敏感肌ADHDが生活を試みる

For A Better Tomorrow

金木犀のハンドクリームに課金して秋を乗り切るのこと

 

 

 

とある日曜日の午前10時ごろ、とくにきっかけもなくふっつりと糸が切れて、秋晴れの陽光が差し込む部屋で、声もなく横たわっていた。ひとが糸の残機をうしなうのは、冬の明け方だの、雨天の深夜だのといった、いかにもそれらしい時間帯に限るわけではないと実感する。普段は吸わない煙草を欲するのはこういうときで、一本吸ってしまおうか、いや一人暮らしのときとは違ってひとんちを汚すわけにはいかない、そもそも猫に残留成分を嗅がせていいのか、吸い終わったらすぐシャワー浴びて洗濯しなきゃ、などと迷っているうちに気力を見失う。理性の残滓で薬を噛み砕いて、また横になる。こういう風に一つずつ終わっていくんだろうか。好きなもの、やりたいこと、煙草の灰みたいにもろく崩れて、手元からこぼれ落ちていって、しまいにはなにも思い出せなくなるのか。

 

だから書き記しておく。思い出せなくなったときのために、わたしの愛するものを。

たとえば煙草。副流煙を出す心配のない自室で、自らの意思で摂取するときの煙は悪くない。わたしの場合、煙草で摂取しているのは煙ではなくて空気そのものだ。うまく燃焼させるためには、息を吸いすぎても吸わなさすぎてもいけないから、必然的に呼吸が整う。灰を灰皿以外の場所に落とさないようにするために、動作は慎重になる。そもそも火という危険物を持っているのだから、わたしの神経は手元に集中する。わたしの身体は、息を吸う、吐く、適切なタイミングで灰を落とす以外の働きを封じられる。束の間、わたしは呼吸となり、呼吸はわたしとなり、それ以外の雑念──たとえば希死念慮──は遠ざかる。この作用以外、喫煙のメリットは特にないので(個人の意見)、いずれ違法になるんじゃないかなあ。世界から煙草が消えたときのためにも、書いておいてよかったかも。

 

 

 

わたしの喫煙量は半年に1回といったところなので、煙草が滅んでも、今のところ差し支えない。でも、なにかに依存せずにはいられない性向ってどうしようもなくあるものだし、アルコールとかギャンブルとか違法薬物とか、より地獄に近い選択肢に絡め取られる前に、もう少しソフトなワンクッションがあればいいのにとは思いますね。侮蔑して切断処理している場合ではなく、社会全体としてどうケアしていくかを考えるべきだと思います(他人事みたいに書いてますが、自分が無関係だとは思わない。今はまだなににもハマっていないだけです)。ただし煙草はやっぱりよくない(他者にまで害を与えるから)。

なお、ここでいう「依存せずにはいられない性向」とは、誘惑に弱いという意味ではなく、集中力の出力に不全があるから目の前のことに集中するためには別のなにかでほどよく気を散らしておく必要がある、くらいの意味だと思ってください。「誘惑のもとをきっぱり断つ」では解決しないほうの気質のことです。いうまでもなく、発達障害含むメンタルヘルスの障害・疾患と大いに関係がある話です。ほんとうに、他人事ではないのだ。

 

床に日が差している。

 

 

 

***

 

もう少し万人向けの香りの話をしようか。

改めて、親愛なる読者の皆さま。いずれ死にゆく者たちよ。清潔なベッドで眠るように逝くのか、反吐にまみれたあげく床の黒いシミと化すのかは知らないが、いずれ等しく灰になる魂たちよ。わたしは今年、「秋」そのものに課金したから、見てほしい。

 

ハンドクリームを持っている。

 

生活の木の、キンモクセイのハンドクリーム。60グラム1800円。秋季のみの限定発売。

秋は、さまざまなブランドがこぞって金木犀の香りのスキンケアやバスグッズやフレグランスを発売するが、どれもだいたい期間限定・数量限定だ。おそらく、金木犀の香りが、秋という季節にわかちがたく結びついているからじゃないかと思う。技術の進歩で、たいていの花や果物は季節を問わず手に入るようになったが、金木犀は食べられないし切り花にも向かないからか、農場のような場所で人工的に栽培されているイメージは薄い(あくまでイメージの話ね。キンモクセイ農場、調べたらちゃんとあります)。道端だの公園だの個人宅の庭だのにひっそりと植わっている姿がしっくりくる。秋という、ただでさえ短い季節の、短い期間にだけ人々の意識に上る花。桜みたいにナショナリスティックな寓意を背負わされることもなく、ただただ風物詩として咲いて、芳香を放って、ひっそりと散る。まさしく秋の化身

 

生活の木のハンドクリームは、とりわけ天然の金木犀に近い香りであると聞いて購入。都心の直営店やオンラインストアでは8月7日の発売直後に完売したらしいですが、うちの近所のショッピングモールでは9月中旬でも普通に買えました(郊外や地方の密かなメリット)。バラエティショップなどを探せばまだあるかもしれません。

 

公式サイトとパッケージ裏はこちら。

 

www.treeoflife.co.jp

 

パッケージ裏の製品情報。

 

出してみると、シアバター特有の白さがありますが、塗り伸ばせば気にならない程度でした。

 

ハンドクリームを手に出したところ。

 

肝心の香りは、たしかに本物の金木犀にかなり似ている(他ブランドの商品と比べて近いかは知らない)。開封直後はやや刺激的に感じたが、3日ほど経ったらまろやかになった気がします。空気に触れてなんらかの成分が揮発したのか、わたしの鼻が慣れたのかは不明(後者かも)。最初キツく感じても、塗る量を調節したりしつつしばらく使ってみるのといいかもしれません。とはいえ感覚過敏の方は無理せずに、体調と相談しつつ。

 

ハンドクリームなんて、どうせワンシーズンでは使い切れないのだから、本当はどの季節にもマッチする香りを選んだほうがいいのかもしれない。でも今年は、秋一点突破で課金することにした。なんとなくそういう気分だったから。秋は気温や気圧が不安定で、メンタルヘルス弱者にはつらい季節だから。

生存するのだ。この秋を生きるのだ。この買い物は、決意の証。といいつつ、今日も鬱でへばっているのだけども。ハンドクリームでも塗りながら、じっと耐えている。

 

ハンドクリーム本体と容器がカーテンから漏れる日に照らされている。

 

 

 

 

質問くださった方ありがとうございました!

 

 

 

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