敏感肌ADHDが生活を試みる

For A Better Tomorrow

【アフリカンジュエリー】Gerda Goosenのヴィーガン象牙アクセサリーを紹介するよ。夏でも蒸れない大ぶりバングルの最適解!

 

 

 

最初に書いておくと、この記事で紹介する、夏でも蒸れない大ぶりバングルとはこれである。

 

 

いや誰がつけられるねんと思った人もいることだろう。一般的な勤め人なら仕事中には許されないデザインだろうし、プライベート用だとしても明らかに万人向けの雰囲気ではない。さらに、この商品の日本における取り扱いは現時点では東京都・恵比寿にあるヴィンテージセレクトショップのみであり、通販もなく、購入のハードルは非常に高い。価格は33000円で、大ぶりバングルとしては安いが、服飾品にかける金銭としては高いと感じる人も多いだろう。あらゆる意味で万人向けではない。なのでこの記事は、夏でも蒸れない大ぶりバングルを探している人の悩みを解決するものというよりは、いつも通りの、わたしの個人的なお買い物エッセイである。心ときめく服飾品とそれにまつわる語りが好きな人は読むと楽しいと思います。いつも通りやたら長文です。

また、このバングルは、ヴィーガン象牙という日本では馴染みのない素材でできている。作者はGerda Goosenという南アフリカ共和国のクリエイターである。まだ日本語情報が少ない彼女とヴィーガン象牙という素材や、日本におけるアフリカの文化についてもいろいろ書いていこうと思う。お時間があるときにゆっくりお読みください。

 

 

 

 

1.一世一代の買い物、ボーンカフの3つのデメリット

わたしが外出するとき、右手にほぼ常につけているのはティファニーのボーンカフであった。

生まれて初めて買った10万円を超える服飾品であり、一世一代の買い物として過去記事でもレポした。ちなみにその後値上がりして現在では20万円を超えている。駆け込み購入してよかった。

 

 

www.infernalbunny.com

 

ボーンカフはティファニーのアイコニックな有名商品で、購入後は店舗でたまに磨いてもらってお手入れしつつ、大事に使い回している。

 

www.infernalbunny.com

 

なお、大事にというのは愛着があるという意味であって、扱いはシルバー925素材の厚さ・頑丈さに甘えてめちゃくちゃ雑です。あちこちにぶつけるのですでに傷だらけだし、雨にも濡らすし汗水がついても放置しがち。

 

 

しかし1年半使い倒して、多少のデメリットも判明してきたところである。まず、なんといっても重たい。メッキではなく地金をたっぷり使っているのだから当然である。わたしはADHD由来の感覚過敏を持っているが、基本的には軽度だと思っている。重度の人はそもそもアクセサリーなどつけられないし、メイクもできないと聞く。わたしは軽度なのでアクセサリー(しかも大ぶりのやつ)が大好きだが、一日中外出した帰りの電車内では流石に疲れて重たく感じて外してしまうことが多い。外出先で着脱をしていると紛失リスクが高まるし、一日中つけていられるもっと軽いバングルも1個欲しいという気持ちが生じた。

2個目のデメリットは、夏に蒸れることである。ボーンカフは幅広の金属が肌に密着する造りなので、汗っかき体質ではないわたしでも、暑い時期は多少の蒸れを感じる。汗がつくとシルバー925の黒ずみも加速する。

3個目のデメリットは、ブランドカラーが強すぎることである。ボーンカフはティファニーのアイコニックな看板商品であり、ファッションに詳しい人はすぐそれとわかる。ブランドまではわからなくても、オール金属製のごついバングルなのでなんか高そう感が出る。そして、なんか高そう感丸出しのアクセサリーをつけて行きたくない場というのもあるわけですよ。具体例を挙げることはしないが。しかし右手になにもつけないのは嫌なのである。着道楽としては、左手首にはメンズサイズの腕時計をつけるので右手首にもある程度ボリュームを出してバランスを取りたいのだ。さらにわたしは右手首に古い自傷痕があるので、人をぎょっとさせないための配慮として、なにかしらアクセサリーをつけて目くらまししておきたいのである(10年以上前のごく薄い傷なので、リストバンドのように完全に隠蔽できなくてもいいが、薄っすらマスキングしていてほしい)。

