友だちから手紙が届いているのを発見すると、嬉しさのあまり、その場に立ったまま手でビリビリ開封してしまう。
そこで、自宅のポストの中にはさみを設置した。
これで、封筒をビリビリにせずに済む。
手紙は革命だ。
歳を取るとは、世界の移ろいやすさを知っていくことだと思う。夏休みは終わる。友情は壊れる。恋人は去る。変わりゆく世界に対して、一個人はあまりにも無力だ。信じられるものはなにもなく、時には自分自身ですら、意志の制御を離れて暴走する。
封筒の中には、過去しかない。数日前の言葉を標本にして送りあうこと。容赦ない時間の流れに対する、変わりゆく世界と自分自身に対する、これはささやかな反逆だ。あなたとわたし、二人揃ってこそできる反逆。二人で作る、世界のバグ。二人で世界を狂わせられるのだという夢を見ながら、あなたとわたしは、それぞれの場所で生きていく。
手紙は革命だ。