事ですが、今もわたしはこのような条件に従って、わたしなりの趣味としてのファッションを実践しています。
……とはいえ。
とはいえ、服好きとしては、条件から外れた服にどうしても惹かれることはある。世界は素敵な服で溢れている。
ポケットが多くてゆったりしてて感覚過敏を刺激しない実用的な服しか着ないという精神障害者の魂と、優雅なドレープが永遠に反復されて布量が多くてクソ重い服や肉体をクソ締め上げて心の形をあぶり出そうとしてくる拘束具みたいな服を着倒して死んでやるという着道楽の魂を同居させている。
— 呉樹直己 (@GJOshpink) 2020年9月12日
そんな「どうしても」が高じてたまらないときは、自分の感性を大切にするためにも、潔く購入することにしています。冒頭の内容をひっくり返すようですが、人生そんなときもある。だから、そういうときにせめてどうすれば快適に過ごせるのかを試行錯誤する努力が必要です。以前寄稿させていただいた記事にも書きましたが、「無理にやって疲れ果てて破滅する」と「諦めてまったくやらずに破滅する」の間には無限のグラデーションがあるはずだから、思考停止せずに、自分にとって少しでも心地よい位置を探す価値はあります。この記事では、わたしが今年買った服を例に、わたしなりの最善を目指す工夫を紹介したいと思います。ちょっと特殊なデザインの服なので(後述)、工夫の内容自体がほかの人にとって役に立つことはないかもしれませんが、快適な生活と着道楽を両立させたい人間の思考回路の言語化として参考にしてください。
さて、今年わたしが買ってしまった、条件に合わない服はこちら。
h.NAOTOの、See-through ponchoという商品。ハンガーにかけた状態じゃシルエットがわかりにくいので、公式の着画も見といてください。
過去記事でも軽く紹介しています。
つくづく実用性のない、ただきれいなだけの服です。
こういう、モード系やゴス系やいわゆる “原宿系” “青文字系” 寄りのブランドには、美学の静注だけを目的にした服があるのがいい。テイスト自体は個人的な好みからは外れるので、全身固めることはしないけれど、心意気は愛してる。なにも考えずに日常生活を送っていたら絶対に袖を通すことはない、非実用的なデザイン。欲望と意思によってしか着られることがない服たち。
このサマーコートもそうです。どう実用性がないのか(つまり、どこがADHD向けではないのか)、下に書き出してみる。
①洗濯機不可。手洗いのみ。
②長袖ポンチョだけどシースルーの極薄素材で防寒性ゼロ。吸湿しないポリエステルだから真夏も厳しい。季節を選ぶ。
③アウターだけどポケットなし。そもそも、物を入れたときの重さに耐えられるような素材ではない。引っかけて破る可能性大。
④袖がメチャ長くて常に萌え袖状態。手の自由が制限されてストレスMAX。
ざっと、こんな感じでしょうか。悪口を言っているわけではないです。h.NAOTOはそういうブランドなのだ。実用的な服ならよそでいくらでも買えるのだから。
斯様に、到底わたしには向かないけれど、好きになってしまったからには着てお出かけしたいわけですよ。
よって、以下のような対策を試みました。
①洗濯機不可。手洗いのみ
→ネットに入れておしゃれ着用洗剤で最弱モードで洗濯機にかけてしまう。自己責任で。
手洗いなどという面倒極まりないタスクをこなす余裕はない。メーカーは推奨していませんが、思い切って洗濯機に入れてしまうという選択肢もあります。今のところこれでいけている。くれぐれも自己責任でやること。
②長袖ポンチョだけどシースルーの極薄素材で防寒性ゼロ。吸湿しないポリエステルだから真夏も厳しい。季節を選ぶ。
→これは仕方ない。今みたいな秋に着倒そう。
こればかりはどうにもならない。細かい温度変化は下に着るもので対応するしかない。服にかけられるお金は限られているのだから、なるべく通年着られるものを選びたいところですが、この服は特別。
なお、発達障害者含む精神的弱者は、自分で自分の体調を把握するのが苦手なことが多い。わたしもさほど得意ではないし、思考コストを削減したいので、そういう意味でも微妙な気温のときにしか着られない服はなるべく買わないようにしています。基本的に夏か冬を基準にして買い、インナーとアウターを足したり引いたりして調節する。
③アウターだけどポケットなし。そもそも、物を入れたときの重さに耐えられるような素材ではない。引っかけて破る可能性大。
→精神的余裕があるときしか着ないようにする。せめてポケットのあるボトムと合わせる。
デリケートな素材を着ているときはそれだけで注意力のリソースを削られるので、コンディションがいいときだけ着るようにする。自分の状態を自分で把握するべし。なかなか難しいことですけども。わたしも、体調の悪いときにヒールとかを履いてしまって、外出先でへばったことは何回もあります。まさに着倒れ(もちろん、そこまでして好きな服を着たいかは個人差があるでしょう。わたしは着たい派です。各自の熱意と相談)。
