そこは分煙の居酒屋で、19歳はハツモトの唐揚げをつつきながらジンジャーエールをちびちびと舐めていた。

また19歳と会った。

 

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夏、一緒に演劇を観に行った彼である。

 夕食の最中、19歳はふと言った。

「おれ、煙草吸う人大嫌いなんですよね。もし友だちが喫煙者だったら、知った時点で縁切ります」

 

ーー暖色の照明の下で、利発な瞳はいつものようにくるくるとよく動き、牛脂で潤った唇に似て、油を流したかのごとく光っていた。

 

彼にわたしの気持ちはわからない。

昔、バイト先でのわたしは、大酒を飲み煙草を吸い肉を山ほど焼き、挨拶は大声で笑顔は常に絶やさず、卑猥な冗談に耐え、書くことのできないようなことにも耐え――そうやって生き延びてきたわたしの気持ちなど、彼はわからないままでいい。そうしなければ生きていけない場所があることなんて、わかる必要はないのだ。わたしの代で終わらせるのだから。

煙草を吸わなければ生き残れないコミュニティというものは、2018年の今も存在する。生き残れない、という表現がしっくりくる。煙草を吸わなくてもべつに殴られはしない。あからさまに咎められることもない。しかし、真綿で首を絞めるようにじわりじわりと呼吸を塞がれ居場所を削られ、緩慢な死に追いやられる。

 

19歳が味わう必要のないことを、味わわないままで終わらせる。“それ” の息の根を止めることは、わたしたちの権利であり義務だ。

 

歳若い友の眼に映る世界が少しでも美しくあるようにと祈る爽秋、19歳は、ついに20歳の誕生日を迎える。ノンアルコールでないカクテルを奢る約束をしている。

 

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