敏感肌ADHDが生活を試みる

For A Better Tomorrow

着道楽日記:「あるべき身体」とオムプリッセ

 

 

 

先生(同居人)の家に引っ越してから、一人暮らしのときよりも栄養状態が改善し、体重が増えた。テストステロン注射(男性ホルモン治療)をはじめてからはさらに肥った。現時点でのわたしの身体は、169センチ63キロ、BMIでいうと21.7。これは、わたしが偏愛するモード系のファッションブランドからすると、身長は低すぎるし体重は重すぎる。そんなバカなとお思いかもしれませんがマジである。既製服はそのサイズ展開の幅でもって暗に「あるべき身体」を規定するが、中でもモード系と呼ばれるブランドの服は、極端に丈が長く細身の作りをしていることが多い。わたしは日本人女性の平均身長より高いにも関わらず、モード系っぽいブランドばかり好んで買っているので、丈が足りないと感じることはめったにない。むしろ、もっと脚が長かったらよかったと思うことのほうが多い。体重に至ってはもうお話にならず、日本のレディース分類ブランドの場合、ボトムスは一番大きいサイズでぎりぎり入るか入らないかといったところ。最近は入らないことのほうが多い。それでも、メンズを買うとかでなんとかやりくりできるので、わたしはモード系にぎりぎり食らいついていっている。モード系のエクスクルーシブな世界観は、「規格内」でいるうちはほかのファッションジャンルでは味わえない陶酔をもたらしてくれる。もちろんそれは「規格外」の身体になった途端に襲ってくるであろう強烈な自己否定感と表裏一体なわけだが、わたしのような、成人している服のおたくは、完全自己責任でモード系ブランドの信奉者になり、閉じた世界で極上の毒酒に酔うわけである。なお、未成年向けだったり日常着を想定していたりする中価格帯以下のブランドのサイズ展開が狭いのはもちろん悪だと思っている。わたしのような、ファッション通販アプリ5個を1日25時間巡回している成人済の服のおたくが、自己責任で細長い服を大枚はたいて買うのとはわけが違うのだ。

 

 

 

 

ただし、今はモード系に食らいついていける服のおたくも、ずっとそうできるとは限らない。生涯「規格内」でいられるとは限らない。妊娠・出産で極めてドラスティックな身体変化を経験する人もいるし、出産に続く子育てや、長時間労働や介護などの侵襲的なアクティビティでも身体は変化する。病でももちろん変化する。身体の病は当然のこと、精神の疾患でもそうだ。わたしが身を置いている精神障害者のコミュニティでも、薬の副作用による体重増加を経験した人は非常に多い。精神をリラックスさせる薬は同時に身体の代謝も穏やかにするので、カロリー消費が少なくなって肥ることが多いのだ。わたしも今後どうなるかはわからない。

X(Twitter)で、歯に衣着せない服のおたくが、「一時期オムプリッセばかり着ていた時、明らかに身体に締まりがなく緊張感がない身体になった」とまことしやかに投稿しているのを見たことがある。もちろんこれは服のおたくの放言であり、モード系ブランドという閉じた世界の中でのみ通用する内輪の言葉だ。エクスクルーシブな世界でジョークが先鋭化するのは、ファッション分野に限らずどこでもそうだろう。投稿主とはべつに繋がりもないし、非難したいわけではないのでリンクは貼らないが、とにかくわたしは、こういう文脈でオムプリッセの名が上がることに自分の実感として納得したのだった。

 

 

 

オムプリッセ イッセイミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)は、イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)から派生したファッションブランドである。イッセイミヤケは、日本を代表するファッションデザイナーである三宅一生が1971年に創業した。コンセプトは、創業当初から現在に至るまで「一枚の布/A Piece Of Cloth」。一本の糸から、オリジナルで素材を開発しながら、身体と布、その間に生まれる「ゆとり」や「間(ま)」の関係を問い直すデザインを発表し続けている。1970年代当時の西洋の、女性服を身体の輪郭を重視してデザインする構築的な手法に対し、オーバーサイズでジェンダーレスで非構築的なデザインを提唱した。日本の合成繊維の技術革新に支えられつつ、辿りついたのはプリーツ素材である。シワを気にせずコンパクトに収納できて、伸縮性に富み、体型を問わず、身体が解放されるような感覚で着用できる機械製プリーツの服が主力商品となっていく。オムプリッセは2013年にデビューしたメンズラインで、やはりプリーツを主な素材とし、普遍的で機能的な日常着を提案するブランドだ。

 

 
 
 
 