また、上半身にポケットがないのなら、下半身で対応するしかない。過去記事で散々書いたように、レディースのボトムはポケットがないものが多くて腹立たしいですが、根気よく探すようにしています。服の通販サイトはポケットの有無で絞り込めるようにしてくれ。
わたしの、多くはない手持ちの服で、このサマーコートに合いそうなポケットつきのボトムはこのあたりでしょうか。
ユニクロのワイドパンツ(正式な商品名失念)。ゆったりめのストレートパンツみたいに履く(わたしは骨盤が広めなので、ボリュームの少ないワイドパンツは腰のあたりでシルエットが崩れてストレート気味になるのです)。ポリエステル100%素材は、速乾でシワになりにくくてADHD向け。
公式サイト UNIQLO
ワイドパンツとして履くなら、qualite(カリテ)のドレープワイドパンツがいい(今ちょうど洗濯中なので、画像は割愛)。ユニクロのより裾が幅広なので、ワイドパンツらしいボリュームが出ます(上記のユニクロの10倍の値段するだけあって布量が多くて最高)。締めつけないワイドパンツは感覚過敏を刺激しないのが楽で、何本も持っています。
公式サイト qualite(カリテ)のアイテム一覧 | 公式通販
スカートなら、antiqua(アンティカ)の変形スカートでとことん気取ってもいいかも。ハンガーにかけた状態だとわかりにくいですが、着用すると、アシンメトリーのドレープがきれいです。antiquaの服は、凝ったデザインでもポケットをつけてくれるのがいい。
▼公式の着画(出典:お知らせ - ZOZOTOWN)
公式サイト 【公式】オリジナルブランドantiqua(アンティカ)&セレクトショップ、雑誌感覚store
……こんな感じでしょうか。服は好きだけどお金はないので、手札は少ないです。
④袖がメチャ長くて常に萌え袖状態。手の自由が制限されてストレスMAX。
→腕まくりできるゴムを導入する。
ここが一番のネックでした。袖にはシャーリングがついており、長くてボリューミーで、普通に着用するだけでは非常に邪魔なのだ。
ADHD的に、手の自由が利かないのはなによりも嫌なので、この服の雰囲気を壊さない程度に腕まくりをすることにしました。デザイナーが意図したシルエットとは違うだろうけど、これはわたしが買った服なのだから自由にさせてもらいます。
本体と似たようなシフォン素材の、黒色のシュシュを2個買ってきて。
腕にはめて、位置やシルエットを微調節して。
最低限の手の自由を確保してみました。写真だと伝わりにくいですが、全体としておかしくないように整えたつもりです。
……以上が、この面倒くさくて美しいサマーコートを、鬱のADHDが着るために実行したこと。こうして書き出してみたら、べつにたいしたことはしていませんね。誰しも無意識にやっていることだと思う。
鬱でもADHDでもなくても、マイノリティ性をまったく持たない人はいない。誰もが、なにかしらの不便感を大なり小なり抱えながら日々暮らしていることだろう。そういうちょっとした生きづらさを生む棘を、面倒がらずに抜いていきたいと思っている。人生、今生では解決できない苦痛も多いのだから(むしろそんなのばっかりだ)、せめて、自力で改善する余地がある苦痛くらいは自分でコントロールしていきたい。
そんな感じで、今日も生活している。よりよい生を試みている。美しい服に、背中を押されながら。以上、h.NAOTOの服を例にした、わたしの思考回路ログでした。
【本筋に一切関係のない補足】
2020年にh.NAOTOを買う奴がいるんだ! と爆笑した30代~40代の方もおられるかもしれないですね。ちなみに、ヘルキャットパンクスのライダースとBPNのコルセットベルトも持ってます。「ヘルキャ……ピースナウ……アルゴンキン……バナフィ……セクポ……セクダイ……ウッ、古傷が疼く!!」となったフォロワーさんはぜひ話しかけてください。
なお、ここらのブランドをなんと呼べばいいのかとか、原宿系と青文字系は違うのではとか、そこらへんのセンシティブなジャンル論や歴史語りはわたしの手には負えないので、「モード系やゴス系やいわゆる “原宿系” “青文字系” 寄りのブランド」というふうになるべくふわっとカテゴライズしておきました。なんとなく察してください。ちなみにわたしは、お金持ちになったらalice auaaが欲しいなあと思っています。よろしくお願いします(何を??)。
L'Arc~en~Ciel「花葬」-Music Clip- [L'Arc~en~Ciel Selected 10]
花葬のMVの衣装はalice auaaだよ。
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