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少女たちは胡蝶の夢を見るか? 吉野茉莉『ヴァーチャル・プライベート・ネットワーク・ガールズ』感想

 

 

 

 

ヴァーチャル・プライベート・ネットワーク・ガールズ

作:吉野茉莉(よしのまつり)

イラスト:Coma*85(こまごめはちこ)

2020年11月13日、Kindleにて発売

 

 

読了しました。疫病が蔓延したあとの近未来が舞台のSFということで、自ずと2020年現在の社会状況が思い起こされるわけだが、作者後書きによると初稿は2017年末に書かれたとのことなので偶然なのだろう。とはいえ、仕事や学校教育が基本オンラインになっていたり、ファミレスの自動注文・自動給仕の様子など、現在の延長線上の世界として真実味があった。あらゆるものがネットを駆使してスマートに完結するようになった反面、コンビニで「お弁当温めますか」と店員が聞く仕事は機械化されずに残っていたり、どこかアンバランスな部分もあり、絶妙な不穏さが北国の霧のように漂っている。さもありなんと感じられたのは、人々のパーソナルスペースの拡大。今後現実もこのように変化していくのではないか。このような作中の空気感に呼応するように、主人公・久慈彩花が巻き込まれていく不思議なゲームにおいては、プレイヤー同士の身体接触には電気ショックという形でペナルティが課される。それはまるで、1960年代(彩花にとっては太古の昔だろう)を舞台にした映画『カッコーの巣の上で』で、精神病患者に懲罰として施されていた電気痙攣療法のように。映画の精神病患者たちは、劣悪な環境下で自由刑にも等しい扱いを受け、人格を破壊されてゆく。そこからおそらく100年前後経過しているVPNGsの世界では、あらゆることに選択する自由(および、選択しない自由)が認められている。そのような世界では人は最大限の自由を享受できる代わりに、自らのアイデンティティを何に見い出すかも自分で決める必要がある。それはそれで、若者にとっては容易ならざる世界だろう。彩花および登場人物たちはいくつもの選択をしていく。ある者は自ら望んで、ある者は選択せざるを得ない立場に追い込まれて。

読みながら連想したのは、ガールズムービーの名作『ヴァージン・スーサイズ』(1999)だった。13歳の少女セシリアが自殺を図り、医師に「人生の辛さを知る年にもなっていないのに」と諭され、「でも先生は13歳の女の子になったことはないでしょ」と返す。『ヴァージン・スーサイズ』の舞台設定は1970年代だったが、ほぼ無限の自由が保障されるようになった近未来においても、世界と自分との間に生じる擦過傷のような違和感は、若者にここではないどこかを夢見させる。彩花が生きてきた此岸と、彼女の前に提示される彼岸、どちらが幸せな世界なのか、明確な答えは提示されない。選択で正解不正解が分かれるのではなく、選んだ世界を生き抜いて正解に変えていく作業が必要―― それはまことに地道な、しんどい道のりだけれども、古今東西普遍的な、人生の真理であろう。いつだって、未来は若い人たちのためにある。子どもたちの今後に幸あれ! と強く思った。

 

 

 

 

 

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トクシュー! 2 ‐特殊債権回収室‐ (NOVEL 0)

トクシュー! 2 ‐特殊債権回収室‐ (NOVEL 0)

  • 作者:吉野 茉莉
  • 発売日: 2016/10/15
  • メディア: Kindle版
 

 

同著者の過去作『トクシュー!2 特殊債権回収室』(2016)も思い出されました。前巻が、個性豊かな元職業犯罪者チームの中から自分なりの「推し」や「推しのコンビ」が見つかるタイプの本だったので、4人が欠けることなく健在であることが早々に示される序盤からこちらのテンションはMAX。ハラハラドキドキすると同時に、懐かしい顔ぶれの活躍を見守る親戚みたいな気持ちで読んでいた。それもあってか今作は、栴檀という、十全に自己完結した成人として在ったはずの男の、思いがけないアイデンティティ探訪―― 遅い青春の物語のように感じられた。陰謀に満ちた世界で、信じられるものを見つけるのは容易なことではない。身分も、出生すらも、なにもかも偽りだとしても、今自分のこの手で掴んだものこそを信じて生きていくのだという覚悟を、栴檀の選択に見た気がする。栴檀東予はご機嫌ななめ 〜彼のための名前〜 って感じ。

 

トクシュー! ‐特殊債権回収室‐ (NOVEL 0)

トクシュー! ‐特殊債権回収室‐ (NOVEL 0)

  • 作者:吉野 茉莉
  • 発売日: 2016/05/15
  • メディア: Kindle版
 

 

『トクシュー!2』の前巻はこちら。無実の罪に落とされた天才会計士と元職業犯罪者たちのピカレスク・ロマン。Netflixあたりでドラマ化するなら、栴檀は、うっかり藤原竜也を思い浮かべてしまったらもう離れられなくなったので藤原竜也で。「と゛う゛し゛て゛な゛ん゛た゛よ゛!!!」みたいなシーンはないですけど、イタリア製の高級スーツをばっちり着こなしてもらいましょう。蘇合稔は青木崇高。零陵依束は、ちょっと線が細いですがバックグラウンドも考慮して中条あやみ。沈水亮梧は北村匠海。馬酔木由紀は、原作の掴みどころのないイメージに近いのは神木隆之介かなと思いますが、いっそ吉沢亮みたいな突き抜けた美系で観たい気持ちもある。ただならぬ因縁で結ばれた吉沢亮に翻弄される藤原竜也、めっちゃいいじゃんね。そうそう、もう一組の名(?)コンビである栴檀と蘇合には身長差があってほしいところですよね。登場人物表によると栴檀は172センチ、蘇合は177センチとのこと。藤原竜也は178センチと少し高めですが、青木崇高も185センチあるので、必要分(?)の差は確保できると思います!

 

 

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