 

以上3つのデメリットが念頭にあり、新しい大ぶりバングルは薄っすら探していたのである(大ぶりがいいのはわたしの趣味嗜好)。

 

 

 

2.古着屋・メモリーメメントリメンバランスについて

そんな中見つけたのが、東京都・恵比寿の古着屋メモリーメメントリメンバランス(Memory Memento Remembrance)のアクセサリーである。

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by メモリーメメントリメンバランス (@memory_memento_remembrance)

www.instagram.com

 

アクセサリーに関しては後述するとして、まずはメモリーメメントリメンバランスについて紹介する。

メモリーメメントリメンバランスは2024年5月にオープンしたばかりの古着屋。不定休営業で、恵比寿駅から徒歩10分、代官山駅から徒歩15分くらいの、坂道を上った住宅街にある。オーナーさんによると服はほとんどフランスから仕入れているそう。1970年代から90年代くらいのヨーロッパのスポーツウェアが得意ジャンルらしい。わたしはこの辺のジャンルに詳しくないので、興味がある方は実店舗開店前の取材記事やインスタグラムの紹介文を見てみてください。

 

dig-it.media

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by メモリーメメントリメンバランス (@memory_memento_remembrance)

www.instagram.com

 

そんなメモリーメメントリメンバランスには、日本人にはやや馴染みの薄い非欧米圏の国のアクセサリーも数多く並んでいる。

たとえばこれはインドのビーズネックレス。1800年代から1900年代の品らしい。1980年の間違いではなくて1800年である。もはや博物館に並ぶやつではないだろうか。

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by メモリーメメントリメンバランス (@memory_memento_remembrance)

www.instagram.com

 

これはネパールの、なんと蛇の背骨でできたビーズネックレス。わたしが訪問したときには売り切れていたが、見てみたかった。

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by メモリーメメントリメンバランス (@memory_memento_remembrance)

www.instagram.com

 

店頭にはほかにも、マリ(西アフリカの共和国)から出土した14世紀から15世紀ごろの石のネックレスもあった。もはや「生産」とかではなく「出土」なのである。博物館に飾っとかなくていいんだろうか。これらの珍しい品々は、日本のビーズコレクターと交渉して仕入れたものだそう。わたしはビーズアクセサリーには詳しくないが、大変貴重なものであることは間違いない。

 

ちなみに、店頭のこれらのアクセサリーには値札がついていなかった。値段はオーナーさんに質問すると答えてくれる。個人経営の古着屋に慣れていない人にはややハードルが高い仕組みだが、オーナーさんは話しやすい方でした。明らかにメイン客層ではない格好をしているわたしにも丁寧に説明してくださった(客じゃないと判断したらシカトしてくる古着屋さんとか、たまにいるからね。個人店には客を選ぶ自由があるので店主の方針次第である)。試着もOKだそう。

メモリーメメントリメンバランスのだいたいの価格帯は、オンラインショップを参考にするといいと思う。古着屋としてはごく常識的な価格帯だと個人的には思う。

 

memere.theshop.jp

 

 

 

3.Gerda Goosenのヴィーガン象牙アクセサリーについて

さて、そんなメモリーメメントリメンバランスが仕入れているのが、Gerda Goosenのヴィーガン象牙アクセサリーである。現時点では日本で取り扱いがあるのはここだけだそう。

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by メモリーメメントリメンバランス (@memory_memento_remembrance)

www.instagram.com

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by メモリーメメントリメンバランス (@memory_memento_remembrance)

www.instagram.com

 

現時点で日本語で読める説明も、おそらく上記インスタ投稿が唯一である。

Gerda Goosen Jewellyの公式サイトはこちら。

 

www.gerdagoosen.com

 

