連作 「病いと暮らす」
死にたいと言はれ死にたいねと返す 圧力鍋には初日のカレー
楽天の家族カードはわたくしを配偶者様と呼んでゐるらし
ずつと家事代行に丸投げしてたから人生のことはわからないらしい
どこのご家庭にもある軟膏があるとは限らない家庭ぢやないから
すみませんわたくし他人と申しますが家族割とか受けられますか
白菜を山ほど寄越したご母堂はうつを心の風邪と呼ぶタイプ
故郷ではない場所にふるさと納税し故郷ではない場所で受け取る
おまへが泣きわたしが怒る日もミヤネ屋は月から金までからから笑う
インドにて単身赴任のフォロワーと同じ即席麺を食む午後
スーパーの切り花コーナーにも仏花以外があつたよチューリップとか
イオンにはこの世のすべてがあるらしい イオンにないなら非実在らしい
労基法を遵守しているわけがない謎ブランドの天ぷら旨し
柿を食べませんかぢやなく食べたいとお言いなさいな剥くのはわたし
人並みができぬということ躁うつであるということ 漬け丼を食ふ
職歴に書けない人生経験と洗濯物がうづたかく積まれ
生きてゐてほしいと願う願うだけ 大根を切る鶏ももと煮る
「雪国の出身だから濃い味が好き」うるせえよ卒中で死ね
帰つたら鍋がありますあたたかです二人のための社会鍋です
午前二時おまへに来客の気配あり死神ぢやないなら食欲でもいい
馬鈴薯の芽を取る捨てる死はいつもおまへのそばに捨てかねてある