この記事ではわたしが一番好きなYouTuberである「柴犬らんまる」チャンネルをご紹介しますが、結論から言うと、柴犬のらんまると飼い主さんご家族は2024年1月1日に発生した能登半島地震で被災し、現在進行形で避難生活を余儀なくされている。これまで動画内では在住の都道府県名は明言されていなかったものの、ご自宅がほぼ全壊している惨状を見るに、震源地にお住まいであったことが察せられる。被災を免れた者としては、石川県に寄付することで間接的に支援するほか、動画を見ることで広告収入をお渡ししてついでに面白コンテンツを楽しんじゃおうというご提案です。
柴犬らんまるのメインチャンネルはこちら。まずはここから。
サブチャンネルはこちら。メインよりさらにゆるい感じ。
X(Twitter)とTikTokも一応あるが低浮上で、メインはあくまでYouTube。なりすましの無断転載アカウントがあるので注意。
— [密着]柴犬らんまる24時 (@ranmarufrontier) 2023年8月10日
1.プロフィール
らんまるは海辺の町に暮らす柴犬。2015年に0歳で知人から引き取られてきたという。飼い主さんご家族は「お父さん」と「お母さん」の二人暮らし。ご自宅の近くに事務所を構えておられるようで、おそらく自営業かな。遠方で暮らすお子さんが2人いる。YouTubeのプロフィールに「のどかな田舎に暮らす柴犬のらんまる。離れて暮らしているおにーちゃん、おねーちゃんが寂しくないように、日々の様子を撮影します。」とある通り、家族向けの小規模なホームビデオがコンセプトである。メインチャンネルの登録者数は2024年1月6日現在39.7万人。震災後、奇しくも被災ドキュメンタリーチャンネルと化してしまったことでバズり、今までにない速度で増え続けている。
2.動画紹介
動画はどれも短い。おおむね1分程度で、長くても5分前後。オープニングもBGMも効果音もない。飼い主さんたちも一切登場せず、声も完全に無言か、発声部分はカットされていて、とても静かである。日英字幕つきのモノローグはある。
動画内容も穏やかだ。らんまるは派手な芸当をしたり、被り物をしたり、映える食べ物を食べたりはしない。動画の多くが、「らんまるが飼い主さんに撫でられる」だけで、字幕以外は無編集に近い。
それなのになぜ面白く見られるのかというと、飼い主さんのユーモアに溢れた着眼点と概要欄が凄いのである。
いくつか実際に、動画とその概要欄を見てみましょう。
●柴犬の前で食パンなでなでしてみた
柴犬のらんまるは食パンにそっくりです。
今回の動画では、家族が食パンをらんまるの座布団にのせてなでなでしているのを見て、らんまるが怒ってしまいましたが、なでなでをすると落ち着きました。
らんまるがいわゆる「たぬき柴」タイプで寸胴体型であることを食パンに見立てて、らんまるの隣で食パンを撫でくり回すという発想力。らんまるの反応はぜひ動画を観てほしい。この動画は柴犬らんまるチャンネルの代表作の一つで、2024年1月現在851万回再生されている。
●テンションMAXの柴犬に動物病院の診察券を見せた瞬間に・・・
柴犬のらんまるは毎年お世話になっている動物病院があります。
ある時期になると、らんまるはそこで注射を打ってもらうため、らんまるは動物病院を覚えています。
今回の動画では、らんまるが意気揚々とお出かけから帰ってくると、動物病院の診察券を提示されました。
始めは再会を喜びわちゃわちゃしていたらんまるでしたが、診察券を提示されるたびに真顔になります。
らんまるが動物病院に到着するときには受付は終わっているので、らんまるは診察券の存在を知らないはずですが、何か違和感を感じたのか、らんまるは提示されるたびに一旦距離を置きます。
動物病院の診察券を見るとふっと笑顔を消すらんまる。診察券を隠すと笑顔が戻って撫でくり回される。らんまるの行動の面白さと、淡々とした概要欄との温度差がユーモアを盛り上げている。
●階段がこわくてほふく前進で会いに来る柴犬二等兵
柴犬のらんまるは階段を降りるのが苦手です。
階段をのぼるのは家族の誰よりも得意ならんまるですが、降りるのは小さいころからずっと苦手です。
今回の動画では、らんまるが2階に上がってくる家族と再会しました。
近づいてくる家族の手を調査しようとしたらんまるでしたが、家族の手はまだ階段の上にあるため、走って近づくことはできません。
そのため、らんまるは階段から落ちないように伏せをしたまま前に進むことにしました。
らんまるはほぼなにもしていないが、ちょっとした表情の変化や動きを捉える飼い主さんの観察眼が光る1本。
柴犬らんまるチャンネルの動画の内容は、ほとんどが「飼い主さんがらんまるを撫でくり回す」だけである。それだけのことを、飼い主さんの発想力と概要欄の文章力で、面白くてどこかシュールな世界観にパッケージングしているのだ。
3.柴犬らんまるチャンネルのここが凄い!