わたしの英語力でわかる範囲の情報としては、Gerda Goosen氏は南アフリカ共和国のケープタウン在住のアーティスト。伝統的なアフリカのトライバルジュエリーにインスピレーションを受け、自らの視覚言語に翻訳した作品を制作している。また、イタリアのデザイナーのマッシモ・ヴィネッリにも影響を受けている。マッシモ・ヴィネッリはモダニズムを典型的に表した作風で知られる。Gerda Goosen氏は、いわゆる原始的な表現を基に、モダンな表現を加えたものづくりを志向しているようだ。

 

アクセサリーの多くは、オリジナルレシピのヴィーガン象牙で作られている。見た目は象牙に似ているが動物性成分は不使用で動物実験も行っておらず、PeTA認証(アメリカの動物愛護団体People for the Ethical Treatment of Animalsによるヴィーガン認証)を取得している。詳しい成分は非公開の模様。

Gerda Goosen Jewellyのオンラインショップは不定期に期間限定でオープンしているようだ。配達業者はDHLで、日本への発送にも対応している。

オンラインショップがクローズしている期間も、作品は公式サイトや公式インスタグラムで見ることができる。価格は意外にも180ドル前後で、日本円にして30000円ほど。作家もののジュエリーとしては非現実的な値段ではない。

 

アクセサリーで目を引くのは、大胆な大きさである。大ぶりアクセサリーが好きなわたしも、ここまで大きいものはつけたことがない。

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by Gerda Goosen (@gerdagoosenjewellery)

www.instagram.com

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by Gerda Goosen (@gerdagoosenjewellery)

www.instagram.com

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by Gerda Goosen (@gerdagoosenjewellery)

www.instagram.com

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by Gerda Goosen (@gerdagoosenjewellery)

www.instagram.com

 

原初のアクセサリーの役割は、魔除けや権威の誇示であったと言われている(現代でも一部にはそうだ)。Gerda Goosen Jewellyの桁外れなサイズ感は、プリミティブジュエリーのダイナミズムを思わせる。

 

 

 

4.バングルを使ってみた

わたしが購入したバングルは33000円の品である。

 

 

大きさの割には軽く、重さは77グラム。ちなみにボーンカフは59グラムなので実はボーンカフより重いのだが、不思議とボーンカフより煩わしくない。ボーンカフのような手首にぴったり密着するデザインではないので、空気が通るぶん軽い気がする(?)。蒸れないので暑い夏も快適そのものだ。

夏だと、日焼け止めや汗・皮脂が付着するのが気になるところではある。公式サイトによると、手入れは湿らせた布で拭くか冷水ですすぐようにとのこと。水で丸洗いOKなのは嬉しい。ますます材質が気になるところだが、触ってみてもまったく謎である。わたしは本物の象牙に触ったことがないので、象牙との比較はできないが、見た目は素人目にはかなり天然素材っぽく見える。表面には樹脂のようなツヤがあるが、もちろんプラスチックとは質感が違う。よく磨かれた木材のような風合いもあるが、明らかに木製ではない。ちょっと爪で引っ搔いてみると、傷とまではいかないが白い筋っぽいものは生じる。モース硬度は2から3の間のようだ(ちなみに象牙のモース硬度は2.5)。

一般的な人工象牙はカゼイン(牛乳に含まれるタンパク質の一種)を加工したものが多いようだが、ヴィーガン処方ということなら牛乳は不使用のはずだ。黒色の層とアイボリーカラーの層の間にはわずかな引っかかりを感じるので、なんらかの黒い樹脂と白い樹脂を用いて模様を作っているのは間違いないだろう。

耐久性は高いようで、公式サイトには「お手入れすれば何年も楽しむことができます」とある。メモリーメメントリメンバランスのオーナーさんも、ヘビーユースしているが問題はないとのこと。

 

プリミティブジュエリーの文脈にあるアクセサリーを買うのは初めてだったが、手持ちのアクセサリーとの相性も思いの外よかった。わたしは、手持ちの中だとSAKAの指輪かトルコのハンドクラフトの指輪と合わせるのが気に入っている。

