ラストノートは数時間過ぎるとリスパダールの香りになりますつまりは無臭

遠方に住む友人から誕生日プレゼントが届いた。

香水である。歴史あるブランドの名香を二瓶。

わたしが知る中で最もハイセンスな女性の一人である彼女らしい、最高のチョイス。受け取ってすぐにお礼のLINEをすればよかったのだが、せっかくだから手紙にしようと思って、数日が経った。

ある日の午後。彼女からLINEが届いていた。
「プレゼントごめんなさい。あんなの全然嬉しくないですよね。気が利かなくてごめんなさい。全部捨てていいからね。」
直後にもう一報。
「ごめんなさい、鬱で意味不明のLINE送ってました。気にしないでください。本当にごめんなさい」

―― 送信時刻は13時。平日の午後。わたしのいる都道府県は快晴。

わたしは彼女を愛している。隣人のように、姉のように、時には妹のように、同志のように。心底大切に想っている、と断言できる友人の一人が彼女だ。

あなたがそれで楽になるのなら、あなたがこれまでにくれた贈り物の類いを全部捨ててもいい。あなたからのプレゼントはわたしの宝物だから非常に残念ですが、あなたが本当に望むのなら今すぐにでもそうしましょう。だがそうでないことを、わたしは知っている。なにがあなたにこう言わせているのか知っている。

送信時刻は13時。現在時刻は15時。
今どこですか。駅のホームですか、踏切の前ですか、ビルの屋上ですか、自宅ですか。カーテンを締め切り布団にくるまり、世界に耐えているのですか。飲んだのは何ですか。適量ですか、過剰摂取ですか。何と一緒に飲みましたか。水ですかそれともアルコールですか。
曖昧な頭で見る曖昧な世界におけるわたしは、あなたのプレゼントを喜んでいなかったのですか。


―― どんな質問も無意味だ。どんな言葉も届かない時間帯というものがあり、今の彼女はそこにいる。
この時間帯に入ってしまった人間に、こちら側からできることはほとんどない。だから、伝えたい言葉は普段から言っておくしかないのだ。

簡潔に文章を作る。
「まだ鬱モードですか?プレゼント、届いてます。ありがとうございました。迷惑なんかじゃないです。とても嬉しいです。必要なら何度でも言います。嬉しいです」

香水瓶の写真を添えて、送信した。


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