YouTubeにペットチャンネルは星の数ほどあるし、柴犬のチャンネルも数えきれないほどあるが、個人的に柴犬らんまるチャンネルの満足度は群を抜いている。それは飼い主さんにユーモアのセンスがあるからだが、質実剛健な作風も忘れがたい印象を残す。個人的に凄いと思うのは以下の2点。
①動物目線のアテレコがない
動物の気持ちを人間が代弁する、「いたずらしちゃうぞ!」とか「ボク、●●だワン!」みたいなのがない。アテレコならではの可愛さが好きな人はアテレコのある動画を観ればよい。柴犬らんまるには一切アテレコがないので、アテレコがノイズと感じる人は断然こっち。
②動物の行動をジェンダー化していない
雄犬が人間から見て「勇ましい」行動をしたら「男の子だもんね」とか、雌犬が人間から見て「あざとい」行動をしたら「やっぱり女の子」とか。人間社会のジェンダー規範を犬猫に当てはめるやつ、ありますよね。犬猫の人間臭い行動の愛らしさを表現する手法なのだろうが、人によってはやはりノイズだろう。その点柴犬らんまるチャンネルでは、ジェンダー化された言葉を使わずにらんまるの愛らしさや個性が表現されている。観ていてストレスがない。らんまるを家族として愛しているのはもちろんだが、べたべたしすぎない心地よい距離感でいることが伝わってくる。
4.柴犬らんまるワールドを構成するキーワード
ご自宅や散歩道や「おばあちゃん」の家などお馴染みのロケ地と、センス溢れる概要欄は、らんまるワールドとでも言うべき滋味溢れる世界観を形成している。何本か動画を観ていけばわかる、らんまるワールドを構成するキーワードをいくつか挙げる。
■群れのメンバー
飼い主さんご一家のことは「群れのメンバー」「家族」と表現される。概要欄を執筆しているのは「お父さん」にあたる男性と思われるが、「妻」とか「娘」とかじゃなく一貫して「群れのメンバー」または「家族」呼びなのがフラットでいいですね。基準は人間ではなく、あくまでらんまるなのである。
一大イベントは、離れて暮らす群れのメンバーである「お姉ちゃん」の帰省。お姉ちゃんが帰省するたびに大喜びするらんまるの様子が多数公開されている。
●座布団をめくると帰省したお姉ちゃん(3か月ぶり)がいて感情が大爆発する柴犬
柴犬のらんまるは家族との再会を喜びます。
喜びの大きさは再会までの時間が長いほど大きく、らんまるの動きはよりすばやくなります。
今回の動画では、らんまるがさんぽから帰ると、部屋に座布団の山ができていました。
気になったらんまるがにおいを調査すると、すぐに中にお姉ちゃん(普段はいない群れのメンバー)が入っているとわかり、しっぽをプリプリさせながらすばやく動き始めました。
勢いがついたらんまるは座布団を吹き飛ばしながら走り回り、姿勢を低くして隙間から毛布の中に侵入し、お姉ちゃんと再会を果たしました。
■お父さんの枕
らんまるは「お父さん」の枕や布団が大好物で、いくら洗濯しても嗅ぎ分けて熱心に身体をこすりつけたりパンチしたりする。その様子は「処刑」とも表現されている。お父さんの枕シリーズでは、普段の様子とは違って野生の本能(?)むき出しで好きな匂いに執着するらんまるを見ることができる。
●お父さんの布団を処刑する柴犬
柴犬のらんまるは敷物が好きです。
目の前に見たことのない敷物があると、何か言いながら高速パンチやボディプレスを仕掛けます。
今回の動画では、お父さんのマットレスをはじめて見たらんまるが、マットレスを敷いた途端、衝撃を受けたようにマットレスに飛び乗り動画のような状況に至りました。
●父の枕でおもちゃを熟成したら柴犬が暴走した
柴犬のらんまるは動くおもちゃが好きです。
しかし以前機械で動く魚のおもちゃをあげたときは、少し怖がってトラウマになってしまいました。
今回の動画では、らんまるが安心できるようにその魚のおもちゃに新しいベッドの時と同じく枕を使ってお父さんの匂いをつけてみました。
苦手なおもちゃも、お父さんの枕でしばらく寝かせたらこの通り。枕カバーに包むことを「熟成」、取り出すことを「収穫」と表現するセンスが光る。お父さんの枕カバーがここ数年ずっとハローキティのタオルなのが「実家」感溢れててノスタルジーをそそります。お姉ちゃんの帰省しかり、視聴者は親戚気分を楽しむことができるのである。だからこそ、震災でそのご自宅が全壊してしまった痛ましさが余計胸に迫るわけだが。
■おばあちゃんの家
季節の行事の際は、近所の「おばあちゃん」の家にご家族が集合する。おばあちゃんの家がこれまた「古き良き日本の実家」といった風情の日本家屋で最高。もちろんカメラの外の人間関係はわからないし、地方での生活は不便なこともあるのだろうが、「のどかな田舎」の魅力的な部分だけがコンテンツ化されているのである。