SAKAは京都のジュエリーブランドで、Wearable Sculpture(着る彫刻)をコンセプトとし、時代を問わない普遍的な造形美を追求している。前から好きなブランドだったが、このバングルと非常に相性がいいのには驚いた。SAKAのシルバーはいかにも近代工業的な鏡面仕上げにロジウムでコーティングまでしているが、プリミティブジュエリー由来のバングルと見事にマッチしている。SAKAのタイムレスな造形とGerda Goosen Jewellyのモダンな要素の勝利だろう。

 

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by SAKA (@saka_intl)

www.instagram.com

 

トルコのハンドクラフトの指輪も、古着屋(メモリーメメントリメンバランスとはべつの店)での名づけはModern Design Silver Plated Ringだった。傷がついたシルバーメッキのクラフトマンシップとモダンな要素がGerda Goosen Jewellyにマッチしていると思う。

 

 

 
 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A post shared by end 代官山 - vintage & antique - (@endvintage)

www.instagram.com

 

指輪は過去記事で詳しく紹介しています。

 

www.infernalbunny.com

 

www.infernalbunny.com

 

 

 

5.象牙利用の歴史

ヴィーガン象牙というプロダクトは、本物のゾウを殺傷して採取する従来の象牙の歴史を抜きには語れないだろう。

象牙は文字通りゾウの牙(上顎第二切歯が発達したもの)であり、硬すぎず柔らかすぎず切削加工が容易なことから、古来より彫刻などの美術品から武器、楽器、装身具、日用部品に至るまで幅広く利用されてきた。日本においても珊瑚やべっ甲とともに珍重され、明治期には殖産興業の一環として象牙工芸品が盛んに輸出された。日本の民族衣装たる着物の根付も多くが象牙であった。高度経済成長期においては印章(はんこ)としての需要が高まり、日本は世界有数の象牙輸入国であった。1980年代にはアフリカゾウが半減するほど象牙が乱獲されたが、その67%を日本が消費したとの指摘もある(出典:【取り組む課題】絶滅に向かうアフリカゾウ|NPO法人アフリカゾウの涙)。マンモスやナウマンゾウが太古の昔に絶滅して以降、日本に野生のゾウは生息していないが、象牙を積極的に消費し時に国威・国策とも結びつけていたという点において、日本は人類の象牙利用の歴史に深く関わっている。

 

www.nationalgeographic.com

1990年に象牙の国際取引が禁止されて以来、日本は国際市場再開に向けて働きかけてきた。1999年と2008年には、国内の在庫を補充するため、一時的に象牙を輸入する権利を獲得した(カリフォルニア大学バークレー校とプリンストン大学の研究者らの報告書によると、2度目には中国も参加し、それが最近のゾウの密猟と象牙密輸の急増につながったと考えるのが最も妥当であるいう)。

 

「1989年の禁止措置撤廃運動をリードし、ゾウの大量殺戮を再び招いたという点で、日本には重大な倫理的責任があります。CITESの承認を得て2度にわたり象牙輸入を行い、禁止措置を撤回したことは最大の過ちであり、大々的な密猟が再燃するきっかけを作ってしまいました」

 

現在、日本の象牙産業は「地球上で最大」であると、ソーントン氏は指摘する。中国国内には、取引禁止前に170カ所の象牙販売店があったが、日本には8200店舗、300の製造業者、500の卸業者が存在する。

 

1989年、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)が制定され、象牙の国際取引は原則禁止されたが、細かい規則は国によって異なり、法の抜け穴や違法市場も根強く存在し、問題は一筋縄ではいかないようだ。

