麻布台ヒルズは、東京都港区に位置する大型複合施設である。
ハイクラスな商業施設のほか、オフィスや住宅、医療施設、文化施設、インターナショナルスクールなどを擁する7棟の建物から成る。最も高い麻布台ヒルズ森JPタワーは地上64階にそびえ立ち、あべのハルカスを抜いて日本一高い高層ビルとなった。運営元は日本を代表する不動産会社の森ビル。同じく森ビルの所有物である六本木ヒルズは名前を聞いたことがある人も多いだろう。2003年開業の六本木ヒルズは気鋭のITベンチャー企業が軒を連ね、楽天の三木谷浩史や元ライブドアの堀江貴文ら若き成功者は「ヒルズ族」としてもてはやされた。六本木ヒルズ開業から20年以上経過した現在、セレブのアイコン的地名としての「六本木」はさらに範囲を広げた「港区」に取って代わられ、「タワマン文学」や「港区女子」といったチンケな概念に化けて庶民の冷笑を浴びている。流行語がヒルズ族から港区女子へと聞くとずいぶんスケールダウンしたように感じるが、本物の富裕層はSNSでなんと呼ばれようが屁でもなく、今日も粛々とビジネスに邁進しているのだろう。港区の麻布台~虎ノ門~六本木にまたがって所在する麻布台ヒルズは、黄昏の経済大国が地平線に没する前の最後の輝きとばかりに2023年11月24日、華々しく開業した。買い物が大好きで日々資本主義情報にまみれている身としては行くっきゃないわけです。
最寄り駅には早速看板があります。緑溢れる広場に集う多様な人種の人々の姿は、コンセプトの「緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街−Modern Urban Village−」を表現していると思われる。これが令和最新版のダイバーシティだ。
わたしが訪れた日は看板の写真通りの快晴。珍しく東京に雪が降った翌々日であり、道路や広場は溶け残った雪に彩られています。
なお、開業は2023年11月だが、テナントはまだオープンしていないものが多い。とりわけ、カルティエやエルメスなどのハイメゾンの多くはまだ工事中である。2024年春に開業予定とのこと。
ハイメゾンは工事中の覆いまでお洒落です。Diorの覆いは、昨年話題を呼んだ東京都現代美術館のDior展で見たやつだ。
ボッテガヴェネタの覆いは、近年のボッテガのヒット商品であるカセットバッグの写真。2023年にウィンドウショッピングをしているとカセットバッグのパクり商品を見ない日がなかったですね。あとMM6のジャパニーズバッグのパクりも。
エルメスは、このエリアに住んでる人なら行きつけの店がすでにある人が多いと思うけど、インバウンド狙いでいくんでしょうか(※エルメスは高額商品の販売にあたっては実質上の担当制システムを敷いているので、決まった店で決まった店員から買い物したがる人が多い)。
文化面での目玉としては、チームラボのデジタルアートの常設展がある。わたしが行ったときはまだ開店前だった。
また、2024年3月まで研究者/現代アーティストの落合陽一による体験型インスタレーション作品も展示されている。「ヌル庵:騒即是寂∽寂即是騒」と題されたサイバーな空間はなんと茶室で、実際にお茶やお菓子もいただけるらしい。
港区のヒルズ3つのうち、六本木ヒルズは森美術館と映画館を擁し、虎ノ門ヒルズは蜷川実花の展覧会、そして麻布台ヒルズはチームラボと落合陽一……と、なんだか時代が下るごとに文化偏差値が下がるのは、日本の斜陽っぷりの暗喩なのでしょうか。
森美術館に行った話はこちら。
テナントは、先述したようにハイブランドの多くがまだ準備中のため、タワープラザという奥のほうの棟にある店しか開いていないのですが、このタワープラザというのが入口からけっこう遠い。なにもない道を延々と歩かされる。
歩いている間は、お客さんたちのバッグをチラ見するくらいしか娯楽がありません。流石港区、高級品を身につけている人が多いこと多いこと。カジュアルな帆布っぽいバッグでもよく見るとA.P.C.のロゴがついてたりする。しかし、30代40代っぽい人がステラマッカートニーのファラベラやエルメスのピコタンを持っているのはいいとして、20代前半っぽい若い人のCHANELのマトラッセ率はなんなんだよ。新宿でいうディーンアンドデルーカのトートバッグくらいよく見るんだが。
タワープラザは、オフィスウェアのTheoryや香水のNOSE SHOPといった、庶民にも多少馴染みがある店もあって一息つけます。セレクトショップのパリゴとユナイテッドアローズは、ルミネなどに入っている店舗よりも高価格帯商品多め。パリゴはMM6メゾンマルジェラに注力しているそうで、にわかマルジェラ好きとしては嬉しい。
なおコスメショップがほとんどないのがファッションビルとしては珍しい印象。タイコスメのタン(THANN)や香水のNOSE SHOPはあるが、一般的に想起されるデパコスブランドは出店していない。
庶民的一番の見どころは、34階のスカイロビーでしょう。オフィス棟っぽい建物に所在しており若干の入りにくさがあるが、正真正銘無料入場可のパブリックスペースである。
直通エレベーターで昇っていくと、うめはんの上階みたいな座れる階段があります。その階段を少し下りると……
絶景だーーー!!!
これは夜来たら綺麗だろうな。
東京歴4年ですが、方向音痴で土地勘ゼロなので景色を見てもどこがどこやらわかりません。たぶん有名な建物がいっぱい見えてるんじゃないかな。物知らずすぎて、左方向に見えていた赤いでっかい塔が東京タワーであることもあとから気づく始末。どうりで赤い塔がよく見える付近は混んでると思ったよ。
批評家の谷頭和希氏は、麻布台ヒルズから見えるのが奇しくもスカイツリーではなく東京タワーであることなどから、麻布台ヒルズから眺める東京の風景がシティ・ポップの世界観と類似していることを指摘している。
もちろんシティ・ポップの世界の東京は今や存在せず、そこにあるのはノスタルジックな幻想としてのTOKYOである。令和最先端の技術を詰め込んだであろう建物が巨大なノスタルジー駆動装置と化しているとは、やはりこの国に未来はないのか??(ファスト憂国)
夜(別日撮影)。谷頭氏の記事によると麻布台ヒルズエリアは実は台地ではなく窪地であり、周囲の高層ビルを見上げる形になるので、ビルが実際以上に高く見えるそう。
さて、そんな麻布台ヒルズで見られるもののうち、好きなブランドを2つ紹介して終わりにしたい。わたしはまだ買えていないのだが、前から気になっていたブランドなので思いがけず実物を見ることができてうれしかった。
一つは、鞄作家のカガリユウスケの作品。築材のパテで壁の質感を再現した革小物や、実際の建築資材を用いたアクセサリーなど、壁をテーマにユニークな質感のプロダクトを手がけている。
彩色に使われているのは一般的なペンキではなく建築用であり、厚く塗りこめたものがひび割れて経年変化していく様子も楽しめるそうで、実際に手に取って質感を感じることができてよかった。
もう一つは、CLAUSTRUM(クラウストルム)の金属雑貨。金属そのものの質感を活かしたシャープなルックスと、スマートに操作できる革新的なギミックがかっこいいブランド。
実物を見て、触ると手が切れそうな(もちろん実際には切れない)ストイックな雰囲気を味わうことができてよかった。
どちらも、タワープラザ4階のMARK'Sで取り扱いがあります。いずれ買いたいと思っている。