●おばあちゃん家の新年会に招待され、曇りなき目でおばあちゃんのためのお誕生日席に鎮座する柴犬
柴犬のらんまるは催し物がすきです。
たくさんの人が集まりにぎやかにしていると、らんまるは近くに行って参加しようとします。
今回の動画では、らんまるがおばあちゃん家の新年会に招待されました。
招待してくれたおばあちゃんに挨拶をすると、らんまるは家族たちのあいだをうろちょろし、配膳された料理をこまめにチェックして回ります。
そうしてすべての配膳が終わり、らんまるのごはんを準備していると、らんまるはいつの間にか主役席に座っていました。
会が始まると参加者のもとを順番にまわってサンドイッチを所望するらんまるでしたが、ごはん台をみんなが見える位置に持ってきてもらうと、むしゃむしゃと自分のごはんを食べ始めました。
食卓をうろうろするも、人間の食べ物には一切手をつけないらんまるのお利口さが際立つ1本。食べ物に興味があるのではなく、人が集まっているのが好きなのだろう。
5.地震被害の様子
さて、ここからはシリアスな話になる。
2024年1月1日、らんまるご一家が被災していたことが明らかになった。家族全員無事ではあるとのこと。
1月2日。停電や断水が続いており、自宅に帰ることもできない状況。犬連れなので、おそらく避難所には行かず車中泊をされている。らんまるは緊張のため餌も食べられない状態。
1月4日。ご自宅の台所と庭の惨状が映る。ニュースよりも生々しく被害の様子が伝わります。家に入りたがるらんまるだが、動揺を防ぐため見せないでおくことに。
1月5日。いつかは知ることなのでと、らんまるに家の様子を見せることになる。前日の動画では、ものが散乱してはいるが片付けて少し修理すれば原状復帰できるようにも見えたご自宅だが、実は二階部分が全壊していたことが明らかになる。二階はらんまるの定位置であり、多くの動画が二階で撮影されていた。
「らんまるはいつもの二階に行きたいようだが 二階はもうない あの場所にはもう戻れない」というテロップが重たい衝撃を伝えてくる。お父さんの枕。お母さんの靴下。元気よく駆け上がっていくけれど一人で降りるのは怖い階段。らんまるの前脚が触れる部分が変色した引き戸。いつもの座布団。畳の部屋。お菓子の缶をひっくり返した餌皿。ZOZOTOWNの段ボールを再利用したハウス──動画を通じていつしか視聴者にとってもお馴染みになっていた「暮らし」の数々が、壊滅的な被害を受けたのである。一面の雪や、海沿いの散歩道の潮風といった、その土地で暮らしていない者にとっては風光明媚と感じられた自然物の数々も、今は真冬の寒気として牙を剝いているだろう。
愛玩犬にとって家は寝床であり、食事の場であり、遊びの場であり、休息の場であり、世界のほとんどすべてである。それを根こそぎ失ったらんまるの動揺は察するに余りある。と同時に、暮らしの根幹を破壊されたのは飼い主さんご家族、そして被災地のほかの人々も同じであることを改めて実感する。愛玩動物も飼っておらず、YouTubeで拡散されることもない、無数の被害が画面外にあるのだ。
被災地の一刻も早い復興を願っている。被災しなかった地域の人間としては、寄付をすることと、不正確な情報の拡散に加担しないことを心がけて、余計な動揺をせず淡々と暮らしていきたい。
【2023.1.10 追記】
チャンネルでは現在も、被災地の生活の様子が毎日配信されている。
8日目には雪が降った。道路が雪に覆われることで亀裂部や凸凹がわかりにくくなり、散歩にも危険が伴う。自宅の倒壊部に雪が積もることで、雪の重みで倒壊が進んでさらなる怪我人が出るリスクもある。ご一家は、辛うじて屋根がある土間の部分で生活されているようだ。ビニールシートやプチプチでせめてもの防寒をする様子が映っている。
●被災8日目。これまで1週間ビクビク暮らしていた柴犬の仮設住宅をそーっと覗いてみると・・・
9日目。ご自宅の近所の事務所も全壊していたことが判明する。
●会社も全壊でした。取り壊しが決まり最後に一目だけいつもの会社を見つめる柴犬。皆さんにお願いがあります。被災9日目
1月9日の21時には、BASEオンラインショップでらんまるのグッズが販売開始された。本来はチャンネル登録者数40万人記念で発売予定だったというタオルハンカチである。発売後わずか10分で完売してしまったが、らんまるに直接支援できるコース(100円から10000円)と、能登半島地震全体に寄付できるコース(1000円から10000円)は、デジタルコンテンツ扱いなので今後も購入可能だ。
ハンカチは再販準備中とのことなので、チェックしてみてください。