そもそも、象牙原産地であるアフリカ諸国でも、政治的・経済的状況の違いによって利害は対立している。ゾウの生息数が少ない北部・東部・中西部アフリカ諸国は、密猟を防止するために強い規制を求める一方で、ゾウが比較的多く生息し獣害が発生している南部アフリカ諸国は、象牙を自国の自然資源と捉えて規制緩和を要求している。このような対立が生じるのはよく考えれば当然のことで、わたしのような日系日本人はアフリカ諸国に馴染みがないためひとまとまりの地域であるかのように感じてしまうが、「アフリカ」はそもそも国名ですらない。言語も文化も異なる多種多様な国々で構成された大陸名なのだ。国同士で考え方が異なるのは当然であろう。

 

「アフリカ」を構成する国々は多様であるのに、紛争・貧困・エイズ・奴隷制など凝り固まったイメージで語られがちなことは、ナイジェリアの作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェが2009年の有名なTEDスピーチで「シングルストーリーの危険性」と題して批判している。

 

www.ted.com

The consequence of the single story is this: It robs people of dignity.

It makes our recognition of our equal humanity difficult.

 

シングルストーリーの結果は “人間の尊厳を奪う” のです。

我々人間の平等の認識を困難にします。

 

シングル・ストーリーとは、他者に対して無意識に抱いてしまうステレオタイプの物語のことである。アディーチェは19歳で大学入学のため渡米するが、「アフリカ」から来たと言っただけでルームメイトに憐憫の目を向けられる体験をする。ルームメイトの中にはアフリカに関するネガティブなシングル・ストーリーしかなかったのだろう。さらには、「雄大な大自然」「サバンナのユニークな動物たち」といった一見ポジティブなシングル・ストーリーであっても、現代のアフリカ諸国においては多くの人が近代的都市で暮らしている現実を覆い隠すという問題がある。それは、西洋植民地主義がアフリカの人々を野獣に近いものと見なした差別的なアフリカ人像と紙一重である。ネガティブなものであれポジティブなものであれ、シングル・ストーリーは、差異に満ちた複雑な現実を、単純でわかりやすいただひとつの物語に還元してしまうのである。

 

6.SNSで加速するシングル・ストーリー──世界からのサプライズ動画、インプレゾンビ、and more

アディーチェの講演から15年が経った現在、インターネットやSNSのますますの発達により、日本人が得られる「アフリカ」情報は多少増えたようにも感じられるが、わかりやすいシングル・ストーリーは今も跋扈している。

 

newsphere.jp

近年、アフリカ各国の経済成長に伴う注目度や影響力の拡大、インターネットやSNSの普及でアフリカの地元メディアや若者たちが発信機会を獲得したことによるアフリカ関連情報の多様化、欧米などのアフリカ系の社会的・文化的存在感の増大といった変化を背景に、アフリカの物語は多様化しつつある。またCNNなど欧米メディアの発信内容も多様化が進み、若き起業家の活躍や、アフリカ発のイノベーションといった明るい物語も少なくない。一方で、エボラ出血熱やボコ・ハラム、ナイロビでのテロといった問題が浮上するたび、「アフリカ=問題」という図式が再構築されがちな現状はいまだに存在する。世界各国が同様に直面するコロナ危機に関しても、危険なシングルストーリーが見え隠れする。

 

日本語圏インターネットに日々触れているわたしからすると、シングル・ストーリーは、出来事を限られた文字数で「面白い話」や「共感を呼ぶ話」や「美談」にまとめようとする圧が働くSNSにおいてはむしろ強化されているようにも感じられる。

近年の日本語圏インターネットで耳目を集めた「アフリカ」の話題の一つに、「世界からのサプライズ動画」なるサービスがある。任意のメッセージを送信すると、アフリカ系の人々が片言の日本語で読み上げて踊る動画を作ってもらえるサービスで、2022年ごろに日本語圏インターネットで話題になった。SNSでは面白動画としてバズを起こし、大手メディアも好意的に取り上げる中、先陣を切ってまとまった形の批判的検討がなされたのは2022年4月に日刊サイゾーに掲載された記事「アフリカ系外国人から「おめでとう」が届く…バズりまくる“サプライズ動画”が抱える差別問題」においてである。

 

www.cyzo.com

 

同記事では、『野蛮の言説 差別と排除の精神史』の著者でありアフリカ系文化の有識者である中村隆之に取材を行い、このサービスの差別的な要素を整理している。

 