 
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レディースのボトムスが入らないことが多く、またADHD由来の感覚過敏も抱えるわたしは、イッセイミヤケのコンセプトにはずっと惹かれていた。軽く、洗濯機で洗濯できて(モード系ブランドにありがちな、洗濯表示タグでは非推奨だけど服に慣れているおたくが自己責任でやるやつじゃなくて、ブランド側が正式にマシンウォッシャブルを謳っている)、乾きやすいというのも好ましかった。わたしが管理できるレベルの実用性と、魅力的なデザインとコンセプトを両立させていると感じた。しかしイッセイミヤケ系列のブランドにありがちなことに、実店舗の店頭に服があまり置いていなくて、気軽に試着することができないでいた。服屋の店頭に服がないってどういうことだよと思われるでしょうが、本当にないんですよ。南青山のオムプリッセの旗艦店なんか常時閉店セール中みたいな品揃えで、いつ見てもハンガーラックがガラガラですからね。表参道駅を出て、コンクリの壁でインダストリアルな雰囲気でかっこよくて店頭がガラガラの薄暗い店があったらそれがオムプリッセです。

 

 

 

たぶん店員さんに声をかけたら奥から出してくれるのだろう。マーケティング素人のわたしにはわからないが、そういう戦略のほうが売れたりブランドイメージが高まったりするんでしょうか。担当さんに認知されるまで通い詰めないと欲しいものを出してくれないという噂のエルメスといい、高めのお店はときどき独特の作法を強いてきますね。

わたしも服のおたくとして高めのブランドは好きだが、そこまで心身のリソースを使おうとは思わないので、ハードルが高いブランドからは順当に足が遠のく。今回オムプリッセのパンツを買ったのも、申し訳ないが古着屋である。それでも原宿のちゃんとしたオシャレ古着屋(?)なので、フリマアプリで買うよりはいい買い物をした気分になれる不思議。6万8000円したので額はまったくお得ではないが。

 

 

プリーツのワイドパンツである。店員さんの説明によると2022年だか23年だかの新しめの商品で、裾のバックスリットが特徴とのこと。

 

 

わたしの身体だとガウチョパンツに近い半端丈で、見た目の好みだけでいうと手持ちのロング丈の黒ワイドパンツにやや劣るが、駅の階段を上るときに裾をつままなくていいのが非常に楽。

シワになりにくく乾きやすいポリエステル100%素材で、万が一経血が染みても目立たないダークカラーで、ポケットがあるのはわたしのデフォルトの条件。ADHDでも管理できる服選びの条件の話は過去記事でもしてきた。

 

www.infernalbunny.com

 

プリーツ素材は、安いプランドだと座りシワがついたり数度の洗濯で乱れたりするものだが、触ってみた感じこのパンツは大丈夫そうと感じた。

 

 

2023年11月に買ったばかりなので、まだあんまり着画がない。

 

 

プリーツの存在感で、Tシャツとのワンツーコーデもさまになりそうだし、夏が楽しみである。

 

 

 

わたしは年間9割を黒ワイドパンツで過ごしており、ここ2年半は過去記事でも紹介したピンナップクローゼットのワイドパンツをヘビロテしていた。ピンナップクローゼットは、スカートも含む全ボトムスに500ミリリットルペットボトルが入る巨大なポケットが完備されていることで有名(タイトなスカートなどごく一部に関しては巨大ポケットでないが、少なくともポケットは必ずついている)。おすすめです。縫製の甘さとか、代表取締役を務めるインフルエンサーの言動とか、引っかかる部分はなくもないが。

 

pinupcloset.shop

 

あまりにヘビーユースしていて劣化が心配だったので、今後はオムプリッセとの交代制でいきます。

 



以上、着道楽日記でした。

 

わたしはまだぎりぎり20代だが、そろそろ、年齢を重ねても継続できる、持続可能なモードを考えていきたいところである。

 

 

 

【余談】

イッセイミヤケといえば、2023年12月に、イッセイミヤケ出身のデザイナーとパタンナーのコンビが立ち上げた新ブランド・タケマル(Takemaru)がデビューして服好きの話題をさらった。

公開されているルックは、たしかに魅力的ではあった。とりわけアクセサリーは、今まで見たことがないような斬新なデザインが多かった。

 

 
 
 
 
 
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しかし魅力を感じるより前に、モデルが高身長白人女性に見える人ばかりであることの違和感のほうが先行したのも事実である。日本発のブランドとはいえグローバルに展開していくつもりなのだろうが、たとえどのような意図があっても、わたしはもう、高身長白人女性表象の群れをかっこいいとは思えなくなっている。これは感覚的な変化である。