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漫画『アスペル・カノジョ』web版第90話「餓死山」感想

 

 

 

ここ数年追いかけている漫画の一つに『アスペル・カノジョ』がある。以前にも感想を書いた。いずれ続きを書けたらいいなと思っているが、その間にもどんどん連載が進んでいくので、最新話付近の感想も短い記事にすることにしました。以前からTwitterではちょこちょこ呟いていたが、自分で見返すために一カ所にまとめておきたいので。

 

単行本未収録(現時点)の最新話付近なので、具体的なストーリーの展開には極力触れない。

未読の方の興を削ぐ重大なネタバレはしていないつもりですが、自己責任でお読みください。

 

 

第90話「餓死山」 2020年3月3日公開

comic-days.com

 

 

全16回に渡った巨編・米子の雪編が終わった直後の回。

米子の雪編は、毒親との再会をはじめとする、わかりやすく派手で重たい出来事が相次いで起こった章である。しかし、ドラマチックなカタルシスの可能性はいくらでもありつつも、安易に溜飲が下がる展開に流れなかったところがこの漫画らしかったと思う。斉藤さんのPTSDの原因を作った人物たちがスカッと不幸になったとしても、斉藤さんの苦しみが消えてなくなるわけではない。漫画の展開としての “加害者との対決編” が終わったとしても、トラウマ自体が解決するわけではないのだ。この「ままならなさ」「変わらなさ」は、発達障害・精神障害の苦痛の本質にも通じる。いくつもの「ままならなさ」がしんしんと降り積もり、ひとつの問題が解決しないうちに次から次へと新しい問題が生じて、目の前を緩慢な絶望で塗り潰すのだ。そういう苦痛を丹念に描きつつ、それでも生きていくしかない、という前向きな姿勢を常に示してきたこの作品らしい終わり方であり、最後の最後で横井が難題をひとつ突きつけられて苦悩するのも、なるほど腑に落ちる展開でした。ささやかな勝利感に浸る間もなく、人生は続いていくし、人生が続く限り新しい問題は生じるのだ。

第90話「餓死山」で横井は、その突きつけられた課題に早くも彼なりに対応しようとする。こういう、精神的フットワークの軽さとも言うべき行動力こそが彼の一番の美点であり、主人公としても作品をぐいぐい引っ張ってきた(斉藤さんに対する分析・対応の鮮やかさ!)。この稀有な能力は、斉藤さんに対してだけではなく、彼自身の内面に対しても有効なようです。斉藤さんの今後を見守るだけではなく、横井の成長物語としても、先が楽しみになる回だった。

 

 

薄雲りの空と樹木。

 

 

以前に書いた感想記事はこちら。

www.infernalbunny.com

 

第1話・第2話の無料試し読みはこちら。

comic-days.com

 

 

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