「結論からいえば、この動画は明らかに“見世物”です。こうした動画を楽しんで消費する人たちにとって、画面の中で起きていることは、自分たちが生きているリアリティとは完全に切り離されている。なぜこれを『面白い』と感じられるのかといえば、自分たちが多数派であり安全圏にいて“見世物”を見ているからなのではないでしょうか」(中村氏)

同時に、人気プランである「黒人マッチョ」のような書き方・くくり方にも問題は潜んでいる。

「こうした表現のもとに提供されるサービスを消費するとき、私たちの価値観には『アフリカの人はマッチョなんだ』『ウクライナにはきれいな人が多いんだ』といった反応が刷り込まれます。2020年6月にNHKの番組アカウントがブラック・ライブズ・マターについて解説するアニメ動画をツイッターに掲載した際、マッチョな黒人男性という表象を用いて問題視されました。こういったステレオタイプを再生産することは、私たちの先入観を強めることにつながります」

 

出典:アフリカ系外国人から「おめでとう」が届く…バズりまくる“サプライズ動画”が抱える差別問題|日刊サイゾー

 

ここで指摘されているのはまさに、ステレオタイプなシングル・ストーリーが現実の多様性を覆い隠す構造の問題点である。

「世界からのサプライズ動画」運営である一般社団法人WORLD SMILEは、この動画の収益が現地の人々の生活を助けていることをたびたび強調している。

 

 

 

とりわけ話題を呼んだのは、出演者である屈強な黒人男性が元々は傭兵であり、「世界からのサプライズ動画」の仕事のおかげで危険な傭兵仕事を離れることができたという「美談」である。しかしこれもよく考えれば、現地が仮に貧困・紛争地域であったとしても、雇用が傭兵仕事かサプライズ動画かの二択しかないというのは考えにくい。シングル・ストーリーに基づいた恣意的な切り取りが行われているとみたほうが自然であろう。記事でも指摘されている通り、サプライズ動画の収支も不透明で、出演者にどれだけの額が還元されているのかも不明である。なお、「現地」とは主にザンビア共和国とマラウイ共和国らしいが、広報においては「アフリカ」と一括りにされている。

 

アフリカにまつわるトピックとしては、つい最近の2024年5月、X(Twitter)で無意味なリプライな投稿を繰り返してインプレッションを稼いで収益を得るアカウント、通称「インプレゾンビ」が話題を呼んだのも記憶に新しい。中でも大きな反響を呼んだのは、「インプレゾンビ」がスパム投稿をやめて現地の日常生活を発信して人気者になった事例である。

 

www3.nhk.or.jp

 

元インプレゾンビの一人であるKen chan氏は、奇しくもアディーチェと同じナイジェリアの人であった。彼に対する日本のネットユーザーの気まぐれな注目もまた、サプライズ動画を見世物として面白がる視線と地続きではあるはずだ。コンテンツ内容に可変性がないサプライズ動画とは違って、Ken chan氏の場合はリプライやDMで関与することすら可能であり、日本語に不慣れな外国人を面白おかしく「操作」できる参加型コンテンツとしてバズっている側面は絶対にある(アフリカ系外国人と日本のネットユーザーの「蜜月」としては、カメルーン人のKongbo氏の先例がある)。しかし、出演者個人が発信を行わず完全な客体としてまなざされるサプライズ動画と違って、Ken chan氏が名前のある主体であり、双方向的なコミュニケーションの可能性がひらかれていることは大きな違いである。「アフリカ」と一括りにされない、生の「ナイジェリア」の情報をもたらすインフルエンサーの登場は、シングル・ストーリーを打破する手段にもなるが、それもこれも込みで「アフリカの貧困国の平凡な青年がスマホとたどたどしい日本語を武器に人気者になった美談」としてまたしてもシングル・ストーリーの一部として消費される可能性もある。どちらに転ぶかは、わたしたち一人一人のリテラシーにかかっている。